極端な高温に晒された巨大ガス惑星では、大気を構成する分子が分解して非常にエキゾチックな化学成分を示すと考えられています。しかし、このような条件が揃っている惑星はこれまで1例しか発見されていませんでした。ワイツマン科学研究所のNa’ama Hallakoun氏らの研究チームは、巨大ガス惑星ではないものの、それに非常に近い性質を持ち、約8000℃もの高温に晒された褐色矮星「WD0032-317B」の研究結果を公表しました。8000℃といえば太陽の表面よりも高い温度です。WD0032-317Bの存在は、高温の惑星環境を研究する上での良い観測対象となる可能性があります。
1995年に発見された「ペガスス座51番星b」を皮切りに、極端に恒星に近い軌道を公転する巨大ガス惑星「ホットジュピター」が数多く発見されています。太陽系の巨大ガス惑星である木星や土星とは違い、ホットジュピターは恒星からの強い放射に焙られ続けるため、蒸発した大気が流出している様子も観測されています。また、極端な高温に晒されていることから低温の惑星では見られない化学成分が次々と見つかっており、興味深い対象として日夜観測と研究が行われています。
2017年に発見された「KELT-9b」は、その極端な事例の1つとして知られています。公転軌道が恒星「KELT-9」に極めて近い上に、KELT-9自体が太陽よりも高温なタイプの恒星(表面温度は約9300℃)であるために、KELT-9bの昼側の気温は約4300℃に達しています (※1) 。これは低温なタイプの恒星表面よりも高い温度であり、知られている中では最も高温な惑星です。
※1…KELT-9bは恒星から極端に近い距離を公転しているため、潮汐力の作用によって昼側と夜側は永久に固定されている状態 (潮汐ロック、潮汐固定) だと考えられています。
極端な高温とそれによる激しい大気循環、恒星から降り注ぐ強力な紫外線によって、KELT-9bは水、メタン、水素といった化学的に安定な分子ですら原子単位に分解され、通常は重すぎて大気中に現れることのないテルビウムなどの金属元素が存在しています。KELT-9bはホットジュピターが蒸発する詳しい過程、極度の高温によって生じるエキゾチックな大気の様子、巨大ガス惑星の内部の組成を間接的に知る手段として、非常に貴重な存在です。
ただし、安定な分子が分解するほどの極端な環境にある惑星は、今のところKELT-9bの1例しか知られていません。太陽よりも重いKELT-9のような恒星での惑星発見の事例がほとんどない上に、詳細な大気成分を探るための観測が難しいという技術的な困難さがあるためです。比較できる対象の不在は、超高温の惑星の大気を研究する上で一つの障害となっていました。
今回Hallakoun氏らが報告したWD0032-317Bは惑星ではないものの、よく似た性質を持つ「褐色矮星」と呼ばれるタイプの天体です。褐色矮星は巨大ガス惑星と恒星の中間に属する天体であり、その重さは木星の13倍~80倍です。褐色矮星の中心部では重水素やリチウムの核融合反応が起こりますが、存在量が非常に少ない原子核を素にしている反応なのですぐに停止してしまい、その後は赤外線放射をしながらゆっくりと冷えていくことになります。褐色矮星は高温のタイプでも表面温度は2000℃未満であり、なかには100℃を下回って水の雲を持つ例すらあります。この点で、褐色矮星は巨大ガス惑星の非常に重いタイプだと見なすことができます。
今回の研究対象となった褐色矮星WD0032-317Bは、地球から約1410光年離れた位置にある白色矮星「WD0032-317」をわずか2.3時間周期で公転しています。WD0032-317は恒星ではなく白色矮星(太陽くらいの軽い恒星が寿命を迎えた後に残す高密度の中心核)ですが、その表面温度は約3万7000℃と推定されています。白色矮星と褐色矮星の組み合わせはこれまで12例しか見つかっておらず、その中でもWD0032-317はかなりの高温です。WD0032-317Bはかなりの高温と強烈な紫外線に晒されていると推定されますが、正確な環境はわかっていませんでした。
Hallakoun氏らは過去の観測結果に基づく複数のモデルを構築し、WD0032-317Bの環境を推定しました。最も難しいのは、白色矮星の放射の特性を決める中心核の組成であるため、今回の研究では「ヘリウム核 (ヘリウムを主体とした中心核)」と「ハイブリッド核(炭素など様々な元素が混合した中心核)」という2つの仮定を元に計算を行いました。
その結果、WD0032-317Bの昼側 (※2) の気温は、ヘリウム核モデルでは7600℃、ハイブリッド核モデルでは8500℃だと推定されました。この温度はKELT-9bを上回り、恒星である太陽の表面温度(5500℃)よりも高い温度です。その一方で、夜側はどちらのモデルでも約1700℃だと推定されるため、昼夜の温度差は6000℃前後もあることになります。また、WD0032-317Bが受ける極紫外線(非常に高エネルギーの紫外線)は、KELT-9bの5600倍であると推定されます。
※2…上記KELT-9bと同様に、WD0032-317Bの昼夜も固定されていると考えられています。
これほど極端な熱と紫外線を受ける環境では、褐色矮星自体の赤外線放射は無視できるため、WD0032-317Bは事実上巨大ガス惑星と同等であると見なせるため、KELT-9bと比較できる観察対象になり得ます。WD0032-317Bのさらなる詳細な観測は、極端な環境に置かれた巨大ガス惑星の大気成分の変化や、どのように大気が蒸発していくのかを調べるための良い指標になると考えられます。
Source
- Na'ama Hallakoun, et.al. “An irradiated-Jupiter analogue hotter than the Sun”. (arXiv)
- Bob Yirka. “Discovery of a brown dwarf hotter than the sun”. (Phys.org)
- Joanna Thompson. “Bizarre object hotter than the sun is orbiting a distant star at breakneck speed”. (Live Science)
- Brian Koberlein. “A Brown Dwarf is Getting Hit With So Much Radiation it's Hotter Than the Sun”. (Space.com)
文/彩恵りり