こちらは「ヘルクレス座」の一角を捉えた画像です。ヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営するチリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の広視野面分光観測装置「MUSE」を使って取得されました。画像の横幅は満月の視直径の約30分の1に相当します(視野は1.05×1.01分角)。
画像の中央には不思議な姿をした天体が写っています。オレンジ色の輝きを中心に、4つの青白い輝きがまるで十字を描くように配置されているその様子を、ESOは花びらにたとえています。といっても本当にこのような形の天体が存在するわけではなく、実際には2つの銀河が関わっています。
宇宙に咲いたこの花は、「重力レンズ効果」が作り出した見かけの姿です。重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球では像が歪んだり拡大されたり、時には同じ天体の像が複数に分裂して見えたりする現象です。
この場合、オレンジ色に見える手前の銀河(約54億光年先)の質量によって、その向こう側にある遠いほうの銀河(110億光年以上先)を発した光の進む向きが変化し、地球からは像が4つに分裂して見えているのです。重力レンズ効果はアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言されていた現象であることから、画像のように十字を描くように分裂して見えるものは「アインシュタインの十字架」(Einstein Cross、アインシュタイン・クロス)とも呼ばれています。
ESOによると、ジェミニ天文台のAleksandar Cikotaさんを筆頭とする研究チームが重力レンズ効果を受けた遠いほうの銀河の像を分析したところ、星を急速に形成するスターバースト銀河の可能性が示されたということです。冒頭の画像はESOの今週の画像として2023年9月11日付で公開されています。
※記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
Source
- Image Credit: ESO/A. Cikota et al.
- ESO - A flower with four petals
- Cikota et al. - DESI-253.2534+26.8843: A New Einstein Cross Spectroscopically Confirmed with Very Large Telescope/MUSE and Modeled with GIGA-Lens (The Astrophysical Journal Letters)
文/sorae編集部