2017年1月15日8時33分、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は観測用ロケット「SS-520 4号機」を打ち上げたが、目的としていた第3段ロケットによる人工衛星の軌道投入には失敗した。
SS-520 4号機は鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたが、第2段ロケットの状態を確認する電波が受信できなかったという。SS-520 4号機は第2段の状態を地上で確認し、点火指令を送信する設計のため、地上から第2段点火の指令を送信しなかった。
今回のロケット打ち上げ実験主任であるJAXAの羽生宏人准教授は、失敗の原因は調査中であるとして、推測が独り歩きしないよう慎重に言葉を選びながらも、打ち上げに協力した関係者への感謝を述べた。
打ち上げ20秒後にデータが途絶
今回打ち上げられたSS-520 4号機は、第2段の点火を地上からの指令で行うことになっていた。H-IIAのような大型ロケットは搭載されているコンピューターが自動的に飛行し、異常があれば地上から自爆指令を送ることになっているのだが、小型のSS-520にはロケットの飛行経路をロケット自身が判断できる装置や自爆装置は搭載されていない。そこで、ロケットが正常に飛行しているかは地上で判断し、人間が指示を送らなければ第2段に点火しない設計になっていた。
打ち上げ20秒後、ロケットの状況を地上に伝える「テレメーター送信機」からの情報が途絶えた。このため地上ではロケットの状態を判断することができなくなり、第2段の点火指示を送信しなかった。ロケットが正常に機能していた場合は点火予定時刻までに第2段以上を覆うノーズコーン(カバー)を分離し、第1段と第2段を分離しているはずだが、現時点では確認できていない。これらの物体は第1段の落下予定海域に落下したと思われる。
また、正常に飛行すれば衛星を分離する時刻である打ち上げ450秒後以降に、搭載衛星「TRICOM-1」からのデータを受信した。衛星開発側代表の中須賀真一東京大学教授は「衛星はロケットから分離され、厳しい状況の中で正しく動作した」と、超小型衛星の信頼性に関しては一定の成果があったことを強調した。
JAXAでは今後、データを分析して原因を究明し、今後の研究開発に役立てていくとしている。
解説:意外な失敗と「失敗できる技術開発」
今回打ち上げられたSS-520 4号機についてはこれまでにも解説してきたが、その特徴は実績のある2段式観測ロケット「SS-520」に、民生品を用いるなど革新的なコンセプトで開発された第3段を搭載し、超小型ロケットを開発することにあった。ところが打ち上げ20秒後にロケットからのデータが途絶えるという結果になってしまった。
SS-520ロケットは、第1段が燃焼終了し第2段を分離するまで68秒かかる。データが途絶した打ち上げ20秒後というタイミングは、まだ第1段の飛行中に問題が起きたことを示している。新規開発である第3段の飛行中に起きたトラブルではなく、実績のあるSS-520の段階で起きた意外な失敗だ。
第2段に点火する前にロケットの状態を判断するためのデータ送信機器は、第2段に搭載されており、今回の衛星打ち上げ用に開発されたものではなく以前から使用している物だった。ただし、この送信機が故障したのか、他の原因でデータが送信されなかったのかのかはわかっていない。
一部報道では「民生品を使用して開発」という面が強調されていたが、そのような開発をしたのは第3段以上であり、第2段以下は実績のあるロケットなので、現時点で民生品利用を原因と考えるような情報はない。かといって、実績のあるSS-520のデータ送信が途絶えた原因が第3段以上ではないと判断できる情報もない。今後の調査が待たれる。
今回のロケットはもともと1回限りの実験であり実用化の予定がないため、再実験が行われるかはわからない。前回の解説記事でも述べた通り、SS-520を使った衛星打ち上げは小型ロケットの能力を使い切るものであり、地上で判断しての第2段点火もその制約の中で選択された方法と言えるだろう。第3段以上の民生品利用は、少なくとも打ち上げまでの開発段階では良い成果を上げており、今後ロケットや超小型衛星への応用が期待される。
JAXA宇宙科学研究所の稲谷芳文副所長は、「実験用ロケットはH-IIAロケットのように衛星打ち上げ能力を担う基幹ロケットとは位置付けが違う」と強調した。昨年のX線天文衛星「ひとみ」喪失事故の際、数百億円規模の大型プロジェクトでの失敗を減らすためには超小型衛星や実験用ロケットなどで経験を積む必要があるとの報告が提出されている。SS-520は1機数億円程度(実験用のため単純に商業ロケットと比較することはできない)で、大型のロケットや衛星と比べると費用は100分の1程度だ。その中で超小型ロケットによる衛星打ち上げにチャレンジしたのはかなり野心的で、結果として失敗だったとしても携わった技術者の育成や技術的な知識の蓄積などは大きな物だろう。SS-520による衛星打ち上げなど実験用ロケットによる野心的なチャレンジは、まさに「失敗できるチャレンジ」の機会として活用するべきものだと、筆者は考える。
Image Credit:JAXA