「アトラスV」ロケット、偵察衛星「NROL-55」の打ち上げに成功(2015)

ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社は2015年10月8日、米国家偵察局(NRO)の偵察衛星「NROL-55」を搭載した「アトラスV」ロケットの打ち上げに成功した。また、NROやNASAが開発を支援した13機の超小型衛星(キューブサット)も搭載されていた。

ロケットは、太平洋夏時間2015年10月8日5時49分(日本時間2015年10月8日21時49分)、カリフォーニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地の第3発射台(SLC-3)を離昇した。飛行の詳細は明らかにされていないが、打ち上げから約1時間半後に打ち上げ成功と発表された。

●NROL-55

NROL-55はNROの偵察衛星で、NROL-55という名前は特定の衛星の種類を表しているのではなく、単にNROの衛星の55機目の打ち上げ(Launch)、ということを意味する。また、打ち上げの順番や数字の割り振りは前後しており、これまでに55機が打ち上げられたというわけでもない。

NROL-55の詳細は一切明らかにされていないが、多くの専門家によると、「NOSS」と呼ばれる偵察衛星ではないかとされる。NOSSとは「Naval Ocean Surveillance Satellites」の略で、2機編隊の衛星で海上の船から出ている電波を捉え、その到達時間差から、発信源である船の位置を割り出すことを目的としているとされる。

NOSSは冷戦期から配備が始まり、ソヴィエト連邦の軍艦などの配備、展開状況把握のために使われた。かつてのNOSSは3機編隊で1組だったが、現在は2機1組となっている。

なお、NOSSとは非公式な名前で、正式なコードネームは「イントルーダー」であることが、2013年にエドワード・スノーデン氏がリークした米国の諜報活動に関する予算書から判明している。

●13機のキューブサット

今回の打ち上げでは、NROとNASAの支援によって、米国内の機関や大学などが開発した、計13機の超小型衛星も搭載された。

NROがスポンサーの衛星
・「エアロキューブ5c」、「エアロキューブ7」……光学通信、レーダー通信技術の実証機。エアロスペース・コーポレーションが開発。
・「SNaP-3」(3機)……新しい通信技術を試験。米陸軍宇宙&ミサイル防衛コマンドが開発。
・「プロップキューブ」(2機)……電離圏の観測を実施。米海軍大学院が開発。
・「SINOD-D」(2機)……無線通信の実証機。SRIインターナショナルが開発。

MASAがスポンサーの衛星
・「ARC-1」……打ち上げ時の熱環境や振動の計測や、姿勢制御や通信システムの実証をおこなう。アラスカ・スペース・グラント・プログラムが開発。
・「バイソンサット」……学生の衛星開発が目的。モンタナ州のサリット・クーテネイ大学が開発。
・「AMSATフォックス1」……アマチュア無線の電波を発信し、地上のアマチュア無線家との通信を実施。またMEMSジャイロの試験や低エネルギー粒子の計測もおこなう。AMSAT-NAとペンシルベニア州立大学が開発。
・「LMPST-Sat」……X、Kaバンドの無線を使った科学観測の実証をおこなう。NASAジェット推進研究所が開発。

●アトラスVロケット

アトラスVロケットは、ロッキード・マーティン社によって開発されたロケットで、ボーイング社のデルタIVロケットと共に、ロッキード・マーティン社とボーイング社の共同出資で設立されたULA社によって運用されている。

これまでに58機目が打ち上げられ、2007年に一度予定より低い軌道に衛星を投入してしまった以外は安定した成功を続けており、今回で47機連続の成功にもなった。

今回の打ち上げに使われたのはアトラスV 401と呼ばれる構成で、これはフェアリングの直径が4m、固体ロケット・ブースターを装備せず、セントール上段にRL10エンジンが1基、ということを示している。

アトラスVの第1段には、ロシアのNPOエネルガマーシュ社が製造した「RD-180」エンジンが使われている。このエンジンを巡っては米国の国内、またロシア側からも、その使用や輸出に関して揉めている状況が続いている。現時点ではまだアトラスVの打ち上げができなくなるほどの差し迫った状況にはないものの、現在米国では国産の代替エンジンの開発が始まっており、それを装備する新型の「ヴァルカン」ロケットの開発も並行して進められている。

アトラスVの第2段「セントール」には、「RL10C-1」と呼ばれるエンジンが使用されている。RL10は米国で50年以上使われて続けているロケット・エンジンのシリーズで、これまで数多くの人工衛星や惑星探査機などを打ち上げ続けてきた傑作エンジンである。推進剤には液体水素と液体酸素が用いられ、複数回点火できる能力を持ち、衛星をさまざまな軌道に、かつ正確に送り込むことが可能となっている。

従来、アトラスV向けのセントールには「RL10A」が使用されていたが、2014年12月12日の打ち上げから、RL10C-1の使用も始まった。RL10C-1は、デルタIVロケット向けに生産されたものの在庫が余ってしまっているRL10Bエンジンを、アトラスVで使用できるように改造したもので、たとえば炭素繊維強化炭素複合材料を使ったノズルや、燃焼室やインジェクターなどはRL10Bを流用。一方、ターボ・ポンプはRL10Aのものが用いられており、またRL10AにあってRL10Bにはない、点火システムの冗長化や、推進剤の混合比率を制御するための電子機器の搭載といった改造も施されている。

RL10Cはいわば、RL1AとRL10Bを混ぜ合わせたようなエンジンで、さらに軌道上で運用できる時間も、従来の720秒から2000秒まで、3倍弱ほどにまで向上している。

なお、アトラスVには、第2段にエンジンを2基装備する構成(xx2)があるが、RL10C-1はノズルの直径が大きいため、並べて搭載することができない。したがってxx2構成のアトラスVは、今後もRL10Aを使い続けることになる。

また、RL10C-1をさらにデルタIVロケット向けに改造したRL10C-2も開発中で、数年のうちにデビューする予定となっている。

 

Source: Atlas V Launches NROL-55, CubeSats - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com