「火星」は地質学的に不活発な惑星ですが、時々地震が観測されています。その起源について、少なくとも8回は隕石衝突の衝撃であると判明しています。

オックスフォード大学のBenjamin Fernando氏などの研究チームは、マグニチュード4.7を記録した観測史上最大の地震である「S1222a」について、火星の周回軌道にある全ての探査機の撮影データを調査し、隕石衝突の痕跡があるかどうかを調査しました。しかし隕石衝突の痕跡が見つからなかったことから、S1222aは火星の地殻で発生した地震活動である可能性が高いことが判明しました。地質学的に不活発な火星において、これほど大規模な地震が発生したことは興味深い発見です。

■マグニチュード4.7の地震「S1222a」

火星は “死んだ星” と形容されることがあります。表面が不毛な環境で生命の存在が期待できないという意味もありますが、火星の地質活動が不活発であることを指した言葉でもあります。直径が地球の半分ほどしかなく、表面から水が失われた火星は、内部の熱が地球よりも速く冷めてしまい、地殻を動かすプレートテクトニクスが早期に停止していると考えられているためです。このため、地震活動が活発な地球とは異なり、火星の地震は極めて頻度が低いと考えられています。

NASA (アメリカ航空宇宙局) の火星探査機「インサイト(InSight)」は、火星の地震活動を記録する目的で打ち上げられ、2018年から2022年までの4年間で1300回以上の振動を観測しました。その多くは隕石衝突によるものであると見られ、特に8回は隕石衝突によるものであると確認されています。最も規模が大きいものとしてはマグニチュード4.1±0.2の「S1000a」とマグニチュード4.0±0.2の「S1094b」が知られており、地震の解析に役立つ表面波が観測されています。S1000aとS1094bが隕石衝突によるものであるという証拠として、火星周回軌道上にある探査機が震源地 (震央) に直径約150mの新たなクレーターを撮影しています。

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【▲図1: 上からS1222a、S1094b、S1000aのそれぞれの地震記録。P波到達を0秒とし、点線がS波到達時間を示しています。S1222aはS1094bやS1000aより大規模であり、加速度のスケールが10倍違うグラフであることに注意。 (Image Credit: Fernando, et al.) 】
【▲図1: 上からS1222a、S1094b、S1000aのそれぞれの地震記録。P波到達を0秒とし、点線がS波到達時間を示しています。S1222aはS1094bやS1000aより大規模であり、加速度のスケールが10倍違うグラフであることに注意(Credit: Fernando, et al.)】

2022年5月4日、S1000aやS1094bよりもさらに大規模な地震である「S1222a」が観測されました。規模はマグニチュード4.7±0.2であり、火星では観測史上最大の地震です。S1222aは他の規模の大きな地震と性質が似ているものの、いくつか異なる点があることも分かりました。初期の分析結果は、S1222aは1点に衝撃が加わる隕石衝突のような現象が原因ではないことを示唆していましたが、隕石衝突をはっきりと否定できるほどではありませんでした。

■S1222aは隕石衝突によるものではないと判明

Fernando氏らの研究チームは、S1222aが隕石衝突であった場合に予測される火星表面の変化を見つけるため、オービター(火星周回軌道上にある探査機)のデータを探ることにしました。もしS1222aが隕石衝突によって発生した場合、直径300mほどのクレーターが発生すると予測されます。また、衝突の数時間後には舞い上がった塵による雲が見られるなど、他の変化も撮影できるはずです。このような規模の衝突は100年に1回程度の頻度で起こると推定されます。

オービターのカメラは高解像度なものであるほど視野が狭いため、震源地を撮影していても衝突現場を見逃している可能性があります。このためFernando氏らは、以下に挙げるオービター全ての画像データを利用しました。これはS1222a発生時に稼働していた全てのオービターを利用していることになり、オービター全ての協力を仰いだ研究は初めてであると研究チームは考えています。

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・HOPE(アル・アマル) (ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター)
・エクソマーズ・トレース・ガス・オービター (欧州宇宙機関)
・マンガルヤーン (インド宇宙研究機関)
・マーズ・エクスプレス (欧州宇宙機関)
・2001マーズ・オデッセイ (アメリカ航空宇宙局)
・マーズ・リコネッサンス・オービター (アメリカ航空宇宙局)
・MAVEN (アメリカ航空宇宙局)
・天問1号 (中国国家航天局)

【▲図2: 各オービターが観測した火星表面の範囲を示す地図。白い星印が推定震央で、黄色い四角が重点的にクレーターやその他表面の変化を捜索した場所を示しています。 (Image Credit: Fernando, et al.) 】
【▲図2: 各オービターが観測した火星表面の範囲を示す地図。白い星印が推定震央で、黄色い四角が重点的にクレーターやその他表面の変化を捜索した場所を示しています(Credit: Fernando, et al.)】

徹底的な調査の結果、S1222aが発生したとみられる場所に、新たなクレーターや衝突による大気活動は見つかりませんでした。このことは、S1222aが隕石衝突によるものではなく、火星の地殻内部で発生した現象である可能性が高いことを裏付けています。

■S1222aの解析は火星の理解を深める

S1222aの解析は初期段階にあり、まだ多くのことは分かっていません。しかし、地質活動が不活発であると考えられている火星で、これほど大規模な地震が発生するというのはとても興味深い発見です。

今のところ、S1222aの震源は深さ18~28kmの傾斜したすべり面を持つ断層であると考えられており、地殻内に蓄積した力 (応力) が解放されて生じたものであると考えられます。火星は数十億年かけて少しずつ冷えて収縮しており、S1222aは収縮によって蓄積した応力の解放によって発生したものであると考えられます。ただしそのためには、火星の地殻が場所によって収縮度合いが違うことが必要です。

S1222aのような地震は、火星の地殻や内部構造が場所によって異なることを反映した結果であると考えられます。さらなる分析は火星の理解を深めることに繋がるでしょう。

 

Source

文/彩恵りり

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