「反物質」に働く重力は「反重力」ではないと確認 直接測定の実験は世界初
【▲ 図1: 今回のALPHA-gによる実験結果は、反物質には物質と同じ重力が働いていることを明らかにしました。 (Image Credit: NASA, Reid Wiseman (背景) ) 】

普通の物質に対して一部の性質が反転している「反物質」の性質は、理論的な関心が高い一方で測定は難しく、実験的に証明されていない性質がいくつかあります。その1つが反物質に働く重力の向きです。大多数の物理学者は普通の物質と同じく、反物質にも同じ方向に重力が働くと考えていますが、重力とは反対方向の「反重力」が働いてる可能性を否定する実験的な証拠は、これまで存在しませんでした。

反物質の1つである「反水素」の研究を行う「ALPHA」実験の国際研究チームは、反物質に働く重力の向きと強さを実験装置「ALPHA-g」で測定した結果、反水素に働く重力の向きと強さは普通の物質と一致し、反物質に反重力が働いている可能性は事実上除外できることが明らかになったとする研究成果を発表しました。この結果は、現代物理学の枠組みでは「反重力は存在しない」と言い換えることもできます。

【▲ 図1: 今回のALPHA-gによる実験結果は、反物質には物質と同じ重力が働いていることを明らかにしました。 (Image Credit: NASA, Reid Wiseman (背景) ) 】
【▲ 図1: 今回のALPHA-gによる実験結果は、反物質には物質と同じ重力が働いていることを明らかにしました(Credit: NASA, Reid Wiseman (背景))】

■これまでも「反物質に働く重力は普通の物質と同じ」と考えられていた

私たちの身近にある物質は基本的に「(正の)粒子の組み合わせでできた(正の)物質」です。その一方で、私たちの宇宙には(正の)粒子と比較して一部の性質が反転している「反粒子」が存在し、反粒子の組み合わせでできた「反物質」が存在することも分かっています。

理論上、物質と反物質の性質は「向き(符号)も強さも同じ」あるいは「強さは同じだが向きは反対」のどちらかだと予想されており、これまでの実験でもほとんどの場合で成立していることが確かめられています。

ただし、反物質が普通の物質に出会うと対消滅してしまうため、反物質の性質を実験的に調べることは一般的に極めて困難です。そのため、「反物質に働く重力の向きと強さ」という基本的な性質さえも、これまでは確認できていませんでした。

反物質の性質の一部が普通の物質の性質と反対向きであるならば、反物質に働く重力も反対向きになる、つまり「反重力」が働くような性質を反物質が持つ可能性もあるのではないかと、素朴に考えることはできます。それでも、反物質に働く重力の向きと強さは、これまで実験的に証明されたことはありませんでした。

■反物質に働く重力 (または反重力) を確かめようとする理由

実験的に確かめられたわけではないにも関わらず、なぜ多くの物理学者は反物質に働く反重力を否定してきたのでしょうか。また、否定しているにも関わらず、反物質に働く重力を実験的に測定しようと試みてきたのはなぜなのでしょうか。

「量子力学」とともに現代物理学を成り立たせている「一般相対性理論」は、重力の振る舞いを非常に正確に記述していることが数々の実験で確かめられています。その一般相対性理論では、物質に働く重力の強さは物質の種類によって変わらないという「弱い等価原理(Weak Equivalence Principle)」が予言されています。弱い等価原理が正しいことは長年の研究で確かめられており、正しくないない可能性は1000兆分の1程度であることが2022年の時点で確かめられています。

また、普通の物質に対して反転しているのは反物質の性質の一部であり、反物質に働く重力が反対であることを示す証拠は見つかっていません。もしも反物質に働く力が反重力であると仮定する場合、それは反物質が「負の質量(ネガティブ・マス)」 (※1) を持つことを暗示します。しかし、「質量エネルギー保存則」 (※2) や「CPT対称性」 (※3) をもとに、実際には反物質が負の質量を持つとは考えられておらず、実験的にも反物質とそれに対応する (正の) 物質の質量の違いは報告されていません。多くの物理学者が反物質に働く反重力を否定してきた背景には、こうした事情があります。

