ロシア連邦宇宙庁(ロスコスモス)、インターナショナル・ローンチ・サーヴィシズ(ILS)社は8月29日、通信衛星「インマルサット5 F3」を搭載した、「プロトンM/ブリーズM」ロケットの打ち上げに成功した。
プロトンMロケットの打ち上げは、今年5月の失敗以来初めて。打ち上げが成功したことで、信頼回復に向けた第一歩を踏み出した。
ロケットはカザフスタン時間2015年8月28日17時44分(日本時間2015年8月28日20時44分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の200/39発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、9分42秒後にブリーズM上段を分離した。
ブリーズMはそこから5回に分けた燃焼をこなし、打ち上げから実に15時間31分後に、衛星を分離し、予定通りの軌道へ投入した。衛星はこのあと、自身のエンジンを使って、静止軌道へと乗り移る。
また、米軍が運用する宇宙監視ネットワークも、計画通りの軌道に衛星が投入されていることを確認している。
衛星は現在、近地点高度(軌道の中で最も地球に近い点)約4341km、遠地点高度(最も遠い点)約6万5000km、軌道傾斜角(赤道からの傾き)約26.75度の、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道に投入されている。この軌道は、通常の静止トランスファー軌道より効率よく静止軌道にたどり着くことができる。その反面、ロケット側には高い性能が要求される。
インマルサット5 F3は、英国のインマルサット社が運用する通信衛星で、89本のKa帯トランスポンダーが搭載されており、同社の「グローバル・エクスプレス」と呼ばれる、Ka帯を用いた移動体向けに50Mbpsの高速通信サーヴィスを提供する。グローバル・エクスプレスは全5機からなる衛星システムで、今回打ち上げられたF3は、そのうちの3機目となる。
製造はボーイング・サテライト・システムズ社が手掛けた。打ち上げ時の質量は6070kgで、静止衛星の中では大型に分類される。設計寿命は15年が予定されている。
今回のプロトンMの打ち上げは、今年5月16日に「メクスサット」の打ち上げに失敗して以来、初となるものであった。メクスサットの打ち上げは、プロトンMの第3段が故障したことで失敗。その後の調査で、第3段にある姿勢制御用の小型ロケット・エンジンのターボ・ポンプ内にある、ローター・シャフトが破損したことが原因と結論付けられた。
ロケットを開発したGKNPTsフルーニチェフ社では、設計や素材の変更、また品質管理の徹底などの対策が行われたとされる。
しかし、プロトンMは5月の事故だけでなく、ここ数年に、1年に1機ほどのペースで失敗を起こしており、信頼性はほとんど失われている状態にある。
プロトンMは、ロシアにとって大型の静止衛星を打ち上げられる、現時点では唯一のロケットであり、また自国の衛星のみならず、外国の商業衛星の打ち上げも担っていることから、その信頼回復は急務となっている。ロシアは現在、プロトンMの後継機となる「アンガラ」ロケットの開発も進めてはいるが、完全に代替が完了するのは2020年ごろの予定で、それまではプロトンMを使い続けるしかない。
プロトンMは今後、11月までに5機の打ち上げが計画されていると伝えられており、また年内にもう1機、さらに来年1月には、欧州とロシアが共同開発した火星探査機「エクソマーズ2016」の打ち上げも予定されているなど、かなりの過密スケジュールが組まれており、ロシアの宇宙産業にとって試練のときを迎えている。
■РОСКОСМОС: КОСМИЧЕСКИЙ АППАРАТ INMARSAT-5F3 УСПЕШНО ВЫВЕДЕН НА ЦЕЛЕВУЮ ОРБИТУ
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