2022年1月、非常に強力な電波を長い周期で放出するという謎の天体の発見がカーティン大学のNatasha Hurley-Walker氏などの研究チームによって報告され、その正体が広く議論されました。今回、Hurley-Walker氏らは似た性質を持つ2番目の天体となる「GPM J1839-10」を発見し、その正体が並外れた性質を持つ「マグネター」であることを突き止めました。GPM J1839-10は理論上観測できないはずの “死の谷” を越えた先に位置することになるため、今回の観測結果は宇宙最強の磁石であるマグネターについて、私たちがまだ理解していない性質があることを示唆しています。

【▲ 図1: 強力な磁場によって強力な電波を宇宙に放出するマグネターの想像図。今回発見されたGPM J1839-10もマグネターであると考えられるが、その性質は典型的なマグネターからは大きく外れている。 (Image Credit: ICRAR) 】
【▲ 図1: 強力な磁場によって強力な電波を宇宙に放出するマグネターの想像図。今回発見されたGPM J1839-10もマグネターであると考えられるが、その性質は典型的なマグネターからは大きく外れている(Credit: ICRAR)】

Hurley-Walker氏らが最初に報告したのは、西オーストラリアに設置された電波望遠鏡「マーチソン広視野アレイ(MWA)」の観測で発見された、地球から約4000光年離れた位置にある天体「GLEAM-X J162759.5-523504.3」です。この天体は18分11秒ごとに30秒~60秒続く強力な電波を放射していたことから、これまでに知られているどの天体とも異なる未知の性質を持つ天体として、天文学者の注目を集めました。

このような周期的で強力な電波を放出する天体として、非常に強力な磁場を持つ中性子星のサブタイプ「マグネター」が候補として上がります。中性子星は太陽よりもずっと重い恒星が超新星爆発を起こした際に生じる天体ですが、マグネターはその中でも非常に磁場が強力なサブタイプの呼び名です。マグネターの強力な磁場と高速の自転の組み合わせが、強力な電波を放出する原動力になると考えられます。

しかし、GLEAM-X J162759.5-523504.3の場合、その性質がこれまでのマグネターの理論と大きく外れていることが問題となりました。マグネターの性質上、電波の放出周期は数秒~数分程度になると考えられます。自転周期がそれ以上長い場合、強力な電波を放出するほどのエネルギーが生じないため、マグネターは観測できないと考えられるからです。

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マグネターの観測ができなくなる限界について、1970年代までは、理論的にも実際の観測でも、分布図に引かれた1本の “死線(Death Line)” で境界を表すことができると考えられていました。しかしその後、 “死線” を越えた領域でマグネターが続々発見され、実際には “死線” から離れるほど観測数が急激に減少していく分布を示すことが明らかになりました。このため、新たな理論的研究で示された、その縁を越えることができないと考えられる2本目の “死線” が定義されると同時に、1本目の(従来の)“死線” との間には分布が少ない “死の谷 (Death Valley)” が存在するという考えが新たに生まれました。

もちろん、マグネターのように極端な物性を持つ天体の性質はまだ十分に理解されていないため、数十分の周期を持つマグネターは観測できないという前提が誤っているのかもしれません。ところが、GLEAM-X J162759.5-523504.3は2018年1月~3月を最後に観測されていないため、それ以上研究を進めることができませんでした。

【▲ 図2: 今回研究されたGPM J1839-10はMWAによって発見された。地球からは「たて座」の方向に約1万5000光年離れている。 (Image Credit: ICRAR) 】
【▲ 図2: 今回研究されたGPM J1839-10はMWAによって発見された。地球からは「たて座」の方向に約1万5000光年離れている(Credit: ICRAR)】

こうした背景の中、Hurley-Walker氏らは似たような性質を持つ2番目の天体を発見しました。地球から約1万5000光年離れた位置にある「GPM J1839-10」は、MWAによる2022年7月~9月にかけての集中的な観測で発見されました。GPM J1839-10の電波の放出周期が21分と長いだけでなく、強力な電波放出が5分間も持続していました。これはGLEAM-X J162759.5-523504.3の5倍以上の長さです。

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Hurley-Walker氏はGPM J1839-10の発見を受け、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡3施設 (ASKAP、ACTA、PARKES) 、南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡「MeerKAT」、および欧州宇宙機関(ESA)のX線観測衛星「XMM-Newton」での追加観測を行いました。

【▲ 図3: GPM J1839-10は地上と宇宙から追加の観測が行われただけでなく、過去の観測データアーカイブからの掘り起こしも行われた。 (Image Credit: SARAO, Daniel López, IAC, Marianne Annereau, NCRA, CSIRO, Dragonfly Media, AUI, NRAO, ESA.) 】
【▲ 図3: GPM J1839-10は地上と宇宙から追加の観測が行われただけでなく、過去の観測データアーカイブからの掘り起こしも行われた。 (Image Credit: SARAO, Daniel López, IAC, Marianne Annereau, NCRA, CSIRO, Dragonfly Media, AUI, NRAO, ESA.) 】

同時に、過去の電波天文台の観測データアーカイブを探索したところ、アメリカ国立電波天文台(NRAO)の「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」は1998年から、インド国立電波天体物理学センター(NCRA)の「巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)」は2002年から、それぞれGPM J1839-10からの電波をとらえていたことが判明しました。この発見により、GPM J1839-10は少なくとも33年間、21分周期の強力な電波放出を継続していたことになります。

【▲ 図4: 天体の電波放出周期と磁場の強さの分布図を作成すると、理論的には観測数が急激に減少する “死の谷 (Death Valley)” が形成される。今回発見されたGPM J1839-10は、理論上は観測できないはずの “死の谷” を越えた先に位置する。白色矮星 (青い帯) の場合は死線を乗り越えるいくつかの回避方法が考えられるが、中性子星 (赤い帯) での回避方法は謎に包まれている。 (Image Credit: N. Hurley-Walker, et.al.) 】
【▲ 図4: 天体の電波放出周期と磁場の強さの分布図を作成すると、理論的には観測数が急激に減少する “死の谷 (Death Valley)” が形成される。今回発見されたGPM J1839-10は、理論上は観測できないはずの “死の谷” を越えた先に位置する。白色矮星 (青い帯) の場合は死線を乗り越えるいくつかの回避方法が考えられるが、中性子星 (赤い帯) での回避方法は謎に包まれている(Credit: N. Hurley-Walker, et.al.)】

GPM J1839-10の研究は始まったばかりであり、なぜこれほど長周期の電波放出が長年続いているのかは不明のままです。しかし、今回の観測とデータ分析では、GPM J1839-10の正体は “死の谷を越えた” マグネターである可能性が高いことが示されています (※)

※…これ以外の可能性として、非常に強力な磁場を持つ孤立した白色矮星であるという可能性もあります。白色矮星にも “死の谷” を考えることは可能なものの、様々な理由で “死の谷” を回避できると考えられます。しかし今回の観測結果は、白色矮星からの放出とは一致しないことが判明しています。

GLEAM-X J162759.5-523504.3やGPM J1839-10の存在は、中性子星やマグネターの物性に関する私たちの理解が不足していることを示しており、観測の継続は未知の部分を埋めるのに役に立つでしょう。また、このような長周期で長時間にわたる電波放出は、正体がはっきりと分かっていない「高速電波バースト(数ミリ秒前後の間だけ強力な電波を放出する高エネルギー天文現象)」の一部である可能性もあります。この研究は、マグネターだけでなく高速電波バーストという別の天文現象の解明にも役立つかもしれません。

 

Source

文/彩恵りり

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