ただし、一般相対性理論の正しさは多くの研究で確かめられているものの、ブラックホールの中心部や誕生直後の宇宙といった量子力学を考慮しなければならない非常に極端な環境における一般相対性理論の振る舞いはよく理解されていません。そのような環境での振る舞いを理解するには一般相対性理論と量子力学が1つの理論に統合されなければなりませんが、その試みが未だに成功していないことが大きな理由です。

これとは別に、宇宙の大半を占めると考えられているものの、正体が判明していない「暗黒物質(ダークマター)」 (※4) や「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」 (※5) の存在も、重力に関する理解が完全ではないことを示唆しています。実際に、一部の研究では暗黒エネルギーを反物質に働く反重力だと仮定する試みもありました。

また、ほとんどの場合、物質と反物質の性質は一部が反転していても強さは一緒です。ところが、「弱い相互作用 (※6) ではこの関係が成立していないことがこれまでに明らかになっています。私たちの宇宙には物質が満ちており、反物質がほとんど存在しないという「バリオン数生成問題 (※7) についても、物質と反物質のわずかな性質の差に理由があるのではないかと考えられており、わずかな性質の差を突き止める研究も日々行われています。

さらに、アルベルト・アインシュタインが一般相対性理論を発表したのは1915年ですが、反物質の存在が初めて予言されたのは1928年、実験的に確認されたのは1932年であるため (※8) 、一般相対性理論を構築する過程で反物質は考慮されていなかったとも言えます。正の質量を持つ反物質に反重力が働くことは現在の理論的枠組みでは予言されていないため、仮にそうだとすれば新しい理論が必要になることを意味しますが、証明するには実験的な検証が必要となります。こうした様々な事情を考慮すると、理論が間違っている可能性を考慮し、反物質に働く重力の振る舞いを実験で確かめることは(ALPHA実験の研究チームの言葉を借りれば)“賢明である(prudent)” と言えます。

■反物質に働く重力の測定は極めて困難

“間接的証拠” はこれだけ揃っているものの、「反物質に働く重力」を直接測定した実験はこれまでに無かったため、「地球上の反物質は物質と同じように落下するのか?」という疑問に対する “直接的証拠” は存在しませんでした。反物質の実験には数々の困難が壁として立ちはだかるのがその理由です。

まず、反物質はこの宇宙にはほとんど存在しないため、実験を行うには高エネルギーを与えて反物質を生成する必要があります。得ようとする反物質が複雑な構造になればなるほど必要なエネルギー量は多くなり、同時に生成された無関係な副産物を分離するなどの様々な手間やコストがかかります。

苦労して作った反物質も、普通の物質と出会えば対消滅してエネルギーに戻ってしまいます。そのうえ生成された反物質は運動エネルギーが高い状態であり、重力の影響が無視できるほどの高速で運動していることも珍しくありませんので、何らかの方法で運動エネルギーを取り除く必要があります。

対消滅するのを防いだり運動エネルギーを減少させたりするために、実験では生成した反物質を磁力で閉じ込める方法が使われます。実は、反物質に働く重力を測定する上では、この方法が極めて大きな問題となっていました。磁力、より正確に言えば「電磁相互作用」は、同じ距離で働く重力相互作用と比べて10の36乗倍 (1澗 (かん) 倍=1兆×1兆×1兆倍) も強い力です。小さな磁石が重力に逆らって鉄板に逆さに貼りつく様子からもわかるように、磁場や電場は反物質の動きをわずかな力で簡単に変えてしまうのです。

電場の問題については反陽子と陽電子が結合して電気的に中性となった反物質である「反水素」原子を実験に利用することで解決できますが、反水素にも磁場は働くため、依然として大きな問題のままでした。

■反水素の落下を「ALPHA-g」で実験

【▲図2: 反水素が注入される真空パイプを含んだ実験装置を挿入している、建設中のALPHA-g実験装置の様子。 (Image Credit: CERN) 】
【▲図2: 反水素が注入される真空パイプを含んだ実験装置を挿入している、建設中のALPHA-g実験装置の様子(Credit: CERN)】

反水素を使って反物質の性質を測定する研究を行っている「ALPHA」実験の国際研究チームは、実験装置「ALPHA-g」を使用した2022年の実験で、反物質に働く重力の向きと強さを直接測定することに世界で初めて成功しました。この結果は、反物質の制御方法について30年もの長きに渡り実験と研究を重ねたことで蓄積された技術や知識によって、初めて得られたものです。

