太陽系にある氷で覆われた天体の一部は、その地下に広大な海が存在すると予測されています。中には、その有力な証拠であると考えられる間欠泉が確認されている天体もあります。
NASA(アメリカ航空宇宙局)ゴダード宇宙飛行センターのLynnae C. Quick氏などの研究チームは、似たような環境を持つ太陽系外惑星が存在する可能性を探るため、17の惑星について調査しました。その結果、いくつかの惑星には氷の下に海が存在する可能性があることを突き止めました。また、「プロキシマ・ケンタウリb」や「LHS 1140 b」など一部の惑星では激しい間欠泉活動が起きている可能性があり、噴出した水や、水に含まれる分子の存在を望遠鏡で観測できる可能性も明らかにされました。
■氷の下に海がある天体は太陽系外惑星にもある?
表面を氷で覆われた低温の天体は、一見すると生命に適した環境には見えません。しかし、分厚い氷の下には大量の液体の水……つまり海が存在する可能性が指摘されています。氷を融かす熱源は、潮汐力や放射性物質の崩壊熱などが考えられています。
木星の衛星「エウロパ」や、土星の衛星「エンケラドゥス」は、氷の下に海があると考えられている天体の代表例です。これらの天体では水を主成分とするプルームの噴出が観測されており、氷の下の海が水の供給源だと考えられています。
では、太陽系以外の天体、より具体的には太陽系外惑星でも同様の事例は存在するのでしょうか?仮に存在するとした場合、そのような惑星を発見する方法はあるのでしょうか?
■氷の惑星の条件を検討
Quick氏らの研究チームは、似たような環境を持つ太陽系外惑星が存在する可能性を探るために、次の2つの性質を満たしている17の惑星を調査しました。
1つ目の条件は「地球と比べて直径はおよそ2倍以下、質量は8倍以下」です(※1)。この条件に沿うのは地球と比べて平均密度が低い惑星ということになります。氷は岩石と比べて密度が低いため、低密度な惑星は氷が主体である可能性があります。また、直径を地球のおよそ2倍以下に制限したのは、低密度な理由が氷ではなく豊富なガスとなる亜海王星 (地球と海王星の中間的な性質を持つ惑星) である可能性を排除するためです。
※1…およそ2倍という表現は、研究チームの論文における “radii (Rp) that are less than or approximately equal to 2R⊕” という記述に基づきます。今回の研究では、直径が2倍を超える唯一の惑星としてカプタイン星c (推定直径が地球の2.25倍) が検討されています。
2つ目の条件は「推定表面温度がマイナス18℃未満の惑星」です。この温度は地球に大気が存在しないと仮定した場合の表面温度(平衡温度)と同じであり、これよりも表面温度の低い惑星では表面の水が凍っている可能性が高くなります。大気が存在する場合の惑星の表面温度を推定することは困難なため、このような前提で計算されます。
ただし、特に2つ目の条件は再検討が必要です。例え独自の分厚い大気が無かったとしても、惑星表面を構成する氷などの光の反射率、そしてプルームや宇宙風化によって生成される水蒸気の薄い大気など、表面温度を変更する要素がいくつもあるためです。
■一部の惑星のプルームは観測できる可能性が示された!
Quick氏らは、エンケラドゥスやエウロパの観測データや最新のモデリングを元に、氷が主体の惑星の表面温度を改めて計算しました。その結果、従来のモデルと比べて最大で30℃も温度が食い違うことを発見し、より正確な状況を把握することができました。
新たに得られた惑星のデータを元に、研究チームは潮汐力や放射性物質の崩壊熱などを推定し、そこから氷の厚さ、氷の下の海の規模、そして間欠泉活動を推定しました。まず、内部活動については全ての惑星の内部でエンケラドゥスやエウロパを超える熱が発生しており、一部の惑星では地球やイオ(※2)を超える熱が生じていると推定されました。激しい熱の発生は、氷の下に海を形成する可能性を高めます。
※2…イオは、木星のガリレオ衛星の1つです。地球の月より小さな天体ですが、全体が火山の星と言えるほど活発な地質活動が見られ、内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されています。これは地球の熱 (47兆ワット) の2倍以上です。
氷の厚さは、最も薄い「プロキシマ・ケンタウリb」の58mから、最も分厚い「MOA-2007-BLG-192L b」の38.7kmまで様々な値が推定されました。ただし、これは惑星全体の平均値であることに注意が必要です。例えば、エンケラドゥスの氷の平均的な厚さは25kmですが、プルームが噴き出している極域では10km未満になっていると推定されています。これとは逆に、エウロパの氷の厚さは平均30kmですが、極域では66kmまで厚くなっていると推定されています。エンケラドゥスとエウロパでは表面温度や内部の熱源の配置の違いによって極域の氷の厚さが全く異なっているため、太陽系外惑星の氷も局所的に平均値より極端に薄い・厚い場所がある可能性は否定できません。ただし、どの惑星の氷の厚さも地殻と表現される50kmを下回ることは興味深い発見です。
そして、一部の惑星では水のプルームの放出量が推定されました。最も少ない「ケプラー441b」からは毎秒7.5kgとわずかな水しか噴出しない一方で、氷の厚さが58mしかないと推定される「プロキシマ・ケンタウリb」では毎秒610トン、厚さ1.7kmと推定される「LHS 1140 b」では毎秒29トンの水が噴出していると推定されました。エウロパの水の噴出量が毎秒2トンであることを考えると、いかに激しい噴出であるかが分かるでしょう。
噴出した水は凍った粒となって惑星の周りを覆います。もしプルームの噴出量が間欠泉のように時間と共に変化する場合、遠く離れた地球から観測すると、それは水の量の変化として観測されるでしょう。また、氷の粒の中に他の分子がある場合、水と共に検出される可能性もあります。噴出した水やその他の分子の観測は、強力な望遠鏡を使えば可能であるとQuick氏らは考えています。
Source
- Lynnae C. Quick, et al. “Prospects for Cryovolcanic Activity on Cold Ocean Planets”. (The Astrophysical Journal)
- William Steigerwald. “NASA: Some Icy Exoplanets May Have Habitable Oceans and Geysers”. (NASA Goddard Space Flight Center)
文/彩恵りり