月の氷の埋蔵量は従来の予想よりも少ない可能性 将来の月面探査にも影響?
【▲ 月の南極にあるシャクルトン・クレーターとその周辺。アメリカ航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載されている光学観測装置「LROC」で取得した月面の画像と、韓国航空宇宙研究院(KARI)の月探査機「タヌリ(KPLO)」に搭載されているNASAの観測装置「ShadowCam」で取得したシャクルトン・クレーター内部の画像を組み合わせて作成(Credit: Mosaic created by LROC (Lunar Reconnaissance Orbiter) and ShadowCam teams with images provided by NASA/KARI/ASU)】

こちらは月の南極にあるシャクルトン・クレーター(Shackleton、直径約21km)とその周辺の様子です。アメリカ航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載されている光学観測装置「LROC」で取得した月面の画像と、韓国航空宇宙研究院(KARI)の月探査機「タヌリ(KPLO)」に搭載されているNASAの観測装置「ShadowCam」で取得したシャクルトン・クレーター内部の画像を組み合わせて作成されています。

【▲ 月の南極にあるシャクルトン・クレーターとその周辺。アメリカ航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載されている光学観測装置「LROC」で取得した月面の画像と、韓国航空宇宙研究院(KARI)の月探査機「タヌリ(KPLO)」に搭載されているNASAの観測装置「ShadowCam」で取得したシャクルトン・クレーター内部の画像を組み合わせて作成(Credit: Mosaic created by LROC (Lunar Reconnaissance Orbiter) and ShadowCam teams with images provided by NASA/KARI/ASU)】
【▲ 月の南極にあるシャクルトン・クレーターとその周辺。アメリカ航空宇宙局(NASA)の月周回衛星「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載されている光学観測装置「LROC」で取得した月面の画像と、韓国航空宇宙研究院(KARI)の月探査機「タヌリ(KPLO)」に搭載されているNASAの観測装置「ShadowCam」で取得したシャクルトン・クレーター内部の画像を組み合わせて作成(Credit: Mosaic created by LROC (Lunar Reconnaissance Orbiter) and ShadowCam teams with images provided by NASA/KARI/ASU)】

NASAによると、ShadowCamの光感度はLROCと比べて200倍も高く、シャクルトン・クレーター内部のように永久影(太陽光が届かない範囲)が生じている月面の暗い領域の詳細な地形を捉えるのに適しています。一方、太陽光に照らされる領域はShadowCamで捉えるには眩しすぎるため、LROCで取得した画像と組み合わせることで、明暗双方の地形の特徴を包括した地図画像を作成できるのだといいます。

これまでの観測結果や研究成果をもとに、月の極域のクレーター内に生じた永久影には水の氷が埋蔵されているとみられています。月面の水は月に衝突した小惑星や彗星によって運ばれたり、火山活動によって月の内部から放出されたりした他に、主に陽子(水素の原子核、水素イオン)からなる太陽風が月面に吹き付けられることで継続的に生成されているとも考えられています。

【▲ アルテミス3ミッションにおける13か所の着陸候補地(水色)を示した図(Credit: NASA)】
【▲ アルテミス3ミッションにおける13か所の着陸候補地(水色)を示した図(Credit: NASA)】

水は人間の生存に欠かせないだけでなく、電気分解すれば呼吸用の酸素やロケットエンジン用の推進剤も供給できることから、月の永久影に埋蔵されているとみられる水の氷は注目されています。NASAの月面探査計画「アルテミス(Artemis)」で最初に有人月面探査が行われる「アルテミス3」ミッション(2025年実施予定)でも、着陸地点の候補地はシャクルトン・クレーター付近に集中しています。将来の有人月面探査ミッションや恒久的な月面基地では月で採掘した水が使われることになるかもしれませんが、月の永久影に埋蔵されている水の氷の量は多く見積もられすぎている可能性もあるようです。

米国惑星科学研究所(PSI)のNorbert Schoerghoferさんとサウスウエスト研究所(SwRI)のRaluca Rufuさんは、月の自転軸の傾きと公転軌道の傾斜角がどのように変化してきたのかをシミュレーションで分析した結果、永久影の大半は今から22億年以内に生じており、どんなに古くても34億年以内だとする研究成果を発表しました。月ではその歴史の初期に彗星の衝突や火山活動などが活発に起きていたものの、永久影が34億年前以降に生じ始めたのだとすれば古い時代にもたらされた水は揮発してしまい、永久影には残っていないことになるといいます。SchoerghoferさんとRufuさんの研究成果をまとめた論文はScience Advancesに掲載されています。

【▲ 今回の分析結果をもとに月の南極域における永久影の年齢を示した図(現在の地形で計算)。赤は33億年前、緑は21億年前、青は最近になってから永久影が生じ始めたと推定されている(Credit: Courtesy of Schörghofer/Rufu)】
【▲ 今回の分析結果をもとに月の南極域における永久影の年齢を示した図(現在の地形で計算)。赤は33億年前、緑は21億年前、青は最近になってから永久影が生じ始めたと推定されている(Credit: Courtesy of Schörghofer/Rufu)】

たとえば、NASAは2009年のLRO打ち上げに相乗りする形で、月の南極近くにあるカベウス・クレーター(Cabeus、直径約100km)に重量約2トンの物体(LROの打ち上げに使われたロケットの一部、セントール上段)を衝突させ、舞い上がった物質を観測する実験「エルクロス(LCROSS)」を実施しました。この時に得られたデータは月に水が存在することを示す証拠となりましたが、Schoerghoferさんらの分析によればカベウス・クレーターに永久影が生じ始めたのは今から約9億年前であり、エルクロスで検出された水は月の歴史全体からすれば比較的最近蓄積されたものだったことになります。

Schoerghoferさんは「永久影の平均年齢は最大でも約18億年です。月に古代の水の氷は埋蔵されていません」「永久影の年齢は月の極地に埋蔵される可能性がある水の氷の量を左右します。月で水を探す今後の有人または無人の探査ミッションを計画する上で、永久影における水の氷の量に関する情報は特に重要です」とコメントしています。2024年には表面下の物質を採取するためのドリルを搭載したNASAの無人月探査車「バイパー(VIPER)」が打ち上げられて永久影を探査することになっており、月に埋蔵されている水の氷に関する今後の探査結果が注目されます。

 

Source

  • Image Credit: Mosaic created by LROC (Lunar Reconnaissance Orbiter) and ShadowCam teams with images provided by NASA/KARI/ASU, Courtesy of Schörghofer/Rufu
  • NASA - NASA Moon Camera Mosaic Sheds Light on Lunar South Pole
  • PSI - The Young Age of Lunar Permanently Shadowed Areas
  • SwRI - New findings suggest Moon may have less water than previously thought
  • Schoerghofer and Rufu - Past extent of lunar permanently shadowed areas (Science Advances)

文/sorae編集部

Last Updated on 2023/09/29