【▲図3: ALPHA-g実験装置の概略図。今回の実験では真空パイプ中の高さ26.5cmの範囲が使われました。実験時には上下を塞ぐ “蓋” の役割を果たす電磁石 (Mirror coli G & Mirror coli A) の磁力を弱めることで反水素を落下させます。 (Image Credit: E. K. Anderson, et al.) 】
【▲図3: ALPHA-g実験装置の概略図。今回の実験では真空パイプ中の高さ26.5cmの範囲が使われました。実験時には上下を塞ぐ “蓋” の役割を果たす電磁石 (Mirror coli G & Mirror coli A) の磁力を弱めることで反水素を落下させます(Credit: E. K. Anderson, et al.)】

実験ではまず、別々の装置で生成した反陽子と陽電子をALPHA-g内で混合し、反水素を作ります。反水素をALPHA-g内に閉じ込めるには十分な冷却(運動エネルギーの減少)が必要となるため、反陽子の生成段階で運動エネルギーを減少する他、反物質生成装置やALPHA-gで反水素を閉じ込める領域内を液体ヘリウムでマイナス269℃(4K)まで冷却しています。

この措置により、反水素の運動エネルギーは温度に換算して約マイナス272.7℃(約0.5K)まで抑えられ、垂直方向に立てられた真空のパイプ内(直径4.4cm/高さ25.6cm)に電磁石の磁場によって収めることができます。これほどまでに運動エネルギーを抑えても、パイプ内の反水素は約100m/sの速さで移動し、磁場に跳ね返される衝突を1秒間に数百回も繰り返します。

【▲図4: 今回の実験の概略。①実験開始時には、上下を磁力で閉じ込めた真空パイプ内に反水素元素を約100個生成します。②上下の磁力を徐々に弱めると、反水素は落下または浮上します。出口から出た反水素は物質と出会って消滅し、エネルギーを放出するため、上下どちらに幾つの反水素が移動したのかを数えることができます。 (Image Credit: Keyi "Onyx" Li, U.S. National Science Foundation / アニメーションから引用、日本語訳および説明の加筆は筆者による) 】
【▲図4: 今回の実験の概略。①実験開始時には、上下を磁力で閉じ込めた真空パイプ内に反水素元素を約100個生成します。②上下の磁力を徐々に弱めると、反水素は落下または浮上します。出口から出た反水素は物質と出会って消滅し、エネルギーを放出するため、上下どちらに幾つの反水素が移動したのかを数えることができます(Credit: Keyi "Onyx" Li, U.S. National Science Foundation / アニメーションから引用、日本語訳および説明の加筆は筆者による)】

次の手順では、反水素を閉じ込めるために装置内にかけられている磁場を20秒間だけ除去します。パイプの上下それぞれの出口は電磁石による磁場で出口に “蓋” をしていますが、磁場が弱まれば反水素は出口から逃げ出すことができます。

もしも反物質が普通の物質と同じように重力を受ける場合、パイプの上側に浮上する反水素よりも、下側に落下する反水素の方が多いはずです。事前の計算では、上側に浮上する反水素は約20%なのに対し、下側に落下する反水素は約80%だと予測されました。パイプから逃げ出した反水素は装置を構成する無数の物質のどれかと衝突して対消滅し、エネルギーを放出するため、このエネルギーを捉えることで反水素が上下どちらに移動したのかを突き止めることができます。

ただし、重力が極めて弱い力であることを考慮すると、反物質に関する未知の性質などが実験結果を左右する可能性があります (※9) 。このため研究チームは、上下の磁場を全く同じ強度で弱めるだけでなく、強度に差をつける実験も行いました。磁場の強度に差が生じれば重力の影響を無視できる落下や浮上が発生しますが、その振る舞いはシミュレーションで予測できます。もしもシミュレーション結果と実験結果に大きな誤差がない場合、ALPHA-gでの実験結果が重力を反映したものだと証明することができます。今回の実験では、上下の磁場が全く同じ強度の場合から最大で重力の3倍になる強さまで、様々な強度差の磁場がかかった反水素の振る舞いも確認されました。

今回の研究では1回あたり約100個の反水素原子をALPHA-g内で生成・落下させる実験が、それぞれの磁場の強度で6回または7回繰り返されました。各実験における反水素原子の具体的な生成数や消滅数は不明であるため、統計的な処理を行うことで実験条件ごとの反水素の挙動が調べられ、結果が算出されました。

■反物質に働く重力は普通の物質と同じだと世界で初めて直接確認!

