アムステルダム大学の天文学者Tomer Shenarさんを筆頭とする研究チームは、きわめて強力な磁場を持つ中性子星の一種「マグネター」について、将来マグネターになる可能性がある恒星を発見したとする研究成果を発表しました。

【▲ 将来マグネターになる可能性が指摘された恒星「HD 45166」の想像図。HD 45166は実際には連星で、左の背景には伴星が小さく描かれている(Credit: ESO/L. Calçada)】
【▲ 将来マグネターになる可能性が指摘された恒星「HD 45166」の想像図。HD 45166は実際には連星で、左の背景には伴星が小さく描かれている(Credit: ESO/L. Calçada)】

中性子星とは、太陽の8倍以上重い大質量星として誕生した恒星が超新星爆発を起こした時に形成されると考えられている天体です。中性子星は非常に高密度な天体で、直径わずか20km前後という小さなサイズに太陽1個分を上回る質量が詰め込まれています。そのなかでも特に強力な磁場を持つものは「マグネター(Magnetar)」と呼ばれていて、磁場の強さ(磁束密度)は100兆~1000兆ガウス(100億~1000億テスラ)に達すると考えられています(※1)

※1…参考として、磁気治療器は数百~1000ガウス、MRIは1万~1万5000ガウス、地磁気は約0.5ガウス、太陽黒点は約3000ガウスとされています。

研究チームがマグネターの前駆天体(ある天体や現象の元になる天体)となる可能性を指摘したのは、「いっかくじゅう座」(一角獣座)の方向約3000光年先の連星「HD 45166」をなす1つの恒星です(以下、本稿ではこの単一の星をHD 45166と表記します)。

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米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)やヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、HD 45166はウォルフ・ライエ星(※2)としての特徴を幾つか有しているものの、そのスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)には独特の特徴があり、ヘリウムが豊富で太陽の数倍重いこと以上の性質はこれまでわかっていなかったといいます。

※2…ウォルフ・ライエ星は大質量星が進化した姿であり、外層から恒星風として大量の水素を放出して失い、高温の内層がむき出しになっていると考えられています。

過去にヘリウムを豊富に含む同様の恒星を研究したことがあったShenarさんは、HD 45166に関する文献に目を通していた時、この星の性質を磁場で説明できるかもしれないと思い付いたといいます。研究チームはハワイのマウナケア山にあるカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)の分光偏光計「ESPaDOnS」による観測を2022年2月に実施した他に、ラ・シヤ天文台にあるMPG/ESO 2.2m望遠鏡の分光計「FEROS」でこれまでに取得された観測データも用いて分析を行いました。

その結果、HD 45166の質量はこれまでの推定よりも軽い太陽の約2倍で、磁場の強さは4万3000ガウスに達することが判明しました。ESOによれば、質量がチャンドラセカール限界質量(※3)を上回る星で検出された磁場としては最も強力だといいます。他のヘリウム星(ヘリウムが豊富で水素が乏しい星)とは異なり、HD 45166は単一の大質量星が赤色超巨星を経て進化したのではなく、一対の中質量星が合体してできた星ではないかと研究チームは考えています。

※3…太陽の約1.4倍。大質量星の鉄でできた中心核(コア)や白色矮星の質量がこの値を上回ると、自重を支えきれずに潰れて中性子星やブラックホールが形成されると考えられています。

【▲ 研究成果をもとに描かれたHD 45166の将来を示した図。上段:現在のHD 45166(右)とその伴星(左)。中段:数百万年後にHD 45166は超新星爆発を起こす。下段:HD 45166の中心核から約100兆ガウスの磁場を持つマグネターが誕生する(Credit: NOIRLab/AURA/NSF/P. Marenfeld/M. Zamani)】
【▲ 研究成果をもとに描かれたHD 45166の将来を示した図。上段:現在のHD 45166(右)とその伴星(左)。中段:数百万年後にHD 45166は超新星爆発を起こす。下段:HD 45166の中心核から約100兆ガウスの磁場を持つマグネターが誕生する(Credit: NOIRLab/AURA/NSF/P. Marenfeld/M. Zamani)】

また、研究チームはHD 45166の将来も予測しました。それによると、HD 45166は今から数百万年後に非常に明るく、しかしそれほど激しくはない超新星爆発を起こして恒星としての寿命を終えます。この時、収縮するHD 45166の中心核が星の磁力線を捉えて集中させることで、約100兆ガウスの磁場を持つ中性子星が誕生するとみられています。つまり、研究チームの計算が正しければ、HD 45166はマグネターを生み出す可能性があるというわけです。

今回の成果について、研究チームはウォルフ・ライエ星の一種と言える新たなタイプの天体「Massive Magnetic Helium Star」(仮訳:大質量強磁場ヘリウム星)が発見されたことを示すものだとしています。CFHTの科学運用ディレクターを務めるNadine Mansetさんは「マグネターは希少でミステリアスな天体ですが、チームによって後にマグネターとなる星が見つかったことで、その形成についての理解が深まりました」とコメントしており、未解明の部分も多いマグネターの性質を理解する上で重要な成果となりそうです。Shenarさんたちの研究成果をまとめた論文はScienceに掲載されています。

 

Source

  • Image Credit: ESO/L. Calçada, NOIRLab/AURA/NSF/P. Marenfeld/M. Zamani
  • NOIRLab - Astronomers Find Progenitor of Magnetic Monster
  • ESO - New type of star gives clues to mysterious origin of magnetars
  • CFHT - Astronomers Find Progenitor of Magnetic Monster
  • Shenar et al. - A massive helium star with a sufficiently strong magnetic field to form a magnetar (Science)

文/sorae編集部

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