-PR-

こちらは「ペルセウス座」の方向約2億4000万光年先のレンズ状銀河「NGC 1277」(中央)とその周辺の様子です。レンズ状銀河は渦巻銀河と楕円銀河の中間にあたる形態の銀河で、渦巻銀河と同じように中央部分の膨らみや円盤構造を持つものの、目立つ渦巻腕(渦状腕)はありません。レンズ状銀河を構成する星々は楕円銀河と同じように古いものが多く、星形成活動もほとんどみられないとされています。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたレンズ状銀河「NGC 1277」(中央)とその周辺(Credit: NASA, ESA, and M. Beasley (Instituto de Astrofísica de Canarias))】
【▲ ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたレンズ状銀河「NGC 1277」(中央)とその周辺(Credit: NASA, ESA, and M. Beasley (Instituto de Astrofísica de Canarias))】

NGC 1277は約120億年前に急速に形成された後、他の銀河と相互作用することなく時を過ごしてきたと考えられていることから、初期宇宙で誕生した大質量かつコンパクトで星形成活動がみられないタイプの銀河である「遺物銀河(relic galaxy)」の典型例とされています。

そんなNGC 1277で思いがけない特徴が見つかりました。カナリア天体物理学研究所(IAC)/ラ・ラグーナ大学(ULL)のSebastién Comerónさんを筆頭とする研究チームは、NGC 1277には暗黒物質(ダークマター)がほぼ存在しないとする研究成果を発表しました。暗黒物質を欠いた銀河は超淡銀河のように質量の小さな銀河では見つかったことがありますが、質量の大きな銀河における観測例は今回が初めてだとされています。

Comerónさんによると、米国テキサス州のマクドナルド天文台にある面分光器で取得された観測データをもとにNGC 1277の中心から半径約2万光年の質量分布を調べたところ、暗黒物質の質量はこの範囲内における総質量の5パーセント未満であることがわかりました。IACによれば、現在の宇宙論モデルに従うとNGC 1277と同じ質量を持つ銀河では質量全体のうち10~70パーセントを暗黒物質が占めると予測されるといいますから、観測データから割り出されたNGC 1277の暗黒物質がいかに少ないかがわかります。

この宇宙に存在する物質やエネルギーのうち、私たちが知覚している通常の物質(バリオン)は約5パーセントに過ぎず、通常の物質に対して重力を介してのみ影響を及ぼし、電磁波では観測できないとされる暗黒物質が約27パーセント、宇宙の加速膨張をもたらしていると考えられている暗黒エネルギー(ダークエネルギー)が約68パーセントを占めるとみられています。

-PR2-

暗黒物質が発見されるきっかけになったのは、銀河の回転速度でした。銀河を公転している星々は、遠心力と重力が釣り合っているからこそ飛び出すことなく公転できるはずです。しかし、実際の観測結果をもとに銀河の質量と回転速度を算出してみると、銀河を構成する星々やガスなどの総質量だけでは釣り合いが取れないほどの速度で回転していることがわかりました。電磁波では観測できない謎の物質……すなわち暗黒物質が大量に存在していなければ、現実に銀河の形が保たれていることを説明できないというわけです。

【▲ 銀河の回転とダークマター(Credit: 創造情報研究所)】
【▲ 銀河の回転とダークマター(Credit: 創造情報研究所)】

銀河が暗黒物質のハローに包まれていることを銀河の回転速度の観測を通して証明したのは、アメリカの天文学者ヴェラ・ルービンでした。現在では、誕生したばかりの宇宙ではまずミクロな密度のゆらぎをもとに暗黒物質が集まって暗黒ハロー(ダークハロー)が形成され、暗黒ハローに引き寄せられた通常の物質から星々が誕生し、やがて銀河に成長していったと考えられています。

このように暗黒物質は銀河にとって欠かせない存在のはずなのですが、どうしてNGC 1277にはほとんど存在しないのか。その理由について研究チームは、過去の研究成果を参照しつつ2つの仮説を立てています。

1つ目は銀河団での相互作用によって失われたとする説です。NGC 1277は1000以上の銀河で構成されるペルセウス銀河団の一員ですが、銀河団へ加わる時に生じた周囲との相互作用によって暗黒物質が剥ぎ取られた可能性があるといいます。2つ目はNGC 1277の形成時に失われたとする説です。ガスを豊富に含む原始的な銀河の断片どうしが高速で衝突してNGC 1277が形成された時、暗黒物質が追い出されたのではないかといいます。

ただ、どちらの説も完全ではなく謎は残されたままであることから、研究チームはカナリア諸島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台にあるウィリアム・ハーシェル望遠鏡の多天体分光器を用いた新たな観測を計画しているということです。研究チームの成果をまとめた論文はAstronomy & Astrophysicsに掲載されています。

 

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, and M. Beasley (Instituto de Astrofísica de Canarias)
  • IAC – The puzzle of the galaxy with no dark matter
  • Comerón et al. – The massive relic galaxy NGC 1277 is dark matter deficient (Astronomy & Astrophysics)

文/sorae編集部

-ads-

-ads-