宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2016年3月29日19時、X線天文衛星「ひとみ」の状況について、続報を発表した。それによると、3月28日(月)22時頃と3月29日(火)0時半頃の2回、「ひとみ」からの電波をしているが、極めて短い時間のため衛星の状態は確認できなかった。また、アメリカ国防総省戦略軍統合宇宙運用センター(JSpOC)が観測した物体のうち2つを、日本国内でも確認した。
27日の記者会見では、JAXAは「ひとみ」のバッテリーが切れた可能性に言及していた。これは、26日の最後の通信時に衛星の太陽電池が太陽に向いていないことを示すデータがあったこと、「ひとみ」の温度分布が通常と異なっていたことから、太陽電池に太陽光が当たらない状態が続き、電力不足でバッテリーが切れたという仮説だった。
しかし、地上からの観測情報から「ひとみ」が回転していることがわかったため、太陽電池に全く太陽光が当たっていない状況は考えにくくなった。そして、ごく短時間ながら電波を送信したことからも、完全なバッテリー切れの状態ではないことが判明した。
「故障の木解析」へ、新たな手掛かり
厳しい状況が続いているが、ごく短時間の電波送信をしているという事実そのものが、「ひとみ」の状態を探る手掛かりとも言える。「ひとみ」のような低軌道の衛星は、地上の通信アンテナの上空を通るときしか電波が通じないので、あらかじめ地上から指示された時刻に電波を送信するようプログラムされている。短時間の電波送信が確認されたということは、「ひとみ」がその時刻に短時間、電波を送信する動作をする状態にあるということだ。
またJAXAは、電波がごく短時間であるため衛星の状態はわからなかった、と発表している。しかし、その電波が衛星の状態を伝えるデータを送れていなかったとしても、何らかの情報を読み取れる可能性もあるだろう。
こういったわずかな手掛かりから衛星の状態を突き止めるのが、前回解説した「故障の木解析」だ。ごく短時間の電波でも、新たに得られた情報としての価値は大きいはずだ。
「ひとみ」復活か、「ひとみ2」か
「ひとみ」の状態が判明した場合、どのような対応が可能だろうか。例えば、「ひとみ」に指令を送ってみることだ。「ひとみ」は正常な電波送信ができない状態にあるが、受信はできるかもしれない。状態を改善できる方法が見つかれば、地上から指令を送り、「ひとみ」が反応するか試してみることができるだろう。小惑星探査機「はやぶさ」では、地上から「はやぶさ」のコンピューターのプログラムを書き換えて、生き残った機能だけで地球へ帰還することに成功している。
一方、「ひとみ」の復活が不可能だという結論に至った場合は、「ひとみ」と同じ設計の「ひとみ2」の製作を検討するかもしれない。その場合も、原因がわからなければ同じ故障を起こす可能性があるが、原因がわかれば手直しができるのだから、「ひとみ」の状態を知ることは重要だ。
「ひとみ」は世界でも代わる物のないX線天文衛星であり、世界中の天文学者が観測成果を心待ちにしている。「ひとみ2」を製造する場合、設計までの研究費がかからないこと、予備の部品を使えることなどから「ひとみ」より短期間で割安に製造できると考えられ、費用対効果は高い。4年後には打ち上げ費用を半減するH3ロケットも完成する。
いずれにせよ、「ひとみ」の状態を探ることはX線天文学の発展はもちろん、日本の衛星技術をより高めることにとっても極めて重要と言えるだろう。トラブルへの対応は、技術を大きく育ててくれるからだ。
Image Credit: 池下章裕