こちらは約5300光年先にある「いっかくじゅう座V960星(V960 Mon)」を赤外線と電波(ミリ波)で捉えた画像です。オレンジ色はヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」に搭載されている偏光分光観測装置「SPHERE」を使って赤外線(波長1.625μm)で取得したデータ、青色はチリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使って電波(波長1.3mm)で取得したデータを示しています。
V960 Monは誕生して間もない若い星と考えられていて、2014年にはそれまでの20倍も明るくなる増光が観測されたことで研究者の注目を集めています。今回、サンティアゴ・デ・チレ大学のPhilipp Weberさんを筆頭とする研究チームは、巨大惑星を形成する可能性がある塵を含んだ大きな塊がV960 Monの近くで見つかったとする研究成果を発表しました。
2014年の増光が始まった直後、WeberさんたちはVLTのSPHEREによるV960 Monの観測を実施。その結果、V960 Monは太陽系全体を上回るスケールで広がる渦巻状の腕のような複雑な構造に囲まれていて、星の周辺の物質は腕の部分に集中していることがわかりました。
そこで、こうした塵を含む構造の奥深くを調べることができるアルマ望遠鏡で取得されたV960 Monの観測データを分析したところ、渦巻構造の腕が分裂して惑星程度の質量を持つ塊が幾つか形成されつつあることが明らかになったといいます。研究チームによると、1つの塊に含まれる固体成分の質量は地球の質量に匹敵すると推定されています。
今回の成果は、若い星を取り囲む原始惑星系円盤のなかでどのようにして巨大惑星が形成されるのかを理解する上で重要なものとなるかもしれません。
木星や土星のような巨大ガス惑星は、まず最初に塵が集まってコア(核)となる岩石質の原始惑星が形成され、その後に周囲のガスを取り込むことで形成されたと考えられています。このようなプロセスは「コア集積モデル」と呼ばれており、裏付けとなる観測例が幾つも得られています。
一方、原始惑星系円盤の一部が分裂して塊となり、自身の重力で潰れることで比較的速やかに巨大ガス惑星が形成されるという別のプロセスも提唱されていて、「重力不安定モデル」等と呼ばれています。Weberさんによると、惑星のスケールで起きた重力不安定を示す実際の観測例は今までありませんでした。今回V960 Monの周辺で発見された塊は、その最初の証拠となるものだと研究チームは述べています。
Weberさんは、塊の周辺における化学的複雑性を調査し、惑星を形成し得る物質の組成をより詳しく知るために、ESOが建設を進めている「欧州超大型望遠鏡(ELT)」による観測に期待を寄せています。研究チームの成果をまとめた論文はThe Astrophysical Journal Lettersに掲載されています。
Source
- Image Credit: ESO/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Weber et al.
- ESO - New image reveals secrets of planet birth
- 国立天文台アルマ望遠鏡 - 新たな画像が明らかにする惑星誕生の秘密
- Weber et al. - Spirals and Clumps in V960 Mon: Signs of Planet Formation via Gravitational Instability around an FU Ori Star? (The Astrophysical Journal Letters)
文/sorae編集部
最終更新日:2023/08/02