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銀河全体の恒星の数や質量などを正確に測定するためには、暗くて見えにくい恒星の集団を見つける必要があります。このような恒星の集団の多くは、本体の銀河を中心として公転する「伴銀河(衛星銀河)」として存在します。

ビクトリア大学のSimon E. T. Smith氏などの研究チームは、「UNIONS(紫外近赤外光学北方サーベイ / Ultraviolet Near Infrared Optical Northern Survey)」のデータから天の川銀河の伴銀河である「おおぐま座矮小銀河III / UNIONS 1(Ursa Major III / UNIONS 1)」を発見しました(以下「おおぐま座矮小銀河III」と表記)。おおぐま座矮小銀河IIIの明るさは絶対等級で2.2等級であり、これは知られている中で最も暗い天の川銀河の伴銀河です。

【▲図1: おおぐま座矮小銀河IIIを中心とした恒星の分布図。点線の楕円は、全体の明るさの50%で定義される銀河の半径の2倍、4倍、6倍の範囲を示しています。おおぐま座矮小銀河IIIは、一番小さな楕円の範囲内、青い点が密集しているエリアとなります。 (Image Credit: Simon E. T. Smith, et al.) 】
【▲図1: おおぐま座矮小銀河IIIを中心とした恒星の分布図。点線の楕円は、全体の明るさの50%で定義される銀河の半径の2倍、4倍、6倍の範囲を示しています。おおぐま座矮小銀河IIIは、一番小さな楕円の範囲内、青い点が密集しているエリアとなります(Credit: Simon E. T. Smith, et al.)】

■銀河の周辺に多数存在する「伴銀河」

「銀河」という単語を聞くと、多数の恒星が属する1個の集団が思い浮かぶかと思います。しかし実際の銀河の周辺には、大小2つのマゼラン雲のように、本体から離れた場所にも恒星の集団が多数存在します。そのような恒星の集団は、本体の銀河と重力的に結合し、周辺を公転しています。このような、本体の銀河に対する衛星のような関係となった銀河を「伴銀河」と呼んでいます。小さいサイズであることから、伴銀河のほとんどは矮小銀河に分類されます。

伴銀河の1つ1つは、本体の銀河と比べると質量も恒星の数も少ない矮小銀河ですが、伴銀河の数は多数あるために、それらを合計した場合の影響を無視することはできません。しかし、伴銀河の1つ1つは暗い上に、明るい銀河のすぐ近くにあるため、観測は困難です。

■最も暗い伴銀河「おおぐま座矮小銀河III」を発見

Smith氏らの研究チームは、北半球の掃天観測データをまとめた「UNIONS」のデータを分析していました。UNIONSは、どちらもアメリカ、ハワイ州に設置された望遠鏡である「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡」と「パンスターズ(Pan-STARRS)」のデータをまとめており、主に天の川銀河の構造を調査する目的で使用されています。

Smith氏らは、おおぐま座の方向に恒星が密集したエリアを発見しましたが、これが真に重力的に結合した恒星の集団なのか、それともたまたま見た目の恒星密度が高いだけなのかが分かりませんでした。そこで、同じくハワイ州に設置された「W・M・ケック天文台」の望遠鏡やESA (欧州宇宙機関) の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データから、恒星の運動方向や速度を推定しました。

【▲図2: スローン・デジタル・スカイサーベイの画像におけるおおぐま座矮小銀河IIIの位置。この画像の通り視覚的に分かるような存在ではないため、恒星の運動方向など別の手段を使うことで恒星の集団を見つけました。 (Image Credit: SDSS) 】
【▲図2: スローン・デジタル・スカイサーベイの画像におけるおおぐま座矮小銀河IIIの位置。この画像の通り視覚的に分かるような存在ではないため、恒星の運動方向など別の手段を使うことで恒星の集団を見つけました(Credit: SDSS)】

その結果、恒星の運動方向や速度が一致していることが分かり、これが真に重力的に結合した恒星の集団であることが明らかにされました。この恒星の集団は、おおぐま座の方向で発見された3番目の矮小銀河であることから「おおぐま座矮小銀河III」と命名され、またUNIONSのデータから発見された初めての伴銀河であることから「UNIONS 1」とも呼ばれています。

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おおぐま座矮小銀河IIIは非常に小さな伴銀河であり、直径は約20光年(全体の明るさの50%の範囲)、恒星の数はわずか50~60個程度(57 +21 -19個)、総質量は太陽の約16倍であると推定されています。このため、おおぐま座矮小銀河IIIの絶対等級は2.2等級となり、知られている中で最も暗い伴銀河ということになります。太陽からおおぐま座矮小銀河IIIまでの距離は約3万3000光年であると推定されているため、見かけの等級は17.2等級と極めて暗い天体ということになります。

おおぐま座矮小銀河IIIは、天の川銀河の中心から最も近い時で約4万2000光年、最も遠い時で約8万5000光年離れた楕円軌道を公転しており、中心から約5万5000光年の位置で銀河円盤を通過していると推定されます。

また、おおぐま座矮小銀河IIIは形成から少なくとも110億年経っており、所属する恒星は金属量 (重い元素) が少ないと推定されます。この性質は、おおぐま座矮小銀河IIIが天の川銀河の外側を薄く広く取り巻く「ハロー」を起源とすることを示唆しています。

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■おおぐま座矮小銀河IIIの発見は暗黒物質の推定にも役立つ?

おおぐま座矮小銀河IIIのような “見えにくい” 伴銀河の発見は、 “見えない” 物質である暗黒物質(ダークマター)の量を推定する研究にも制約を課します。暗黒物質は光などの電磁波では見えないものの、重力によってその存在が間接的に知られている未知の物質です。

Smith氏らの別の論文では、おおぐま座矮小銀河IIIに暗黒物質がないとすると、天の川銀河からの潮汐力で分解されるため、わずか4億年程度で消えてしまうと推定しました。これは少なくとも110億年という推定年齢とは大幅にズレているため、おおぐま座矮小銀河IIIには大量の暗黒物質が含まれていることになります。

暗黒物質の正体は現在でも大きな謎となっていますが、候補の1つとして非常に重い粒子でできているという可能性が考えられています。もしその場合、崩壊によるガンマ線が放出されている可能性があります。ストックホルム大学のMilena Crnogorčević氏とTim Linden氏の研究チームは、「フェルミ」ガンマ線宇宙望遠鏡による15年分のデータを調査し、もしそのような重い粒子の崩壊で生じたガンマ線が無いかを調査しました。

結果としては、過剰なガンマ線放射は見つかりませんでした。このデータにより、暗黒物質の正体が運動エネルギーが高く、かつ重い粒子であるとしても(熱いWIMP)、粒子の質量は1~4TeV(1~4兆電子ボルト / 2~7×10のマイナス24乗kg)ではないことを示唆しています。これは暗黒物質の正体を探る上で、候補を除外するデータの1つとなります。

おおぐま座矮小銀河IIIは発見されたばかりであり、発見報告やそれを元にした研究のいずれの論文も査読前のプレプリントです。おおぐま座矮小銀河IIIに関する各種データが正しいかどうかを確かめたり、より精度の高いデータを取得したりするためには、さらなる追加観測が必要となります。

 

Source

文/彩恵りり

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