カリフォルニア工科大学(Caltech)の博士研究員Ilaria Caiazzoさんを筆頭とする研究チームは、表面の片側は水素、もう片側はヘリウムでできている白色矮星を発見したとする研究成果を発表しました。研究チームによると、一部の白色矮星がたどる進化の途中段階を捉えた可能性があるようです。
研究チームが報告したのは「はくちょう座」の方向約1300光年先の白色矮星「ZTF J203349.8+322901.1」です。最初の3文字はパロマー天文台の掃天観測システム「Zwicky Transient Facility」(ZTF、ツビッキー・トランジェント天体探査装置)で発見されたことを示しています。
研究チームを驚かせたのは、W. M. ケック天文台の「ケック望遠鏡」を使って実施された分光観測(※)の結果でした。ケック望遠鏡の観測データは、約15分周期で自転しているZTF J203349.8+322901.1の片側が地球に向いている時は水素が検出されて(ヘリウムの兆候はなし)、その反対側が地球に向いている時はヘリウムだけが検出されたことを示していたといいます。つまり、この白色矮星の表面は片側が水素、もう片側がヘリウムでできていることになります。2つの顔を持つローマ神話の神にちなんで、研究チームはZTF J203349.8+322901.1をヤヌス(Janus)と呼んでいます。
※…電磁波の波長ごとの強さを示すスペクトルを得る観測方法のこと。スペクトルには原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」や、反対に特定の波長の電磁波を放つことで生じる明るい線「輝線」が現れるため、分光観測を行うことで天体の組成などを調べることができる。
太陽のように比較的軽く超新星爆発を起こさない恒星は、大きく膨張して外層からガスを放出する赤色巨星の段階を経た後に、白色矮星へと進化します。白色矮星は恒星だった頃の中心核(コア)が予熱で輝いている天体なので、時間が経つとともに冷えていきます。
研究チームによると、形成されて間もない白色矮星では軽い元素が上へ、重い元素が下へと移動するため、大気の上層には水素が浮かび上がります。やがて白色矮星の温度が下がると分かれていた物質が混ざり合い、一部の白色矮星では水素に代わってヘリウムが多く現れるようになるといいます。今回発見されたZTF J203349.8+322901.1は、表面が水素主体からヘリウム主体へと移り変わっていく段階にある白色矮星かもしれないとCaiazzoさんは語っています。
しかし、なぜZTF J203349.8+322901.1の表面はまるで“2つの顔”のように非対称なのでしょうか。研究チームは、謎の鍵を握っているのは磁場ではないかと考えています。Caiazzoさんによれば、天体周辺の磁場は非対称か、片側が強くなる傾向にあるといいます。磁場は物質が混合するのを妨げる働きをするため、白色矮星の片側の磁場が強ければ物質が混ざりにくくなり、結果として表面に水素が多く現れるというわけです。
また、別の可能性として、研究チームは白色矮星の大気の圧力と密度の変化も挙げています。研究に参加したCaltechのJames Fuller教授は、磁場によって大気中の気体圧力が低下する可能性があり、その結果として磁場の最も強い場所にまるで“海”のように水素が集中する可能性があると説明しています。どちらが正しいにせよ、ZTF J203349.8+322901.1の二面性には磁場が関わっているとしか考えられないといいます。
ZTF J203349.8+322901.1の謎を解くために、研究チームは同様の白色矮星をさらに多く見つけたいと考えています。CaiazzoさんはZTFとともに、現在チリで建設が進められている「ヴェラ・ルービン天文台」での観測にも期待を寄せています。研究チームの成果をまとめた論文はNatureに掲載されています。
Source
- Image Credit: K. Miller, Caltech/IPAC
- Caltech - Two-Faced Star Exposed
- W. M. Keck Observatory - Two-Faced Star Exposed: Unusual White Dwarf Star is Made of Hydrogen on One Side and Helium on the Other
- Caiazzo et al. - A rotating white dwarf shows different compositions on its opposite faces (Nature, Research Square)
文/sorae編集部