ウェッブ宇宙望遠鏡が「がか座ベータ星」で発見した“猫のしっぽ”?
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された「がか座ベータ星」のデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Stark and K. Lawson (NASA GSFC), J. Kammerer (ESO), and M. Perrin (STScI))】

こちらは「がか座(画架座)」の方向約63光年先の恒星「がか座ベータ星(β Pictoris)」周辺の様子です。私たちはがか座ベータ星の周囲に広がるデブリ円盤(天体どうしの衝突で生じた破片や塵でできているとみられる円盤構造)を、円盤の平面に沿った真横の方向から見ています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された「がか座ベータ星」のデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Stark and K. Lawson (NASA GSFC), J. Kammerer (ESO), and M. Perrin (STScI))】
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された「がか座ベータ星」のデブリ円盤(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Stark and K. Lawson (NASA GSFC), J. Kammerer (ESO), and M. Perrin (STScI))】

デブリ円盤をはじめ2つの太陽系外惑星や太陽系外彗星も検出されているがか座ベータ星は、研究者から注目を集めている天体のひとつです。ちなみに、がか座ベータ星そのものからの光はコロナグラフを使って遮られていて、星の位置は白い★印で示されています。

関連記事:63光年先の太陽系外惑星「がか座ベータ星c」の直接観測に成功(2020年10月10日)

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。

ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、同望遠鏡でがか座ベータ星を観測した結果、湾曲しながら細長く伸びた構造が初めて捉えられました。画像の中央から右上に向かって伸びる白っぽい色をしたものが発見された構造で、その形から「Cat's tail(猫の尻尾)」と呼ばれています。

ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データをもとに構造を研究したスペイン宇宙生物学センター(CAB)のIsabel Rebollidoさんによると、MIRIが捉えるのと同じ波長域での観測は過去にも行われたことはあるものの、ウェッブ宇宙望遠鏡ほどの感度と空間分解能は得られなかったため、今まで検出されたことはなかったといいます。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された「がか座ベータ星」のデブリ円盤(注釈付きバージョン)。MIRIの観測で発見された“猫の尻尾”(黄色の点線)は、主円盤(白色の破線)に対して傾いた副円盤(水色の点線)に付随する構造とみられている(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Stark and K. Lawson (NASA GSFC), J. Kammerer (ESO), and M. Perrin (STScI))】
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された「がか座ベータ星」のデブリ円盤(注釈付きバージョン)。MIRIの観測で発見された“猫の尻尾”(黄色の点線)は、主円盤(白色の破線)に対して傾いた副円盤(水色の点線)に付随する構造とみられている(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Stark and K. Lawson (NASA GSFC), J. Kammerer (ESO), and M. Perrin (STScI))】

“猫の尻尾”は以前に「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の観測で発見された2つ目の円盤に付随する構造とみられています。Rebollidoさんを筆頭とする研究チームによると、“猫の尻尾”を含む副円盤は現在観測されている状態から100年ほど前に発生して大量の塵を生み出した天体衝突によって形成されたのではないかと考えられています。“猫の尻尾”は一見すると円盤に対して高く持ち上がっているように見えますが、シミュレーション結果は円盤の内側から外側へと長く伸びた構造であることを示しており、実際には円盤に対して5度程度しか傾いていないとみられています。

また、“猫の尻尾”と副円盤を構成する物質の温度は主円盤より高いこともMIRIの観測によって判明しました。研究チームは尻尾と副円盤が太陽系の小惑星や彗星の表面で見つかる物質に似た、多孔質の難揮発性有機物(organic refractory material)でできていると予想しています。

【▲ “猫の尻尾”が形成される様子を示したアニメーション。尻尾の長さは約160億kmと推定されている】
(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Ralf Crawford (STScI))

研究に参加したアメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのChristopher Starkさんは「がか座ベータ星が従来の予想よりもさらに活発で混沌としている可能性を私たちの研究は示しました」「ウェッブ宇宙望遠鏡は最も良く研究された天体を観測する場合でも私たちを驚かせます。私たちはこれらの惑星系への全く新しい窓を手に入れたのです」とコメントしています。

ウェッブ宇宙望遠鏡で観測したがか座ベータ星の画像はSTScIをはじめ、NASAや欧州宇宙機関(ESA)から2024年1月10日付で公開されています。

 

Source

  • STScI - NASA's Webb Discovers Dusty 'Cat's Tail' in Beta Pictoris System
  • NASA - NASA’s Webb Discovers Dusty ‘Cat’s Tail’ in Beta Pictoris System
  • ESA - Webb discovers dusty cat’s tail in Beta Pictoris system
  • ESA/Webb - Webb discovers dusty cat’s tail in Beta Pictoris System

文/sorae編集部