【▲図5: 今回の実験結果を事前のシミュレーションと比較したグラフ。実験結果と最も一致するシミュレーションは、通常の重力が働いていると仮定した場合であることが分かります。 (Image Credit: E. K. Anderson, et al. / 日本語訳および説明の加筆は筆者による) 】
【▲図5: 今回の実験結果を事前のシミュレーションと比較したグラフ。実験結果と最も一致するシミュレーションは、通常の重力が働いていると仮定した場合であることが分かります(Credit: E. K. Anderson, et al. / 日本語訳および説明の加筆は筆者による)】

ALPHA-gでの実験の結果、反水素に働く重力の向きは通常の物質と同じ下向きであり、その強さは普通の物質に対して0.75±0.29倍 (※10) と、誤差の範囲内で一致することが判明しました。

仮に、この実験結果が偶然の結果だとすると、次に可能性が高いのは「反水素には重力が働かない」という結果であり、その確率は0.029%です。いずれにしても「反水素に反重力が働いている」確率は1000兆分の1未満という、具体的な数値にする意味が乏しいほど小さな可能性しかないため、研究チームは「反物質に反重力が働いている可能性はない」と結論付けています。

また、反重力が働く事実上唯一の候補であった反物質において存在が否定されたことから、現在の物理学の枠組みでは「反重力は存在しない (※11) と言い換えることもできます。

一見すると当たり前の結果であり、インパクトが伝わりにくいかもしれません。しかし、「反物質には普通の物質と同じ向き・同じ強さの重力が働く」という “当たり前の予測” は、数多くの思考実験と間接的な推論で成り立っていたものであり、間違っている可能性がゼロではありませんでした。その意味で今回のALPHA-gでの実験は、従来の “当たり前の予測” に強力な証拠を与える結果となりました。また、可能性は低いながらも、反物質に反重力が働いている場合は暗黒エネルギーの正体やバリオン数生成問題に影響を与える可能性があるため、今回の実験結果はいくつかの宇宙モデルを直接的に否定することになります。

ALPHA実験の研究チームは、実験精度を高めることで、反物質に働く重力の強さをより具体的に算出することを次の目標としています。物質と反物質の重力の強さに差があるかどうかを調べることで、これまで物質のみで考えられてきた弱い等価原理について、別の方向からの検証を行うことができます。実際のところ、今回の実験で使われたのは長さが約3mあるALPHA-gの真空パイプ全体の一部であり、もっと高さを取ることで、より精度の高い実験を行うことが可能です。このような実験を通じて物質と反物質の違いを詳細に調べる取り組みは、現在の物理学における多くの謎を解決する可能性を秘めています。

■脚注

※1…もしも質量が負の値を持つ物体(物質か反物質かを問わない)が存在すると仮定すれば、生じる重力も負の値、つまり反重力となることが、一般相対性理論を近似的に解いた場合に予測されます。ただしこの場合、正の質量を持つ物体は正負両方の質量を持つ物体を重力で引っ張り、負の質量を持つ物体は正負両方の質量を持つ物体を反重力で遠ざけるため、質量の絶対値が同じ正の質量の物体と負の質量の物体を近くに置くと、両者が無限に加速し続ける「暴走運動(runaway motio)」が発生します。暴走運動状態の物体は一般相対性理論に反して、総質量、総エネルギー、総運動量がゼロであるという奇妙な状況が発生します。一般相対性理論を解いて生じたにも関わらず、一般相対性理論の枠組み内で自ら矛盾する状況が発生した場合、前提が誤っていると考えるため、負の質量の物体は存在しないと理論的に考えられます。

※2…物質と反物質の対生成には、それらの総質量に等しいエネルギーが必要です。もしも反物質が負の質量を持つとすれば質量に等しいエネルギーは負の値となり、対生成に必要なエネルギーはゼロになってしまうという前提の破綻が生じます。

