今年も日本の空の夏の風物詩、鳥人間コンテストの季節がやってきました。読売テレビが主催するこの大会は、2016年は7月30日と31日に滋賀県彦根市の琵琶湖湖畔で開催され、テレビ番組は8月31日に放送されます。
今年の大会に日本大学チームのメンバーとして参加する角谷杏季さんに、鳥人間コンテストの魅力を解説してもらいました。今回は3回の解説の最終回です。
限界のその先へ!魂をゆさぶる、最も優雅で過酷な40kmへの戦い
今回はディスタンス部門。
パイロットがペダルをこいでプロペラを回し、極限まで軽量化された巨大な機体で琵琶湖往復、最大40kmを目指します。
ふわりと飛ぶ機体の美しい見た目とは裏腹に、真夏の琵琶湖の上を機体の操縦をしながらペダルをこぎ続ける、その異常な過酷さゆえにパイロットたちの名(迷?)言が毎年とび出していますね。
ルールはプラットホームからどれほど遠くまで飛んだかを競います。北ルートか南ルートを選択しそれぞれ20km地点で折り返すか、対岸の35kmを目指します。途中で琵琶湖に何かものを落とすと失格です。
チームの全てを背負うパイロット、その大変さとは
パイロットは絶えずペダルをこぎ続けながら、風向きや機体の挙動を感知し操縦かんで尾翼を操作します。
前回でも書いたように、鳥人間はみんな本番までに試験飛行を繰り返し機体の調整やパイロットの感覚を養うのですが、ここでどれほど練習を積めるかがDST機は勝負のポイントになります。
また、パイロットはだいたい自分の体重の4倍のワット数 (モーターの出力と単位は同じ。体重60kgの人は240Wのパワーが必要です) をこがなくてはなりません。ですがこれはあくまで目安であり、必要揚力をいかに低ワットで達成できるかが空力設計の実力の見せ所です。
そしてそのワット数をクリアするために、DST機のパイロットは筋トレだけでなくロードバイクに乗って1日100km以上のロードワークをすることも!減量と筋肉強化を両立するために食事制限も行います。
多くが自転車の経験がない学生です。そんな彼彼女たちが、1~2年かけて本番のその1日のためにきついトレーニングを積むのです。
大きく軽く!DST機の機体の秘密とは
DST機は主翼幅が30m前後と、あのボーイング737(!)と同じくらいの大きさがあります。
でも重量はわずか40kgほど。いかに軽量化されているかがわかりますね。
また、パイロットの姿勢も自転車をこぐ姿勢のアップライトと寝そべるリカンベントがあります。現在はリカンベントが主流ですが、それはペダルからプロペラまでの駆動系統の複雑さやフレーム重量、空気抵抗の観点からみての判断だと思います。
ですが人体としてはアップライトの方が楽です。そのためリカンベントのパイロットは、エルゴバイクという機械で練習を積んで体を慣らします。
他にもプロペラの位置や主翼の位置、機速や翼型など機体には様々な特徴があります。伝えきれないのが悔しいほど。でも共通して言えることは、“飛んでいる機体は美しい”。巨大な主翼でゆっくり優雅に飛ぶ姿には自然と目を奪われてしまいます。
古豪復活へ。10回目の優勝を狙う日大航研にインタビュー!
そして、今年DST出場予定の日本大学航空研究会(NASG)の3年生にインタビューを行いました。
Q. パイロットのトレーニング内容は?
A.基本的に毎日エルゴバイクをこぎ、2時間のフライトを想定して練習を積みます。外へロードバイクで走りにも行きます。増量しないよう必要な筋肉だけを鍛え、食事制限もします。エネルギーには一口羊羹をよく食べていますね。
Q. どのように機体は設計している?
A.揚力線理論や有限要素法等のプログラミングソフトを用いて理論的な値を決め、それを基にCADで図面を描き製作に問題ないか確かめます。過去のデータを参考にします。
Q. DST機として製作に気を付けていることは?
A.DST機だからというのは関係ないですが、ほぼ全てが手作業でも製作誤差を限界までなくすよう心がけています。とにかく精度!美しい機体は飛びます!
Q. あなたが考えるDST機の魅力とは!
A.旅客機に匹敵するほどの主翼で悠々と飛ぶ姿、そして一番自分たちの機体を魅せつけられることです。また、長時間飛ぶので記録にも記憶にも残りやすいですね。
人力でありながら人の力を超えている、それが人力飛行機です。
その魅力を最大の迫力で感じられるのもDST機の魅力でしょう。
DST機の勝負は今月末最後の日曜日、7月31日!
Image Credit: NASG