-PR-

こちらは南天の「くじゃく座(孔雀座)」の方向にある「ORC 1」と呼ばれる天体です。ORCは「Odd Radio Circle」の略で、日本語では「奇妙な電波サークル」という意味になります。この画像は南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「MeerKAT(ミーアキャット)」を使って取得されたORC 1の画像を緑色に着色した上で、背景に別の望遠鏡で撮影した星空が合成されています。

【▲ 電波望遠鏡「MeerKAT」で観測された“奇妙な電波サークル”「ORC 1」(Credit: Jayanne English (U. Manitoba))】
【▲ 電波望遠鏡「MeerKAT」で観測された“奇妙な電波サークル”「ORC 1」(Credit: Jayanne English (U. Manitoba))】

ORCは実際には泡状の構造をしていると考えられています。直径は銀河よりも大きな約100万光年で、中心には銀河が含まれていることもわかっています。その名前が示唆するようにORCは電波だけで観測可能な天体とされていて、見つかった場所を可視光線・赤外線・X線といった別の波長の電磁波で観測しても、対応する構造は見つからないとされていました。

関連記事:謎の天体「奇妙な電波サークル」南アフリカの電波望遠鏡が詳細に観測(2022年3月23日)

中心に銀河があることから、ORCの形成には銀河が関わっているのではないかと予想されていました。カリフォルニア大学サンディエゴ校のAlison Coil教授を筆頭とする研究チームは今回、スターバースト(大質量の恒星が短期間に数多く誕生する現象)にともなって銀河から流れ出た銀河風によってORCが形成された可能性を示す研究成果を発表しました。研究チームの論文はNatureに掲載されています。

【▲ アーティストによるORC 1の想像図。中心付近に銀河が描かれている(Credit: CSIRO)】
【▲ アーティストによるORC 1の想像図。中心付近に銀河が描かれている(Credit: CSIRO)】

前述の通りORCは電波でしか観測できない天体とされていましたが、研究チームはW. M. ケック天文台(ハワイ)の「ケック望遠鏡」に設置されている可視面分光装置「KCWI」を使用して、「かんむり座(冠座)」で見つかった別の“奇妙な電波サークル”「ORC 4」の観測を行いました。この天体は北半球から観測可能な初のORCとされています。

-スポンサードリンク-

観測の結果、ORC 4には高輝度かつ高温の圧縮されたガスが一般的な銀河と比べて多く存在することが判明。可視光線と赤外線の観測データを使用してさらなる分析を進めた研究チームは、現在観測されているORC 4の銀河は年齢が約60億歳の星々で構成されていて、スターバーストが停止してから約10億年が経っていると判断しました。

観測で得られたこれらの情報をもとに研究チームがシミュレーションを行ったところ、スターバーストで形成された複数の大質量星が同時期に超新星爆発を起こしたことで銀河風が生じ、電波を放出する殻状の構造……すなわちORCを形成した可能性が示されました。銀河風は銀河の内部から外部へと流出するガスの流れで、たとえば天の川銀河の近くでは「おおぐま座(大熊座)」の不規則銀河「M82」で観測されています。

【▲ 参考画像:ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された不規則銀河「M82」(Credit: NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA). Acknowledgment: J. Gallagher (University of Wisconsin), M. Mountain (STScI) and P. Puxley (NSF))】
【▲ 参考画像:ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された不規則銀河「M82」(Credit: NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA). Acknowledgment: J. Gallagher (University of Wisconsin), M. Mountain (STScI) and P. Puxley (NSF))】

研究チームによると、シミュレーションでは銀河風として2億年に渡ってガスの流出が続くことが示されました。そして銀河風が停止した時、流出と同じ方向の衝撃が高温のガスを外側へと押し出して電波のリングを形成する一方で、逆方向の衝撃は低温のガスを銀河へと落下させることも示されたといいます。Coilさんは重要な要素として「質量の流出率の高さ(大量の物質が非常に速く放出される)」と「銀河のすぐ外側におけるガスの密度の低さ(衝撃が失速しない)」の2つを挙げています。

【▲ 銀河風の流出を示したシミュレーション。左はガスの温度、右はガスの密度を示す。ガスの初速度は毎秒450km、質量流出率は1年あたり太陽200個分で、銀河(左下隅)から2億年に渡って流出したガスが銀河周囲の物質と衝突する様子が示されている】
(Credit: Cassandra Lochhaas / Space Telescope Science Institute)

M82のようなスターバースト銀河(スターバーストを起こしている銀河)を研究してきたCoilさんたちは、銀河風でORCの理解が深まるだけでなく、ORCもまた銀河風の理解を深めることにつながると考えています。Coilさんは「ORCは電波と分光データを通して銀河風を『見る』方法をもたらしてくれます。このことは、極端な銀河風がどれくらい一般的なのかを判断したり、銀河風のライフサイクルを考えたりする上で助けになります」とコメントしています。また、すべての巨大銀河はORCの段階を経るのか、星を形成しなくなった渦巻銀河は楕円銀河になるのかといった、銀河の進化をより深く理解する上でもORCから学べることは多いと期待されています。

 

Source

  • UC San Diego – Space Oddity: Uncovering the Origin of the Universe’s Rare Radio Circles
  • W. M. Keck Observatory – Space Oddity: Uncovering the Origin of the Universe’s Rare Radio Circles
  • Coil et al. – Ionized gas extends over 40 kpc in an odd radio circle host galaxy (Nature, arXiv)

文/sorae編集部

-スポンサードリンク-

-スポンサードリンク-