短時間に大量の電波を放出する「高速電波バースト(FRB; Fast Radio Bursts)」は、その正体やメカニズムなどに多くの謎があり、現在でも研究が続いています。

ASTRON(オランダ電波天文学研究所)のM. P. Snelders氏などの研究チームは、周期的な電波の放出が唯一観測されている高速電波バースト「FRB 20121102A」の観測データを精査した結果、電波の放出時間が0.3~4マイクロ秒と、マイクロ秒単位(1マイクロ秒=100万分の1秒)のバーストを8回観測していることを明らかにしました。これは従来の高速電波バーストの10分の1未満の時間しか持続しない「超高速電波バースト(Ultra-Fast Radio Bursts)」の初めての観測事例であり、高速電波バーストのメカニズムを解明するための重要な手掛かりとなります。

【▲図1: 超高速電波バーストを観測したロバート・バード・グリーンバンク望遠鏡。 (Image Credit: NRAO, AUI, NSF) 】
【▲図1: 超高速電波バーストを観測したロバート・バード・グリーンバンク望遠鏡(Credit: NRAO, AUI, NSF)】

■高速電波バーストとは

短時間だけ強力な電波を放出する「高速電波バースト」は、2007年に発見されたばかりの高エネルギー天文現象です。高速電波バーストは名前の通り電波を放出する天文現象ですが、電波の放出時間は1秒未満しかないにも関わらず、エネルギー量は太陽が数日かけて放出する総エネルギーに匹敵します。そして1つの例外を除き、高速電波バーストは1回だけ観測される周期的ではない天文現象です。

観測された電波の性質から、高速電波バーストは中性子星などの強力な磁場を持つ天体から放出されるとされていますが、詳しい正体や発生メカニズムはほとんど明らかになっていません。このように考えられるのは、高速電波バーストの放出時間の多くがミリ秒単位(1ミリ秒=1000分の1秒)であり、電波放出源が数百km以下であると推定されるためです。

-PR-

また、これよりさらに短時間だけ、具体的にはマイクロ秒単位での電波放出も予測されています。しかしこれは、電波望遠鏡の観測精度の限界や、宇宙空間に薄く存在する物質の影響で電波が変調するなどの影響で、観測することが困難でした。このためマイクロ秒単位での電波放出は、これまで主のバーストに付随するサブバーストで観測されていたものの、孤立したバーストとして観測されたことはありませんでした。

■FRB 20121102Aで「超高速電波バースト」を初めて発見

前章では高速電波バーストは1つの例外を除いて周期的ではない天文現象と述べましたが、その唯一の例外が2012年11月2日に観測された「FRB 20121102A」です。地球から見て「ぎょしゃ座」にあるFRB 20121102Aは、数年後に独立した複数の観測チームが複数回の検出に成功しています。現在では1時間に数十回の電波放出があることが明らかにされており、FRB 20121102Aは高速電波バーストの中でも興味深い観測対象の1つとなっています。

-ad-

Snelders氏らの研究チームは、アメリカのウェストバージニア州に設置された「ロバート・バード・グリーンバンク望遠鏡」が2017年8月26日に収集した、FRB 20121102Aの5時間分の観測データを使用した分析研究を行いました。5時間分のうちの最初の30分間について、1秒あたり50万分の1までデータを分割した上で、ソフトウェアおよび機械学習を使用した分析を行い、通常とは異なるデータが含まれていないのかを探索しました。

【▲図2: 今回見つかった8つの超高速電波バースト。各バーストは孤立しており、持続時間は0.3~4マイクロ秒です。 (Image Credit: M. P. Snelders, et al.) 】
【▲図2: 今回見つかった8つの超高速電波バースト。各バーストは孤立しており、持続時間は0.3~4マイクロ秒です(Credit: M. P. Snelders, et al.)】

その結果、電波の放出時間が0.3~4マイクロ秒と、30マイクロ秒未満の孤立したバーストが8つ含まれていることを発見しました。これは通常の高速電波バーストの10分の1未満しか持続していないバーストとなります。Snelders氏らは過去の研究でこのような「超高速電波バースト」があることを予測していましたが、実際の観測事例は初めてです。

興味深いことに、超高速電波バーストは持続時間こそ極めて短いものの、電波の性質はそれよりずっと長いバーストとよく似ていることが分かりました。これは、高速電波バーストも超高速電波バーストも似たようなメカニズムで放出されていることを示唆する結果であり、高速電波バーストが放出されるメカニズムを解明する上で重要な手掛かりとなります。

■超高速電波バーストは他にもある?

Snelders氏らの研究チームは、超高速電波バーストは他にも観測されていると考えています。例えば超高速電波バーストの存在を予測した研究では、「FRB 20200120E」の電波放出の継続時間はわずか60ナノ秒 (0.06マイクロ秒、1ナノ秒は10億分の1秒) であると予測しています。しかし、FRB 20200120Eを含めた多くの高速電波バーストの観測データには、それを立証できるほど精度の高い観測データがありません。

高速電波バーストの電波は、銀河の間を薄く満たす高温のイオン化したガスの影響を受けていることが知られているため、高速電波バーストの分布を調べることは宇宙の大局的な構造を調べる上でも重要です。その研究過程で新たな超高速電波バーストも見つかるかもしれません。

 

Source

文/彩恵りり

-ads-

-ads-