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太陽系の外からやってきた「恒星間天体」は、公式に認められている「オウムアムア」と「ボリソフ彗星」の2つ以外にも複数の候補があります。その1つ「CNEOS 2014-01-08」は、地球に落下したことが確認された初の恒星間天体である可能性があります。

ハーバード大学のAvi Loeb氏が主導する「ガリレオ・プロジェクト」は今回、CNEOS 2014-01-08に由来するとみられる微小な金属球を発見したと発表しました。まだ分析の初期段階ではあるものの、もしも本当であれば、人類は史上初めて恒星間天体のサンプルを採集したことになります。ただし、現時点ではLoeb氏らの発表に対して多くの異論・反論もあります

「恒星間天体」とは、特定の恒星の重力にとらわれていない天体(ただし恒星は除く)を指す言葉です。恒星間天体も最初は恒星を公転していたものの、何らかの理由でその重力を振り切って飛び出し、別の恒星の重力に捕らわれるまで星間空間をさまよっていると考えられています。ただ、恒星間天体の詳しい正体はわかっていません。

観測技術の限界から、現状で観測できるのは太陽系の内部に進入した恒星間天体に限られています。現在までに恒星間天体であるとはっきり認められているものは、2017年に観測史上初めて発見された「オウムアムア」と、2019年に発見された「ボリソフ彗星」の2個のみです。

一方、恒星間天体ではないかと考えられている天体は他にもあります。最も有力な候補は、2014年に観測された「CNEOS 2014-01-08」というカタログ名の流星です。CNEOS 2014-01-08は観測されたタイミングこそオウムアムアより早いものの、恒星間天体だと主張されたのは軌道と衝突速度が解析された2019年になってからでした。現在でも議論が続いているものの (※1) 、CNEOS 2014-01-08は地球に衝突したことが確認された初の恒星間天体の可能性があることから「IM1(IM=Interstellar Meteor / 恒星間流星)」とも呼ばれています。

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※1…流星の軌道解析に必要なデータの一部にアメリカ宇宙コマンドの非公開情報が含まれていて、第三者検証を行えないことが理由の1つです。CNEOS 2014-01-08が恒星間天体である可能性は、非公開データを含む検証では99.9999%であると主張されていますが、公開情報のみに基づく検証では48%までに低下します (いずれも2019年時点) 。

【▲ 図1: CNEOS 2014-01-08はパプアニューギニア付近の太平洋に落下したと推定されている。 (Image Credit: Loeb, et al.) 】
【▲ 図1: CNEOS 2014-01-08はパプアニューギニア付近の太平洋に落下したと推定されている(Credit: Loeb, et al.)】

CNEOS 2014-01-08はパプアニューギニアのマヌス島から北東に約84km離れた太平洋上に落下し、その大部分は大気圏で燃え尽きたと推定されています。流星として大気圏に突入した天体の岩石や金属成分は、一度蒸発した後で再び冷えて固まることで微小な金属球となり、ゆっくりと地面や海底に降り積もります。落下したのは海底がほとんどかき混ぜられていない海域だと推定されるため、採取された海底のサンプルからCNEOS 2014-01-08由来の小球体が見つかる可能性があるのです。

【▲ 図2: 今回のプロジェクトで使用された “そり” 。海底を引きずることで磁気に引き寄せられる小球体などの物質を採集できる。中央の人物は今回の研究を主導しているAvi Loeb氏。 (Image Credit: Loeb, et al.) 】
【▲ 図2: 今回のプロジェクトで使用された “そり” 。海底を引きずることで磁気に引き寄せられる小球体などの物質を採集できる。中央の人物は今回の研究を主導しているAvi Loeb氏(Credit: Loeb, et al.)】

恒星間天体に着目して研究を行っているLoeb氏は、特異な性質を持つ天体や、高度な技術を持つ地球外文明による人工物が存在する可能性を調査する「ガリレオ・プロジェクト」を2022年に立ち上げています。CNEOS 2014-01-08に由来する小球体の捜索は、ガリレオ・プロジェクトにおける具体的な調査の1つです。

Loeb氏らは2023年6月14日から調査船「シルバー・スター」に搭乗して、CNEOS 2014-01-08が落下したとみられる海域の調査を行いました。水深約2000mの海底に沈んだ直径1mm以下の小球体を見つけ出すのは簡単なことではありませんが、プロジェクトでは磁気を帯びた “そり” を海底で滑らせることで、鉄を主成分とする粒を採集し、その中からCNEOS 2014-01-08に由来すると思われる小球体を探しました。磁気で引き寄せられる粒子は大半が火山灰に由来するので、非常に大変な作業です。

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【▲ 図3: 今回発見された、CNEOS 2014-01-08に由来する可能性がある小球体の1つ。 (Image Credit: Loeb, et al.) 】
【▲ 図3: 今回発見された、CNEOS 2014-01-08に由来する可能性がある小球体の1つ(Credit: Loeb, et al.)】

2週間に渡る採集とサンプルの選別、そして分析の結果、Loeb氏らはCNEOS 2014-01-08に由来すると思われる小球体を50個以上発見したと発表しました。「これらの小球体が恒星間天体に由来するものであり、その天体とはCNEOS 2014-01-08である」とLoeb氏らが考える根拠は以下の通りです。

