太陽系外惑星」の大気にどんな分子が含まれているのかは、惑星の形成や進化を探る上で欠かせない情報です。しかしこれまでの観測では、限られた温度でのみ存在するとされるいくつかの分子が検出されていませんでした。

コーネル大学のLaura Flagg氏などの研究チームは、太陽系外惑星「WASP-31b」の大気中から「水素化クロム(CrH)」の検出に成功しました。これは太陽系外惑星の大気中で初めて発見された金属水素化物です。また、水素化クロムは900~1900℃の温度範囲でしか存在しない分子であることから、温度条件をもとにWASP-31bの物理的性質を探る上で重要な発見です。

【▲ 図: WASP-31bの想像図 (ESA, Hubble & NASA) 】
【▲ WASP-31bの想像図 (Credit: ESA, Hubble & NASA) 】

■遠く離れた惑星の大気分子を観測

私たちが住む地球を含め、宇宙にある惑星はどのように形成され、進化していったのでしょうか?惑星の形成を理解するためには、多数の惑星を観測し、その性質を知る必要があります。このため、太陽以外の天体の周りを公転する「太陽系外惑星」は重要な観測対象とみなされています。

近年の技術革新により、太陽系外惑星の大気に含まれる分子の種類を探ることができるようになっています。地球から見て太陽系外惑星が恒星の手前を横切る時、恒星の光の一部は惑星の大気を通過してから地球へと届きます。大気を構成する分子は特定の波長の光を吸収する性質を持っており、これを「吸収スペクトル」と呼びます。吸収スペクトルは分子ごとに固有なので、分子の種類を逆算することができます。

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ただし、太陽系外惑星の大気を通過した光は、通過せずに直接届いた恒星の光に混ざっていて、その光の量は極めてわずかです。また、大気中に含まれる分子の量が少なければ少ないほど吸収スペクトルも弱くなりますし、吸収スペクトルは異なる分子が非常に近い値を取ることもあるため、吸収スペクトルが重なり合うことで分子の種類を誤認してしまうこともあり得ます。そのため、太陽系外惑星の大気成分の研究には極めて精度の高い分光観測を必要としますが、それは極めて困難な作業でした。過去の観測で見つかったと主張された分子が、後の観測では見つからなかったり、誤認であると断定されたりしたケースも珍しくありません。

■惑星大気中から金属水素化物を初めて発見

Flagg氏などの研究チームは、サーベイプロジェクト「ExoGemS(Exoplanets with Gemini Spectroscopy)」の一環として、2022年3月12日に地球から約1300光年の距離にある太陽系外惑星「WASP-31b」を観測しました。ExoGemSは「ジェミニ北望遠鏡」(ハワイ、マウナケア山)に設置された分光観測装置「GRACES」を用いて高精度な分光観測データを取得するプロジェクトです。

分析の結果、WASP-31bの大気から「水素化クロム」を検出することができました。これは過去の観測結果と比べても極めて高精度であり、Flagg氏は発見を主張するのに必要とされる水準(5σ以上)を満たしていると論文中で示しています。水素化クロムは過去に褐色矮星 (※) の大気で見つかったことはありますが、太陽系外惑星の大気で見つかったのは初めてです。それだけでなく、太陽系外惑星の大気で金属水素化物が見つかったのも今回が初めてのこととなります。

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※…太陽のような恒星と、木星のような巨大ガス惑星の中間的な性質を持つ天体。

元素としてのクロムは非常に珍しい存在なので、水素化クロムの存在量も極めてわずかであり、吸収スペクトルは非常に弱いものとなります。また、水素化クロムの吸収スペクトルは、より豊富に存在するカリウムと非常に近い値を取るという別の難しさもあります。しかし、今回のExoGemSによる高精度な分光観測データは、わずか2nmの波長の違いを区別して水素化クロムの存在を明確にしました。

なお、今回の研究では「超大型望遠鏡 (VLT) 」(チリ、アタカマ砂漠)に設置された分光観測装置「UVES」で2017年春ごろに2回観測されたWASP-31bのデータも組み合わせて分析が行われました。UVESのデータは、ExoGemSとは観測波長が異なっていたこと、元々金属水素化物を発見するためのデータではなかったことから、後述する水素化クロムの存在を示す吸収スペクトルはわずかにしか観測できないため、あくまで予備的データの位置付けとなります。

■水素化クロムは “温度計分子”

今回の発見は、水素化クロムの性質を考慮すれば重要だと考えられます。水素化クロムは他の分子よりも狭い900~1900℃という温度範囲でしか存在できません。このため、水素化クロムは大気の温度を測る “温度計分子” の1つと見なされており、惑星大気の温度だけでなく、大気の性質や循環を探る上でも重要な探索対象となってきました。実際に、WASP-31bの大気の推定温度はこれまでの観測で1100℃と測定されており、水素化クロムが存在できる温度範囲内にあります。

惑星大気からの水素化クロムの発見は今回が初めてですが、Flagg氏は他の惑星の大気中にも温度範囲に敏感な金属水素化物が存在すると考えています。このような分子を発見することができれば、太陽系外惑星の大気についての理解がさらに深まると考えられます。

 

Source

  • Laura Flagg, et al. “ExoGemS Detection of a Metal Hydride in an Exoplanet Atmosphere at High Spectral Resolution”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • Kate Blackwood. “‘Thermometer’ molecule confirmed on exoplanet WASP-31b”. (Cornell University)

文/彩恵りり

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