6月、雨が多く星空に会えない日が続くかもしれません。
しかし、梅雨の晴れ間には春の星座を見ることができます。夏を迎えて見納めになる前に、春の星座を探してみましょう。
6月の空で目を引くのは、天高くに輝く1等星「アークトゥルス」です。名前の意味は「熊の番人」で、「おおぐま座」を追うように空に上ります。
アークトゥルスは「うしかい座」の星です。アークトゥルスから北側へネクタイを逆さにしたように星を結ぶと、勇ましく腕を振り上げたうしかい座の姿が描けます。
うしかい座の西側、伸ばした腕の先には「りょうけん座」があります。
りょうけん座の最も明るい星は「コル・カロリ」という名の3等星です。名前の意味は「チャールズの心臓」で、17世紀前半のイギリス王チャールズ一世をたたえるためにつけられた名前だと考えられています。
うしかい座の東側に目を移すと「かんむり座」があります。
こちらも一番明るい星は3等星で、名前は「アルフェッカ」(欠けたもの)です。空の暗い場所では、アルフェッカを中心とした半円形のかんむり座をはっきり見ることができるでしょう。
うしかい座から南へ目を下ろすと、青白い1等星があります。名前は「スピカ」(穂先)といい、「おとめ座」の持つ麦の穂先に位置する星です。スピカから北西側に伸びるY形の星の並びはおとめ座の目印で、「おとめのワイングラス」と呼ばれています。
おとめ座の西には「からす座」があります。
からす座は4つの3等星からなる、歪んだ四角い形の星座です。船の帆に似ていることから「帆掛け星」という和名があります。
また、イギリスの船乗りたちは、からす座の星の並びをスパンカー(大型帆船の後尾に張る縦帆)になぞらえて「スピカのスパンカー」と呼んでいたといわれています。
洋の東西を問わず、同じような発想で名づけられているのがおもしろいですね。
おとめ座の東には、3つの星が「く」の字を反転したような形に並んでいます。これは「てんびん座」の星々です。てんびん座は梅雨時に南中を迎える、夏の星座の先導者です。
星座というと1等星が輝く華やかなものに目が行きがちですが、その周辺を注意深く見ると、小さいながらも形の整った星座がいくつも見つかります。
まずはうしかい座のアークトゥルスを見つけ、西にりょうけん座、東にかんむり座…というように、明るい星を頼りにして、小さな星座探しに挑戦してみてはいかがでしょうか。
■かんむり座T星の新星爆発
6月に見頃を迎えるかんむり座には、「かんむり座T星」という面白い星があります。
かんむり座T星は通常10等星の暗い星です。しかし、定期的に増光して肉眼でも見られる明るさになります。
かんむり座T星の正体は赤色巨星と白色矮星の連星です。白色矮星はすでに核融合反応を終えて余熱で光っている、いわば燃え殻のような星です。しかし、赤色巨星から放出されるガスが白色矮星に流れ込んで臨界量に達すると、表面で核融合反応が起こります。これを「新星爆発」といいます。
良く似た言葉に「超新星爆発」がありますが、こちらは質量の大きな恒星や限界までガスが流れ込んだ白色矮星などが起こす大爆発で、一つの星につき1回しか起こりません。しかし、新星爆発は何度も繰り返されます。
多くの場合、新星爆発は数千年~数万年間隔で起こりますが、かんむり座T星では約80年周期で発生します。このように、人類の歴史の中で2度以上記録されている新星を「再帰新星」といいます。
過去のかんむり座T星の新星爆発は1886年と1946年に確認されており、次回の爆発は2026年頃だと考えられていました。しかし、前回の爆発前と同様の減光傾向が2023年2月に見られたことから、次の爆発は2024年9月までに起こるのではないかと予想されています。
新星爆発が起こると、かんむり座T星は2等級まで増光すると考えられています。しかし、減光のスピードも速く、1週間程度で再び肉眼で見られなくなってしまう可能性が高いです。
およそ80年に一度、数日間しか見られない非常にレアな天文現象です。かんむり座のシーズンである初夏に起こることを祈りましょう。
Source
- Image Credit: 国立天文台, sorae, USM
- アストロアーツ - いよいよ近づいてきた、かんむり座Tの80年ぶりの新星爆発
- 日本変光星研究会 - 新星とは
- 倉敷科学センター - 新星爆発が迫る「かんむり座T星」
文・編集/sorae編集部