  • 小球体の発見場所はCNEOS 2014-01-08の推定落下経路の範囲に集中している。落下から採集までの期間は9年半と短く、海流や海底堆積物の動きで移動する前に発見できる可能性が高い。
  • 小球体の組成は84%が鉄、8%がケイ素、5%がマグネシウム、2%がチタンおよびその他の微量元素で構成されている。これは既知の流星物質や人類が作った合金の組成とは似ていない。
  • 鉄が多い割にニッケルがほとんど含まれていない。これは太陽系内の天体に由来する流星には見られない特徴である。
  • 小球体の表面の特徴から、冷え固まるまでにかなりの高温を経験したと推定される。高速での大気圏突入時には高温を経験することになるため、矛盾しない。
  • 小球体の内部にはいくつもの空洞があり、高温で融けた滴が衝突を繰り返しながら固まったことを示している。
  • 組成分析された小球体のうち1個にはインジウムが10%も含まれていた。インジウムは地球表面では珍しい元素である。
  • 2個の小球体に含まれるウランと鉛の同位体比から、小球体のもとになった天体は太陽系の誕生 (約46億年前) よりもずっと前 (恐らく宇宙の年齢の約138億年前と同程度) に形成された可能性がある。
【▲ 図4: 今回の探査で調査された海域。赤い四角は衝突地点の推定範囲、オレンジ色が突入経路の推定範囲、黄色の線が海底でサンプルを採集した航路を示す。左下は航路ごとの小球体の採集個数であり、8回目の調査で初めて採集されて以降、その付近を調査することで合計50個以上の小球体採集に成功している。 (Image Credit: Loeb, et al.) 】
【▲ 図4: 今回の探査で調査された海域。赤い四角は衝突地点の推定範囲、オレンジ色が突入経路の推定範囲、黄色の線が海底でサンプルを採集した航路を示す。左下は航路ごとの小球体の採集個数であり、8回目の調査で初めて採集されて以降、その付近を調査することで合計50個以上の小球体採集に成功している(Credit: Loeb, et al.)】

もしもLoeb氏らの主張が正しい場合、これらの小球体は人類が初めて手にした恒星間天体の破片であると同時に、人類が手にした最も古い時代に形成された物質でもあることになります (※2)

※2…これまでの最古の記録は、マーチソン隕石に含まれる微細なモアッサン石 (炭化ケイ素) の約70億年前。

ただし、今回の報告は初期分析の結果を示したものであり、論文として世に出たわけではないことから、Loeb氏らの主張には賛否両論があります。

異論の多くは「発見された小球体が本当に恒星間天体の破片であるのか」という点を論じています。高温で融けてから球体となった金属の塊は、石炭の燃焼、金属の鋳造、ガソリン車の走行といった産業革命以降の様々な人為的活動の副産物としても大量に生じるため、発見された小球体は自然物ではない可能性があります。特に、Loeb氏らが根拠の一つとして言及しているニッケルを含まない鉄合金という小球体の組成は、人類が生み出した人工物に由来する可能性も高めているのです。

また、地球には毎日合計1トンとも推定されるほど数多くの流星が落下しており、今回発見されたような小球体も日々海底に沈んでいます。仮に、今回発見された小球体が流星に由来する自然物だったとしても、恒星間天体に由来するものであると直ちに確定させることはできません。そもそもCNEOS 2014-01-08は恒星間天体ではない (※3) とする主張もあるため、仮に採集された小球体が恒星間天体由来の破片であるとしても、CNEOS 2014-01-08とは無関係な別の天体に由来するかもしれません。

※3…ガリレオ・プロジェクトのもとで採取が行われていた2023年6月25日、CNEOS 2014-01-08が恒星間天体ではないと主張するプレプリントが投稿されました。注記1でも言及したアメリカ宇宙コマンドのセンサーは、この地域における流星の落下速度を過大に見積もる傾向があるとされており、このことを考慮して評価した結果、CNEOS 2014-01-08は太陽系内の天体に由来するありふれた流星であると主張しています。

いずれにしても、この記事の執筆時点 (2023年7月14日) では、人類が初めて恒星間天体の破片を入手したのかどうかを確定させることはできません。Loeb氏らが採取した小球体の分析も初期段階であり、主張を確かなものとするにはさらなる分析結果が必須です。特に、小球体の同位体比率に異常な値があれば、その正体について多くのことがわかるでしょう。Loeb氏らが発見した小球体の正体は人工物なのか、ありふれた太陽系内の天体に由来するのか、それとも極めて古い恒星間天体に由来するのか、最終的な判断はこれからとなるでしょう。

 

Source

  • Avi Loeb. “Diary of an Interstellar Voyage (Report 1-36) ”. (Medium)
  • Joanna Thompson. “Harvard scientist claims ‘anomalous’ metal spheres pulled from the ocean could be alien technology. Others are not convinced”. (Live Science)
  • Monica Grady. “Physicist who found spherical meteor fragments claims they may come from an alien spaceship – here’s what to make of it”. (The Conversation)
  • Jorge I. Zuluaga. “Speed Thresholds for Hyperbolic Meteors: The Case of the 2014 January 8 CNEOS Meteor”. (Research Notes of the AAS)
  • Amir Siraj & Abraham Loeb. “The 2019 Discovery of a Meteor of Interstellar Origin”. (arXiv)
  • Abraham Loeb & Frank H. Laukien. “Overview of the Galileo Project”. (Journal of Astronomical Instrumentation)
  • Amir Siraj & Abraham Loeb. “Interstellar Meteors are Outliers in Material Strength”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • Peter G. Brown & Jiří Borovička. “On the Proposed Interstellar Origin of the USG 20140108 Fireball”. (arXiv)

文/彩恵りり

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