米国のユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社は2015年9月22日、運用中の「アトラスV」ロケットと、開発中の「ヴァルカン」ロケットに装備される固体ロケット・ブースターの供給元として、オービタルATK社を選んだと発表した。
アトラスVのブースターには、これまでエアロジェット・ロケットダイン社が供給する「AJ-60A」が使われていたが、この契約により運用途中で切り替わることになる。オービタルATK社製のブースターを装備したアトラスVは、2018年から打ち上げられるとされる。
アトラスVはロッキード・マーティン社が開発し、同社とボーイング社とが共同で設立したULA社が運用しているロケットで、固体ロケット・ブースターの装着数を、1本から5本まで、1本単位で変えることでき、さまざまな衛星の打ち上げに対応している。
変更の理由について、ULA社は明らかにしていないが、オービタルATK社製に切り替えることで「大幅にコストを削減できる」としていることから、オービタルATK社はAJ-60Aと同等の性能で、相当に安価なブースターを提示したものと思われる。
また、オービタルATK社はすでに、同じULA社が運用する「デルタIV」ロケットの固体ブースター「GEM-60」を供給しており、実績もある。同社は他にも、スペース・シャトルで使われ、今後「スペース・ローンチ・システム」でも採用される固体ロケット・ブースター(SRB)の開発と製造も手掛けており、全段固体ロケットの「ペガサス」や「ミノトール」の運用もおこなうなど、固体ロケットには定評がある。
宇宙開発専門ニュース・サイトのSpaceflight NowやSpaceFlight Insiderが報じたところによると、アトラスV用のブースターは「GEM-63」という名前になるという。デルタIV用のGEM-60よりも少し太くなり、寸法は現行のAJ-60Aに近くなるという。
この変更による打ち上げ能力への影響はないとされるが、外見は少し変わり、AJ-60Aではノーズ・コーンがコア機体に寄り添うような形状をしていたが、GEM-60と同じような円錐形になるという。
またヴァルカン向けのブースターは「GEM-63XL」という名前で、63よりも全長が伸び、性能が向上するという。ただ、ヴァルカン自体が開発中であるため、まだ詳細は決まっていないようである。
GEM-63の最初の地上燃焼試験は2018年の中ごろに実施される見込みだという。
なお、エアロジェット・ロケットダイン社は、デルタIVロケットの第1段エンジン「RS-68」と、アトラスV、デルタIVの双方の第2段エンジン「RL10」も供給しているが、これらの契約には変更はないという。
しかし、ヴァルカンが完成し、デルタIVが代替されることになれば、RS-68の供給先も失うことが決まっている。
エアロジェット・ロケットダイン社はヴァルカンの第1段に「AR-1」というエンジンを提案しているが、Amazon.comの設立者ジェフ・ベゾス氏が立ち上げたブルー・オリジン社も「BE-4」というエンジンを提案しており、どちらが採用されるかまだ結論は出ていない。ULA社は2016年まで決定しないとしている。しかし、BE-4は部品単位での試験がすでに始まっているのに対して、AR-1はまだ影も形もない状態であり、BE-4のほうが優勢との見方が強い。
いくつかの報道によれば、エアロジェット・ロケットダイン社はここ最近、ULA社を買収することを計画していたものの、ボーイング社の反対によって実現しなかったとされる。そのことと今回のブースター契約との関係は不明だが、エアロジェット・ロケットダイン社にとっては続けての大きな痛手となった。
■ULA Selects Orbital ATK to Provide Solid Boosters For Atlas V and Vulcan Launch Vehicles - United Launch Alliance
http://www.ulalaunch.com/ula-selects-orbital-atk-solid-boosters.aspx?title=United+Launch+Alliance+Selects+Orbital+ATK+to+Provide+Solid+Boosters+For+Atlas+V+and+Vulcan+Launch+Vehicles
Image Credit: ULA