こちらは「いて座」(射手座)の方向約150万光年先の矮小不規則銀河「NGC 6822」の中央付近です。矮小銀河は数十億個以下の恒星からなる小さな銀河で、規模は天の川銀河の100分の1程度。矮小不規則銀河は、そんな矮小銀河のなかでも星やガスが不規則に分布しているものを指します。
NGC 6822は私たちが住む天の川銀河と同じ「局部銀河群(局所銀河群)」に属しており、1884年にアメリカの天文学者エドワード・エマーソン・バーナード(Edward Emerson Barnard)によって発見されたことから「Barnard's Galaxy(バーナードの銀河)」とも呼ばれています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています(※)。
※…冒頭の画像では1.15μmを青、2.0μmをシアン、3.56μmを黄、4.44μmを赤で着色しています。
欧州宇宙機関(ESA)によると、明るい星々は淡い青やシアンで示されていますが、実際には可視光線の赤よりも波長の長い近赤外線で捉えられています。赤外線は塵に遮られにくい性質があるため、豊富な塵を含んだ雲の向こうに隠されていて可視光線では見えない星々を観測するのに適しているといいます。画像の中央付近にはNGC 6822に広がるガスが淡く暗い赤色で示されています。
この宇宙が誕生したばかりの頃には、水素、ヘリウム、それにわずかな比率のリチウムしか存在していなかったと考えられています。天文学で「金属」と総称されるヘリウムよりも重い元素のほとんどは、恒星内部の核融合反応によって生成されてから外部へ放出されたり、重い恒星が起こす超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されたとみられています。言い換えれば、宇宙の金属量は恒星の世代交代が進むとともに増えてきたことになります。
ただ、銀河の金属量はどれも同じというわけではありません。ESAによればNGC 6822は金属量が少なく、初期の宇宙における星の形成や塵の進化を理解する上で興味深い対象であることから、ウェッブ宇宙望遠鏡による観測が行われたということです。
冒頭の画像は“ウェッブ宇宙望遠鏡の今月の画像”として、ESAから2023年9月27日付で公開されています。
Source
- ESA/Webb - NIRCam’s view of NGC 6822
文/sorae編集部