こちらに写っているのは「エリダヌス座」の一角。画像の幅は満月の視直径の約10分の1に相当します(視野は3.07×2.80分角)。中央付近でぼんやりと輝く2つの楕円銀河をはじめ、たくさんの銀河が視野全体に写っています。
これらの銀河は数百~数千の銀河で構成される巨大な天体「銀河団」を構成しています。銀河団には目に見える物質でできた星やガスだけでなく、電磁波では直接観測できない暗黒物質(ダークマター)も集まっています。その膨大な質量は時空間を歪ませて、向こう側の天体から発せられた光の進行方向を変える「重力レンズ」効果をもたらすことがあります。画像の中央から左上や右下には重力レンズ効果を受けたことで像が曲線状に歪んだ銀河が幾つか写っているといいます。
欧州宇宙機関(ESA)によると、この画像に写っている数々の銀河は当初「Abell(エイベル)3192」という1つの銀河団に属していると考えられていました。名前に含まれている「Abell」は、天文学者のジョージ・エイベル(George Abell)が発表した銀河団のカタログ「Abell(エイベル)カタログ」に収録されていることを示しています(※1)。
ところがAbell 3192の研究が進むにつれて、実際には遠く離れた2つの銀河団が存在することが明らかになりました。地球からの距離は手前側が約23億光年、奥側が約45億光年で、遠いほうの銀河団は「MCS J0358.8-2955」と呼ばれています(※2)。ESAによれば、Abell 3192の質量は太陽約30兆個分、MCS J0358.8-2955の質量は太陽約120兆個分だと考えられているということです。
冒頭の画像は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」と「広視野カメラ3(WFC3)」で取得したデータ(可視光線と近赤外線のフィルターを使用)をもとに作成されたもので、ESAから“ハッブル宇宙望遠鏡の今週の画像”として2023年11月27日付で公開されています。
■脚注
※1…Abell 3192は1989年のカタログ更新時に追加。更新されたカタログはエイベルとともに研究に携わったハロルド・コーウィン(Harold Corwin)とロナルド・オロウィン(Ronald Olowin)の名前も含めて「ACOカタログ」 とも呼ばれており、Abell 3192は「ACO 3192」とも呼ばれる。
※2…「MCS」はX線で明るい銀河団を調査した観測プロジェクト「Massive Cluster Survey」の略称(MACSと略す場合も)。
《記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています》
Source
- ESA/Hubble - One cluster or two?
- Hamilton-Morris et al. - A WEAK-LENSING AND NEAR-INFRARED STUDY OF A3192: DISASSEMBLING A RICHNESS CLASS 3 ABELL CLUSTER (The Astrophysical Journal Letters)
文/sorae編集部