※3…電荷などの「チャージ」、粒子の位置の「パリティ」、そして「時間(タイム)」のそれぞれを全て反転させると、反転させる前と全く同じ状況が発生するという物理の基本原理を「CPT対称性」と呼びます。弱い相互作用におけるCP対称性のように一部の対称性が成立していない状況でも、CPT対称性は成り立つことが知られています。物質と反物質の性質の違いを調べる実験では反物質でもCPT対称性が成立することが確認されており、これは反物質に反重力が働いていないことの証拠の1つとなります。

※4…可視光線などの電磁波では見えないものの、重力の観測で存在が示唆されている物質を暗黒物質と呼びます。宇宙には普通の物質と比べて5倍も多い暗黒物質が存在していますが、詳しい正体は現在でも分かっていません。

※5…私たちの宇宙は膨張しており、その速度は重力によって減速するはずですが、観測結果によればむしろ加速しています。これは重力よりもずっと強い “反重力” とも言える未知の斥力が働いているはずです。この未知の力の源を暗黒エネルギーと呼びます。暗黒エネルギーの正体は現在でも分かっていません。また、暗黒エネルギーを反重力と表現するのは例え話に近く、実際には暗黒エネルギーと反重力の性質はかなり異なることが分かっています。このため、反重力の存在の否定は暗黒エネルギーの存在には影響を及ぼしません。

※6…原子核を構成する素粒子(クォーク)の種類を変えたり、ニュートリノを他の物質と相互作用させたりする力を弱い相互作用と呼びます。弱い相互作用によって起こる物理現象は物質と反物質でわずかながら異なる振る舞いをすることが明らかにされており、これを「CP対称性の破れ」と呼びます。

※7…物質と反物質に関する現在の理論や実験では、物質と反物質は常にペアで生成する「対生成」が確認されています。しかしその場合、全ての物質と反物質は出会って再びエネルギーとなってしまう「対消滅」を起こすはずです。実際の宇宙には物質が豊富に存在し、反物質はほとんど残されていないため、何らかの理由で対生成に10億分の1ほどのわずかな差が生じたと考えられますが、その理由は判明していません。これを「バリオン数生成問題」と呼びます。もしも反物質に反重力が働いていると仮定すると、反物質は物質と反物質の両方から逃げ出すため、対消滅を免れて宇宙に薄く分布しているとも考えられます。

※8…ポール・ディラックは電子の反物質である陽電子の存在を1928年に予言しました。そのことをカール・デイヴィッド・アンダーソンが実験的に立証したのは1932年になってからのことでした。ただし、反物質に関するディラックのオリジナルの理論は、現在の理論とは若干異なります。

※9…実験に影響する可能性があると検討された背景は、「反水素がわずかに電気を帯びている可能性(反陽子と陽電子の電荷の差は理論的には等しいものの、実験的にはごくわずかな差がある可能性を否定できない)」「反水素の磁気双極子モーメント値の不確かさ(実験的には通常の水素とは異なる値である可能性を否定できない)」「基底状態の反水素原子の分極率の不確かさ(実験的には通常の水素とは異なる値である可能性を否定できない)」「真空パイプ内に存在する除去しきれない原子(反水素落下実験中に衝突し、偽のシグナルを発する可能性がある)」です。これらの影響は今回の実験の精度よりもずっと小さな影響しか与えないことが明らかにされています。

※10…より正確には重力加速度の0.75 ± 0.13 (統計誤差 + 系統誤差) ± 0.16 (シミュレーション誤差) 倍。

※11…一般相対性理論と量子力学を統合した拡張理論においては、未知の素粒子である「重力光子(Graviphoton)」が伝達する「第5の力(Fifth force)」のように、反重力のような力を予言する理論もあります。しかし、反重力を予言しない拡張理論も多く存在しており、どの理論が正しいのかどうかも判明しておらず、そしてどの理論も未完成のままというのが現状です。このため、現在の物理学の枠組みを超えた領域での反重力の有無に言及することは、現時点では不可能です。また、予言された反重力が正しいとしても、その一部は重力とは強さや伝達距離が異なることが分かっています。そして、一部の拡張理論が予言する反重力は実験的に否定されています。

 

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文/彩恵りり

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