約130億年前の宇宙に長さ300万光年のフィラメント構造を発見 銀河団の初期形態を観測

初期宇宙に存在する天体は赤外線で観測できますが、その性質によりこれまで観測は困難でした。「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の観測プログラム「ASPIRE」は、今から約138億年前の宇宙誕生から10億年以内に存在した「クエーサー」を分析し、長さ300万光年に10個のクエーサーが固まっている集団と、クエーサー中心部に太陽の6億倍から20億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が存在する証拠を発見しました。

初期宇宙に非常に成長したクエーサーや、高密度のフィラメント構造が存在することを示した今回の観測結果は、初期宇宙の理解をさらに深めるとともに、現在広く共有されている宇宙論を書き換えることにつながるかもしれません。

【▲ 図: 今回見つかった、10個のクエーサーから成る長さ約300万光年のフィラメント構造。画像右側の白丸で示された3つの天体のうち、ひときわ明るく見えるものがJ0305-3150。 (NASA, ESA, CSA, Feige Wang (University of Arizona) & Joseph DePasquale (STScI) ) 】
【▲ 図: 今回見つかった、10個のクエーサーから成る長さ約300万光年のフィラメント構造。画像右側の白丸で示された3つの天体のうち、ひときわ明るく見えるものがJ0305-3150(Credit: NASA, ESA, CSA, Feige Wang (University of Arizona) & Joseph DePasquale (STScI))】

現在の宇宙には数千億個もの銀河があるとされています。では、銀河は宇宙誕生後にどのようにして形成され、どれくらいの時間をかけて進化したのでしょうか。中心部に巨大なブラックホールを持ち、活発な活動をする「クエーサー」は銀河の初期の形態とされており、その性質を観測することは謎を解明する大きな手がかりとなります。

しかし、これまでは宇宙の膨張に伴って光の波長が引き伸ばされる「赤方偏移」という現象が観測の妨げとなってきました。初期の宇宙、つまり遠い宇宙を観測すると、クエーサーの光の波長は赤外線にまで引き伸ばされます。赤外線は地上と宇宙の両方で観測が難しい波長であるため、これまで初期宇宙に存在する天体の観測データは非常に限られていたのです。

赤外線の観測に特化した「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」の観測プログラム「ASPIRE」は今回、その初期分析結果を公表しました。直訳すれば「再電離時代の偏ったハローの分光分析(A SPectroscopic survey of biased halos In the Reionization Era)」を意味するこの観測プログラムは、初期宇宙の再電離時代におけるクエーサーの分布や性質の観測を目的としています。ウェッブ宇宙望遠鏡は一度に複数のクエーサーについてスペクトル (電磁波の波長ごとの強さ) のデータを得ることができるため、このような研究が可能となりました。今回の初期分析では、宇宙誕生から10億年以内の宇宙に存在する、合計25個のクエーサーのスペクトルデータが得られています。

アリゾナ大学のFeige Wang氏などの研究チームは、「J0305-3150(J030516.92–315056.00)」というクエーサーの周辺部に、同じようなスペクトルデータを示すクエーサーを複数発見しました。分析の結果、全部で10個のクエーサーが、長さ300万光年のフィラメント状に集まっていることが確認されました。これは、初期宇宙で見つかった最も高密度なクエーサー集団の1つであり、将来的にはかみのけ座銀河団のような銀河団に成長する可能性が高いと推定されています。今回の結果は、宇宙誕生から8億3000万年後 (今から129億6000万年前) の時点で、このような高密度の集団が存在したことを示しています。

一方で、アリゾナ大学のJinyi Yang氏などの研究チームによるJ0305-3150を含む8個の銀河に対する別の分析結果では、クエーサーの中心部に太陽の6億倍から20億倍もの質量がある超大質量ブラックホールが存在する観測的証拠が得られました。この結果は、クエーサーの中心部に非常に巨大なブラックホールが存在するという1つの証拠となります。

これらの分析結果は、誕生から10億年以内の初期宇宙に、大きく成長したクエーサーや、クエーサーで形成された非常に高密度なフィラメント構造が存在することを意味しています。ウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって初期宇宙の進化が非常に速かったことを示す証拠が続々と見つかっていますが、現在広く共有されている宇宙論とは矛盾します。今回の観測結果は、宇宙論の書き換えにつながる重要な証拠の1つとなるかもしれません。

 

Source

  • Feige Wang, et.al. “A SPectroscopic Survey of Biased Halos in the Reionization Era (ASPIRE): JWST Reveals a Filamentary Structure around a z = 6.61 Quasar”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • Jinyi Yang, et.al. “A SPectroscopic Survey of Biased Halos in the Reionization Era (ASPIRE): A First Look at the Rest-frame Optical Spectra of z > 6.5 Quasars Using JWST”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • Laura Betz, Ann Jenkins & Christine Pulliam. “NASA’s Webb Identifies the Earliest Strands of the Cosmic Web”. (NASA)

文/彩恵りり