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ファルコン9の着陸は宇宙ビジネスを変えるか?(c)SpaceX

12月21日、アメリカの宇宙開発企業スペースXの宇宙ロケット「ファルコン9」の第1段が、着陸に成功しました。現在は使い捨てになっている宇宙ロケットが陸上に着陸し、再使用可能になれば、現在は数十億円もかかってい衛星打ち上げ費用は劇的に下がると期待されています。

でも、宇宙に興味がある方ならこうも思うのではないでしょうか。「あれ?スペースシャトルがそれをやろうとして、うまくいかなかったんじゃなかったっけ?」と。そこで、ファルコン9とスペースシャトルはどう違うのかを解説しましょう。

「宇宙へ行ける飛行機」を目指したスペースシャトル

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飛行機のような宇宙船を目指したスペースシャトル(撮影:大貫剛)

スペースシャトル以外のロケットは、初期の物から現在まで、見た目がよく似ています。筒状の胴体の先端に衛星、後端にロケットノズルが付いています。これは、宇宙までロケットを飛ばすのはとても大変なので、無駄なものをできるだけそぎ落とした結果です。しかし着陸することができないので、1回飛ばすごとに使い捨てになってしまい、とても費用が掛かってしまいます。

そこで考えられたのは「飛行機のように着陸して、燃料を補給するだけで宇宙へ飛べる乗り物」でした。実際、スペースシャトルの初期の案は、大きな飛行機の背中に小さな飛行機を載せたような形をしていました。そして飛行機と同様、貨物機でもパイロットが乗って操縦し、宇宙ステーションなどへ自由に軌道を変えて飛んで行けるようになっていました。

しかし設計が進むにつれ、スペースシャトルは肥大化しました。人が乗れること、自由に軌道を変えられること、滑走路へ着陸できること。これらはどれも「衛星を宇宙へ運ぶ」のには不要な機能です。これらをすべて兼ね備えてしまったスペースシャトルはどんどん大きく複雑になっていきます。設計の途中で使い捨ての部分を増やすなどして開発費を下げましたが、出来上がったものは飛行機ほど手軽ではなく、使い捨てロケットより高価という残念な結果になってしまいました。

「使い捨てロケットを回収する」ことに特化したファルコン9

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ロケット側面に張り付いた三角形のカバーのようなものが着陸用の足だ。(c)SpaceX

このように「機能全部載せ」してしまったスペースシャトルとファルコン9は、全く違う発想で作られています。ファルコン9は、使い捨てロケットをできるだけ変えずに、そのまま着陸できるように改造されたものです。

もともとファルコン9は人工衛星打ち上げ用の使い捨てロケットとして開発され、実際に数多く打ち上げられてきたロケットです。筒形のロケットを2段式にした、ごくオーソドックスなスタイル。再使用にあたって変更された外見上の特徴と言えば、安定用の小さな翼と着陸用の足を4組ずつ、機体に張り付くように折り畳んで取り付けたことくらいです。

ロケットは垂直に打ち上げますから、ロケットエンジンをうまく絞れば降りてきて着陸することもできる。ごく簡単なアイデアだし、昔からSFではよく見掛けました。

形もオーソドックスなら、アイデアも昔からあるもの。しかし、ここまでシンプルなアイデアが本当にうまくいくのか、と何十年もの間、実際に試されることはありませんでした。もはやベンチャー企業と呼ぶには巨大すぎるスペースX社ですが、創業者イーロン・マスクのベンチャー精神が見事な成功へと結びついたのです。

価格激減にはハードルも

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奥に置かれた第1段だけでなく、手前の第2段の再使用も課題だ。(c)SpaceX

これでロケットの費用はどれほど下がるのでしょうか。スペースシャトルよりシンプルとはいえ、何度も飛ばせば整備をしないわけにはいきません。スペースXは、着陸したファルコン9を詳細に調べているはずです。もう一度飛ばせるほど何ともないのか、多少の整備で行けるのか、もっと補強しないと無理なのか、といったことです。

打ち上げ費用を1/10に下げるには、ロケットを少なくとも10回以上は繰り返し使わないといけない計算になります。また、今回は回収していない第2段が使い捨てのままでは、その分の費用は変わりません。1/10以下に下げるまでには、まだ多くのハードルを乗り越えなければなりません。

半額でも塗り替わる宇宙ビジネス地図

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日本の次世代ロケットH3も、再使用化されるのだろうか?(c)JAXA

それでも、数回程度再使用することができれば、打ち上げ費用は半額といったレベルには下がるでしょう。そうなると世界の宇宙ロケット打ち上げビジネスは大きく変わります。

ファルコン9と同じ規模の宇宙ロケットと言えば、日本ではH-IIAロケットがあります。H-IIAの打ち上げ費用はおよそ100億円。これに対してファルコン9はおよそ70億円と割安で、宇宙ロケットの価格破壊と言われてきました。

そこで日本では2020年までに、1機50億円のH3ロケットを開発して対抗する計画なのですが、もしファルコン9が半額の35億円に下がれば、また価格で突き放されてしまうことになります。ファルコン9のような再使用化も考えなければならないかもしれません。

スペースシャトルではうまくいかなかった、再使用ロケットによる価格破壊。ファルコン9のシンプルなチャレンジが宇宙ビジネスの地図を塗り替えるのか、世界が注目しています。