現在の「火星」の気候は高度に乾燥していますが、かつては湿潤だったと推定されています。では、気候が移り変わる時期の火星はどのような環境だったのでしょうか?

トゥールーズ III ポール・サバティエ大学のW. Rapin氏などの研究チームは、過去の火星では気候が乾燥気候と湿潤気候を周期的に繰り返す乾湿循環気候の時期があったことを、NASA(アメリカ航空宇宙局)の火星探査車「キュリオシティ(マーズ・サイエンス・ラボラトリー)」の探査データの分析で示しました。キュリオシティのカメラで撮影された地面に見られる亀裂は、液体の水の接触と蒸発が繰り返されたことを示しており、おそらくは季節変動を反映していたと推定されます。

【▲ 図1: キュリオシティによって撮影された、火星のゲール・クレーター内の硫酸塩鉱物が豊富な地面。水分を含んだ泥が乾燥して固まった際に見られる六角形の亀裂が多数存在する。 (Image Credit: NASA, JPL-Caltech, MSSS, IRAP) 】
【▲ 図1: キュリオシティによって撮影された、火星のゲール・クレーター内の硫酸塩鉱物が豊富な地面。水分を含んだ泥が乾燥して固まった際に見られる六角形の亀裂が多数存在する(Credit: NASA, JPL-Caltech, MSSS, IRAP)】

■謎が多い火星の気候変動

様々な火星探査機の調査によって、火星が誕生してからしばらくの間の気候は豊富な水を湛えた湿潤気候だったことがほぼ確実だと見られています。その一方で、現在の火星の気候は高度に乾燥しているため、火星の気候は湿潤気候から乾燥気候へと移行した時期を挟んでいることになります。

しかし、気候が移り変わる時期の火星がどのような環境であったのかはほとんど分かっていません。そのような時期は火星の歴史全体の中でかなり短かった上に、堆積物として地層に記録が保存されることはほとんどないと推定されるためです。また、火星の地質学的な情報は限られていて、シミュレーションによる環境推定では異なる結果が出力されるため、詳細は分からないままです。

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【▲ 図2: キュリオシティ (白線が移動経路) はゲール・クレーターのシャープ山 (Mt. Sharp) を登るように進んでいる。最近になって硫酸塩鉱物に富む地域 (黄色で塗られた地域) を探査している。 (Image Credit: W. Rapin, et al.) 】
【▲ 図2: キュリオシティ (白線が移動経路) はゲール・クレーターのシャープ山 (Mt. Sharp) を登るように進んでいる。最近になって硫酸塩鉱物に富む地域 (黄色で塗られた地域) を探査している(Credit: W. Rapin, et al.)】

■クレーターの乾燥跡から過去の気候を推定

今回、トゥールーズ III ポール・サバティエ大学のW. Rapin氏などの研究チームは、NASAの火星探査車「キュリオシティ」の観測結果から、火星の気候の移行時期の環境を推定する研究を行いました。

ゲール・クレーターの内部にある「シャープ山」(別名アイオリス山)の麓に着陸したキュリオシティは、ケイ酸塩鉱物が豊富な地域を数年間調査した後、硫酸塩鉱物が豊富な地域へと移動し、写真撮影や地層の成分分析を行いました。

キュリオシティはシャープ山を登りながら調査を行っており、表面を覆う物質の変化は、堆積当時の環境の変化を反映していると推定されます。ゲール・クレーターにはかつて湖が存在していたと考えられていますが、水が豊富な環境ではケイ酸塩鉱物で構成された粘土が堆積します。その一方で、湖の水に浸かっていない乾燥した陸上では、硫酸塩鉱物が堆積しやすい傾向にあります。

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キュリオシティのカメラで撮影された写真には、六角形のひび割れが生じた地面が写っています。分析の結果、亀裂の深さは数cmと、かなり深いことも分かりました。この亀裂は、地球上に住む私たちの身近でもよく見られるような、湿った泥が乾燥した時に生じる亀裂によく似ています。

Rapin氏らは、亀裂の形状が「Y」字で構成されていることから、これが火星の過去の環境を反映した証拠であると推定しています。泥が乾燥した時、最初に生じるのは「T」字に近い形状の亀裂です。しかし、乾燥した泥が水に触れて柔らかくなった後に再び乾燥する、というプロセスが繰り返されると、亀裂の形状は「T」字から「Y」字へと変化し、最終的には六角形の形状になります。Rapin氏らは、六角形の亀裂は火星の気候が湿潤気候から乾燥気候へと移行する時期に、湿潤環境と乾燥気候が周期的に切り替わる乾湿循環気候があったと推定しています。

深さが深いことから、この亀裂は季節変化のような長周期的な気候変動か、もしくは鉄砲水のような突発的な湿潤環境が生じた証拠であると考えられます。これは裏を返せば、天体衝突や火山噴火のような、液体の水が維持される期間や頻度が少ない現象で生じたものではないことを示しています。

Rapin氏らは亀裂などの証拠から、火星では今から38~36億年前のいずれかの時点で、湿潤気候から乾燥気候へと移行する乾湿循環気候の時期があったと考えています。この亀裂は深さが深い上に、表面が亀裂の縁まで硬い硫酸塩鉱物で覆われていたことから、数十億年もの風化に耐えて現在でも容易に観察できるようになっていると考えられます。

■生命材料合成の現場跡である可能性も?

このような乾湿循環気候は、火星に関する別の興味深い話題とも関わります。火星に独自の生命体が存在していたのか、あるいは現在でも存続しているのかは、火星にまつわる大きな謎の1つです。生命がどのように誕生したのかは議論の余地がありますが、生命が関わらずに複雑な有機分子が合成される環境は、生命誕生を促す大きな推進力となる可能性があります。乾湿循環気候は複雑な有機分子が合成されやすい環境の1つであるため、過去の火星にそのような環境が存在したとすればとても興味深いことです。

また、生命が誕生したことが確実である地球では、生命誕生時の環境は地質活動によって消されてしまっています。そのため、火星に生命誕生時の証拠が残されている可能性があることは、地球の生命誕生を推定する上でも役立つ可能性があります。

 

Source

  • W. Rapin, et al. “Sustained wet–dry cycling on early Mars”. (Nature)
  • Nick Njegomir. “New research points to possible seasonal climate patterns on early Mars”. (Los Alamos National Laboratory)
  • Keith Cowing. “Cracks In Martian Mud Suggest Sustained Wet-Dry Cycling On Early Mars”. (Astrobiology.com)

文/彩恵りり

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