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ふたご座流星群の源となる天体「ファエトン」は、かなり変わった性質を持つ小惑星であると考えられていることから注目を集めています。一方で、ファエトンと似た性質を持つ分類の隕石はこれまで特定されておらず、研究が中々進まない原因となっていました。

ヘルシンキ大学のEric MacLennan氏とMikael Granvik氏の研究チームは、隕石の中でも珍しい分類である「CYコンドライト(ヤマト型炭素質コンドライト)」が、ファエトンと類似した性質を持つという説を提唱しました。この結果が正しいかどうかは、2028年に計画(※執筆時点)されている日本の深宇宙探査実証機「DESTINY+」によるファエトンの観測で比較的早期に検証されると研究チームは考えています。

【▲図1: 今回の研究でファエトンと似ていると特定された、CYコンドライトのサンプルを持つEric MacLennan氏。 (Image Credit: Susan Heikkinen (University of Helsinki) ) 】
【▲図1: 今回の研究でファエトンと似ていると特定された、CYコンドライトのサンプルを持つEric MacLennan氏(Credit: Susan Heikkinen (University of Helsinki))】

■ふたご座流星群の源「ファエトン」はどの隕石と似ている?

毎年12月半ば頃に観測される「ふたご座流星群」は、しぶんぎ座流星群やペルセウス座流星群と並んで知名度の高い流星群です。流星群は、彗星のような表面活動が活発な天体の表面から放出される塵が大気圏に突入することで発生する現象であると考えられています。ふたご座流星群の場合、塵の元となる母天体(※1)は3200番小惑星「ファエトン」であると考えられています。

※1…ある天体の元になった天体のこと。ここでは流星の元になった天体。

【▲図2: 塵とガスを放出するファエトンの想像図。 (Image Credit: NASA, JPL-Caltech & IPAC) 】
【▲図2: 塵とガスを放出するファエトンの想像図(Credit: NASA, JPL-Caltech & IPAC)】

ファエトンにおける彗星のような活動は極めて弱いため、当初は揮発成分が枯渇した “彗星の成れの果て” であると考えられてきました。しかし最近の研究では、ファエトンは初めから小惑星であり、太陽に極端に接近する公転軌道によって彗星のような塵の放出が起こっている、と考えられるようになってきました。この場合、ファエトンでは極端な高温による岩石の分解が、塵の発生の原因となっている可能性があります。

関連記事: 普通の小惑星「ファエトン」が普通ではない彗星になった理由 ふたご座流星群の母天体 (2023年5月10日)

小惑星の環境に関する仮説を検証する場合、その小惑星に似た性質を持つ隕石を分析することで、高額な費用と長い時間がかかるサンプルリターンをせずとも、より詳細な研究が可能となります。しかしファエトンの場合、これまでのところ似たような隕石が見つかっておらず、謎を解く手掛かりが不足していた状況でした。

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■ファエトンは珍しい隕石「CYコンドライト」と似ていることが判明!

ヘルシンキ大学のMacLennan氏とGranvik氏の研究チームは、ファエトンと似た隕石を特定するために、過去の観測データの検討を行いました。今回の研究では、NASA(アメリカ航空宇宙局)の赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」による、ファエトンの中赤外線の観測データを検討し、ファエトンの表面がどのような鉱物でできているのかを調べました。

いくつかの鉱物の種類を仮定し、観測データとよく一致する鉱物の組み合わせを調べた結果、ファエトンの表面には珪酸マグネシウム(苦土カンラン石)、硫化鉄(トロイリ鉱)、水酸化カルシウム(ポートランド石)、炭酸カルシウム(方解石)、酸化鉄(磁鉄鉱)、水酸化マグネシウム(水滑石)が存在する可能性が高いことが特定されました。ファエトンの表面が最大で約800℃まで加熱されることを考えると、これらの鉱物は熱による分解作用で生成されたと考えられます。

研究チームは、これらの鉱物の組み合わせや割合が「CYコンドライト」によく一致することを示しました。これは南極で見つかった炭素に富む隕石(炭素質コンドライト)のごく一部だけが属する分類であり、現時点ではわずか6個しか見つかっていません (※2) 。ファエトンとCYコンドライトに含まれる鉱物は、そのほとんどがお互いに一致します。

※2…CYコンドライトという分類は2018年に提唱された炭素質コンドライトの新しい分類ですが、今のところ今回のような学術研究の中で使用されているだけであり、国際隕石学会では正式な分類として登録されていません。

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ファエトンにはCYコンドライトで見つかる酸化マグネシウムや酸化カルシウムが見つからず、逆にCYコンドライトにはファエトンで見つかる水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムが見つからないという食い違いはありましたが、この違いは炭酸塩の熱分解中に水が関与したかどうかで生じたと考えられることから、大きなファエトンと小さな隕石の環境の違いによって生じたとすれば説明できると研究チームは考えています。

また、ファエトンで起こる鉱物の熱分解は、二酸化炭素、水蒸気、硫黄のガスを生じます。研究チームは、これらのガスが塵の発生源ではないかと考え、熱モデリングを行ってファエトン表面の様子をシミュレーションしました。その結果、熱分解で発生したガスは、岩石の表面を細かく砕くのに十分な圧力を生じることが分かりました。ファエトンの塵の発生源は過去の巨大衝突によるものという説もありますが、今回の研究の場合、ファエトンでの塵の発生は常に起こっているとも考えられます。

関連記事: 「ファエトン」の塵は過去の天体衝突で激しく放出された可能性が高い? ふたご座流星群の源 (2023年6月30日)

■本当に似ているかは「DESTINY+」によって確かめられる?

ファエトンがCYコンドライトと似ているという今回の説が正しい場合、CYコンドライトに分類される「ヤマト82162隕石」などを詳細に調べることで、ファエトンをより深く知ることができるようになるでしょう。ただし今のところ、この説が正しいかどうかは分かっていません。

研究チームは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げる深宇宙探査実証機「DESTINY+」の観測成果に期待しています。DESTINY+は2028年にファエトンの接近観測を行う予定(※執筆時点)であるため、スピッツァーよりもさらに詳細な観測データを取得できるでしょう。そうなれば、ファエトンが本当にCYコンドライトと似ているのかどうかがよりはっきりすると予想されます。

 

Source

文/彩恵りり

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