地球ではこれまでに7万個以上 (※1) の隕石が見つかっていて、その一部は月や火星といった大きな天体に由来することが分かっています。では、地球に由来する隕石は存在するのでしょうか?

フランス国立科学研究センターのJérôme Gattacceca氏などの研究チームは、隕石「NWA 13188」について、元々は地球の岩石だったとする研究結果を発表しました。もしこれが事実であれば、地球から飛び出して再び戻ってきたことが確認された世界初の岩石ということになります。

一方で、この成果はフランスのリヨンで7月中旬に開催された「2023年ゴールドシュミット国際会議」で発表されたものの、まだ査読論文は提出されておらず、地球由来であるとする主張には異論も存在します。

※1…国際隕石学会に認定されている隕石の名前の数。

地球からの隕石は存在する?

地球で見つかる隕石の一部には、月や火星といった大きな天体に由来するものが含まれていることが分かっています。これらの天体の表面から岩石が飛び出すには、強い重力を振り切らせることができる激しい現象……具体的には天体衝突や巨大な火山噴火が必要ですが、このような現象は地球でも起こる可能性があります。

地球から岩石が飛び出す可能性を示した具体的な証拠は2019年に初めて見つかりました。1971年にアポロ14号で持ち帰られた月の石を分析したところ、その中に地球由来の岩石が含まれていることが判明したのです。岩石の年代は約40億年前とかなり古いことから、月が現在よりも地球に近かった頃に偶然辿り着いたものと推定されています。この成果が、地球由来の隕石が存在するというこれまでの唯一の証拠でした。

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NWA 13188は地球に由来する隕石の可能性あり

【▲ 図1: NWA 13188の外観写真。 (Image Credit: Albert Jambon) 】
【▲ 図1: NWA 13188の外観写真(Credit: Albert Jambon)】

今回、Gattacceca氏らの研究チームは、2018年6月にサハラ砂漠のモロッコ側で発見された「NWA 13188」という隕石を分析した結果、これが地球の岩石であると主張しました。NWA 13188は暫定的に「エイコンドライト(Achondrite)」に分類されましたが、他のエイコンドライトとは似ていない独特の性質を持っていました。

エイコンドライトとは、岩石が主体の隕石のうち、「コンドリュール」と呼ばれる球状組織を含まない隕石を指します。コンドリュールは重力に乏しい環境で急冷された結果生成されたと考えられており、それが含まれていないということは、大きな天体の表面や内部で形成された岩石であることになります。エイコンドライトのほとんどは小惑星ベスタに由来していて、一部は月や火星に由来していますが、残りの少数の起源は不明となっています。NWA 13188もそのような “起源不明のエイコンドライト” の1つとしてリストに掲載されていました。

分析されたNWA 13188の組成は、地球外の隕石というよりも地球の火山に由来する典型的な火山岩 (玄武岩質安山岩) であるように思えます。特に、酸素やネオジムの同位体比率 (※2) 、各種希土類元素やニオブとタンタルといった微量元素の存在比は、NWA 13188が地球由来の岩石である可能性を高めています。

※2…同じ元素の中でも、原子の重さが異なるものを同位体と呼びます。同位体はわずかながらも物理的・化学的な挙動が異なるため、たとえ同じ物質 (鉱物など) でもそこに含まれている元素の同位体組成が異なる場合、それぞれ異なる環境を経験してきたことを示す1つの証拠になります。

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【▲ 図2: NWA 13188の断面の拡大画像。隕石の外側の黒い部分が溶融殻である。 (Image Credit: Albert Jambon) 】
【▲ 図2: NWA 13188の断面の拡大画像。隕石の外側の黒い部分が溶融殻である(Credit: Albert Jambon)】

しかし、一部の特徴はNWA 13188が地球由来ではない隕石であることを強調します。例えば、NWA 13188には「溶融殻」 (※3) と呼ばれる隕石に典型的な表面構造が存在します。さらに、ヘリウム3、ベリリウム10、ネオン21といった珍しい同位体が多く含まれていることも重要です。これらの同位体は高エネルギーな宇宙線が他の物質に衝突することによって発生します。地球上では磁場と大気によって高エネルギー宇宙線の大部分が防がれる一方で、真空の宇宙空間で “野ざらし” にされた隕石では大量に発生するのです。

※3…隕石は地球の大気に高速で飛び込むため、前方の空気を圧縮して高温が発生します (断熱圧縮) 。この熱によって隕石の表面は融解・蒸発し、その名残として表面が焼けただれたような構造が残ります。これが溶融殻です。大気圏突入時の高温状態は短時間だけ発生するため、表面の数mmだけが融けており、内部は無傷です。このような状況は地球の自然環境ではほぼ発生しないため、隕石である事を疑う1つの証拠となります。

NWA 13188に含まれるこれらの同位体の濃度は、他の隕石と比べると少ないものの、地球の岩石よりはずっと多いことが判明しています。ベリリウム10は約140万年の半減期で崩壊することから、NWA 13188は地球に落下してからさほど時間が経っていないことが推測できます。

これらの情報を総合すると、NWA 13188は元々地球の岩石であり、10万年以内という比較的短い期間だけ宇宙空間を漂った後、約1万年前に地球へ落下したものであることになります。天体から宇宙空間へと飛び出した後、再び元の天体に戻ってきたブーメランのような物体も定義上は隕石なので、NWA 13188も隕石だということになります。それだけでなく、NWA 13188は地球を飛び出した後、再び地球に戻ってきた「地球隕石」であり、本当であればこのようなブーメランタイプの地球隕石は世界初の発見です。

岩石を地球から飛び出させるような激しい現象が何だったのかは不明ですが、火山噴火の可能性は低いと考えられています。屈指の大規模噴火でも噴煙の高さはせいぜい50km程度であるため、重さが640gもあるNWA 13188を宇宙空間まで飛ばすのは困難だと考えられます。このため、NWA 13188は別の天体衝突で吹き飛ばされた岩片の可能性が高いと見られます。

Gattacceca氏らの報告に対しては異論も多数

ただし、NWA 13188に関するこの成果は正式な査読論文とはなっていません。そのため、NWA 13188が隕石であることに疑いの声は少ないものの、地球隕石であるとする説には異論もあります

まず、NWA 13188はいつ作られた岩石なのかが判明していません。暫定的な年代はほとんどの隕石と同じ約45億年前とされていますが、地球の岩石であればこれよりもずっと若い年代のはずです。

また、NWA 13188の落下年代が比較的若いこと、サハラ砂漠で発見されたことを考慮すると、クレーターの痕跡がないのは不自然だとする主張もあります。サハラ砂漠で見つかる他の多くの隕石と同じく、NWA 13188も地元の人々によって採集された後、仲買人によって転売されているため、正確な発見位置や状況が不明となっています。しかし、NWA 13188の大きさや推定される落下年代を考慮すると、素人目に見てもクレーターが見つかるはずだと主張されています。このため、NWA 13188は落下年代がもっと古い、ごく普通の隕石である可能性もあります。

いずれにしても、NWA 13188が地球隕石であるのかどうかを確定するには、まだ情報が不足している状態です。このためGattacceca氏らは、NWA 13188の正確な年代測定、鉱物に刻まれる落下衝撃の吸収による傷、宇宙空間に存在した期間を示す別の同位体の測定など、さらに詳しい分析を予定しています。

 

Source

文/彩恵りり

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