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太陽以外の天体の周囲を公転する太陽以外の天体を公転する「太陽系外惑星」は、1992年の初発見以来5000個以上が発見されていますが、観測手法の限界から、これまでに公転周期が50日を超える惑星はほとんど見つかっていません。

ニューメキシコ大学のIsmael Mireles氏などの研究チームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙望遠鏡「TESS(トランジット系外惑星探索衛星)」の観測データおよびフォローアップ観測のデータから、新たに太陽系外惑星「TOI-4600b」と「TOI-4600c」を発見したと報告しました。

TOI-4600cの公転周期は約483日であり、現時点ではTESSの観測で発見された最も公転周期の長い惑星となります。また、2つの惑星は推定される表面温度をもとに、木星や土星のような低温の巨大ガス惑星と、太陽系の外で多数発見されている高温のホット・ジュピターの間の性質を持つと考えられます。

【▲ 図1: TOI-4600の周りを公転する2つの惑星の想像図。 (Image Credit: UNM Physics and Astronomy) 】
【▲ 図1: TOI-4600の周りを公転する2つの惑星の想像図(Credit: UNM Physics and Astronomy)】

■長い公転周期の太陽系外惑星は滅多に見つからない

太陽系外惑星を発見する方法は幾つかありますが、主に使われているのは「トランジット法」と「視線速度法」です。

トランジット法は、地球から見て惑星が恒星の手前を横切る場合に使用できる手法です。ある天体の手前を別の小さな天体が横切る現象は「トランジット」と呼ばれており、この現象を利用することからトランジット法と呼ばれています。恒星の手前を横切る惑星は恒星の一部を隠すので、恒星の見た目の明るさがわずかですが減少します。惑星の通過は周期的かつ急激な明るさの変化として観測されますが、恒星の明るさを変化させる他の原因(恒星そのものの活動など)と区別する必要があります。

一方、視線速度法は恒星の光の波長に現れる変化を利用する手法です。惑星が恒星の周りを公転すると、恒星は惑星の重力に引っ張られ、ごくわずかに運動します。この様子を地球から見ると、恒星が地球に対して周期的に近づいたり遠ざかったりしているように見えます。地球に届く恒星の光は、このわずかな運動によるドップラー効果で波長が変化するため、波長を分析してその周期的な変化を捉えることで、間接的に惑星を発見することができます。

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ただし、トランジット法と視線速度法は、どちらも惑星の影響による「周期的な変化」を捉えなければならないという問題があります。恒星の明るさや波長の変化そのものは他の原因でも生じることがありますが、周期的な変化となれば惑星以外の理由で偶然生じる可能性はほぼありません。だからこそ、惑星を捜索する上では周期性がとても重要な証拠となるのです。

ある現象が周期的に発生しているかどうかを確認するためには継続的な観測が欠かせませんが、そのことが恒星から遠く離れた軌道を公転する惑星の発見を難しくしています。周期的な変化が惑星の影響によるものだと証明するには、最低でも惑星が恒星の周りを1周する間、恒星のデータを連続的に取得する必要があります。しかし、任意の恒星から惑星の存在を示す観測データが得られる確率は低い、言い換えればどの恒星で惑星が見つかるのかを事前に予測することは難しいため、近年の太陽系外惑星探査では全天を複数の領域に分割した上で、1つの領域を一定期間集中観測する手法が採用されています。つまりこの手法では、公転周期が1回の観測期間を上回る惑星を見つけることが原則的に不可能となります。このような観測手法上の制約があるため、これまでに発見された太陽系外惑星は公転周期の短いものが多く、公転周期が50日を超える太陽系外惑星はほとんど見つかっていません (※)

※…過去に発見された公転周期の長い太陽系外惑星は、恒星とは別の天体として撮影された惑星の位置が変化する様子から公転周期を予測するなど、トランジット法や視線速度法とは別の方法で公転周期が推定されています。

■精度の低いデータを追加の観測でフォロー

NASAの宇宙望遠鏡「TESS」はトランジット法による惑星の発見を目的に、2018年7月から多数の恒星の明るさの変化を捉え続けています。TESSの観測範囲はほぼ全天をカバーしていますが、1度に観測できるのは24度×96度の領域なので、観測範囲全体のうち74%の観測期間は28日間に限られています。このため、TESSで発見された多くの惑星は公転周期が40日未満となっています。また、TESSのデータ保存容量や地球へのデータ送信の都合から、他にも幾つか観測上の制約があります。

Mireles氏などの研究チームは、TESSの観測データから候補の1つとして上げられていた、「りゅう座」の方向約705光年先の恒星「TOI-4600」に注目しました。TOI-4600は既に2021年の時点で別のワーキンググループからも注目されていた恒星の1つです。Mireles氏らがTESSの観測データをさらに調査したところ、約3年の期間を空けて実施された2回の観測中に、TOI-4600が暗くなるイベントが複数起きていたことが分かりました。

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【▲ 図2: TESSで観測されたTOI-4600の明るさのデータ。緑色の▽は内側の、赤紫色の△は外側の惑星の通過によって生じたと見られる減光のタイミングを示す。内側の惑星の通過中に観測が中断されたり、内側と外側の通過がほぼ同じタイミングで起きていたりと、このデータだけでは惑星の存在を確定することができなかったため、追加観測が行われた。 (Image Credit: Ismael Mireles, et al.) 】
【▲ 図2: TESSで観測されたTOI-4600の明るさのデータ。緑色の▽は内側の、赤紫色の△は外側の惑星の通過によって生じたと見られる減光のタイミングを示す。内側の惑星の通過中に観測が中断されたり、内側と外側の通過がほぼ同じタイミングで起きていたりと、このデータだけでは惑星の存在を確定することができなかったため、追加観測が行われた(Credit: Ismael Mireles, et al.)】

ただし不運にも、分析されたデータにはいくつかの不利な部分が含まれていました。TOI-4600が暗くなるタイミングからすると、TOI-4600には公転周期の異なる2つの惑星が存在する可能性があります。しかし、TESSが地球にデータを送信するため、内側を公転する惑星が恒星の手前を通過している最中に観測が中断されてしまっていたり、内側と外側を公転するそれぞれの惑星が偶然にもほぼ同じタイミングで恒星の手前を通過したため、双方の影響による減光が重なり合って区別できなかったりするという不利がありました。

そこでMireles氏らは、地上と宇宙の両方の観測実行やデータアーカイブの探索を行い、TOI-4600に実際に惑星があるのかどうかを調べました。まず、TESSの観測データを補うため、ラスクンブレス天文台のLCOGT望遠鏡 (スペイン領カナリア諸島、テネリフェ島) 、ヴェンデルシュタイン天文台の2.1mフラウンホーファー望遠鏡(ドイツ、バイエルンアルプス)、コティザロフツィ私立天文台の0.3m望遠鏡(クロアチア、Viškovo近郊)、ホワイティン天文台の0.7メートル望遠鏡(アメリカ、マサチューセッツ州、ウェルズリー大学)がトランジット法による追加の光度変化観測を行いました。これはTESSほど高精度ではないものの、お互いが独立したデータであるため、相互に検証が可能です。

また、フレッド・ローレンス・ホイップル天文台(アメリカ、マサチューセッツ州、ケンブリッジ)の1.5mティリングハスト反射望遠鏡に設置されたTRES分光器で分光観測を行い、ドップラー分光法による質量測定を行いました。パロマー天文台(アメリカ、カリフォルニア州、サンディエゴ)では光学補正を行うことで、これらの光学観測データに測定上のノイズが含まれてないかを検証しました。

さらに、欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた天文観測衛星「ガイア」のデータから、TOI-4600の近くに別の恒星や褐色矮星が存在しないかを調べました。伴星が存在すれば、惑星とよく似たシグナルを発生する原因となるためです。これらに加えてMireles氏らはTOI-4600のモデルを作成し、もしも惑星が存在する場合の正確な公転周期を割り出すことを試みました。

■TOI-4600の2個の惑星は珍しい特徴をいくつも持つ

前章の通り、多方面からの観測を行った結果、TOI-4600には恒星や褐色矮星など惑星以外の伴星は存在せず、実際に2個の惑星が存在する可能性が高いことが突き止められました。仮符号の命名規則から、内側を公転する惑星は「TOI-4600b」、外側を公転する惑星は「TOI-4600c」と命名されています。特に、外側のTOI-4600cの公転周期は約482.819日 (約15.8か月) であり、これはTESSで発見された最も公転周期の長い太陽系外惑星です。TOI-4600bの公転周期も約82.687日(約2.7か月)であるため、どちらも発見例が少ない公転周期が50日以上の太陽系外惑星となります。

2つの惑星の直径を地球と比べると、TOI-4600bが6.80倍、TOI-4600cが9.42倍だと推定されます。TOI-4600cは土星とほぼ同じ大きさです。また、質量は木星との比較で、TOI-4600bが0.607倍、TOI-4600cが0.841倍だと推定されます。このことから、TOI-4600で見つかったのはどちらも巨大ガス惑星だと推定されます。

また、TOI-4600の明るさと惑星までの距離をもとに、各惑星の推定表面温度はTOI-4600bが約74℃、TOI-4600cは約マイナス82℃だと推定されますが、これはかなり珍しい発見です。太陽系外惑星の観測手法上最も見つかりやすいのは、恒星から極めて近い場所を公転する超高温の巨大ガス惑星「ホット・ジュピター」です。その一方で、太陽系に存在する2つの巨大ガス惑星である木星と土星は低温です。TOI-4600bの推定表面温度はホット・ジュピターおよび木星・土星の温度のちょうど中間に位置しており、TOI-4600cは木星の平均表面温度の約マイナス108℃とほぼ同じ値です。

太陽系外惑星の観測と研究が行われる理由の1つには、太陽系がどのように形成されたのかを理解することにつながる知見を得るというものがあります。しかし、太陽系と似ている太陽系外惑星は滅多に見つからないため、これまで十分に比較できる研究対象は存在しませんでした。このため、TOI-4600bとTOI-4600cの発見は貴重なものだと言えます。

TOI-4600星系に関する次の大きな疑問は「TOI-4600には他にも惑星があるのか?」です。他の惑星があったとしてもなかったとしても、 “恒星から離れた位置に巨大ガス惑星がある” という点で共通する太陽系がどのようにして現在の姿になったのかを知る上で、TOI-4600の存在は大きなヒントとなるはずです。

 

Source

  • Ismael Mireles, et al. “TOI-4600 b and c: Two Long-period Giant Planets Orbiting an Early K Dwarf”. (Astrophysical Journal Letters)
  • Dani Rae Wascher. “Scientists detect and validate the longest-period exoplanet found with TESS”. (University of New Mexico)

文/彩恵りり

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