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毎年12月半ば頃に観測される「ふたご座流星群」は「しぶんぎ座流星群」や「ペルセウス座流星群」と並んで知名度の高い流星群です。

【▲ 図3: 今回の研究結果に基づくファエトンの想像図。表面の岩石からナトリウムが蒸発し、ガス状の尾が伸びている。これは、主に揮発性物質と塵で構成された普通の彗星とは全く異なる構成である。 (Image Credit: NASA/JPL-Caltech/IPAC) 】
【▲ 図1: 小惑星「ファエトン」の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech/IPAC)】

ふたご座流星群をもたらす塵の放出源である母天体は3200番小惑星「ファエトン」であると考えられています。プリンストン大学のW. Z. Cukier氏とJ. R. Szalay氏の研究チームは、アメリカ航空宇宙局(NASA)などが打ち上げた太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の観測データに基づき、ファエトンからの塵の放出は天体衝突のような激しいプロセスによって生じたとする研究結果を発表しました。この結果が正しければ、ふたご座流星群は天文学的なスケールではごく一時的な現象であることになります。

毎年決まって同じ時期に観測される流星群は、流星の元になる塵の分布が関係していると考えられています。彗星のように表面活動の活発な天体は、その公転軌道上に大量の塵を放出します。このような天体の公転軌道が地球の公転軌道と交差していると、地球は毎年同じ時期に交差点を通過することになるため、毎年同じ時期に流星群が観測されるというわけです。

しかし、母天体が彗星だと推定されている他の流星群とは異なり、小惑星であるファエトンが母天体だと推定されている点で、ふたご座流星群は非常に珍しい存在です。確かに、太陽に極めて接近するファエトンの軌道は小惑星というよりも彗星のようであり、わずかながら尾を形成するような活動も観測されました。そのため、ファエトンはもともと彗星であり、氷などの揮発性物質が枯渇した天体なのではないかとする説もありました。

しかし、近年の観測結果はファエトンがごく普通の小惑星であり、太陽に極めて接近するために彗星のような活動を示しているに過ぎない、という認識でほぼ一致しています。尾の主成分は高温の環境下でなければ蒸発しにくいナトリウムであり、揮発性物質や塵は含まれていないことも判明しています。

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関連:普通の小惑星「ファエトン」が普通ではない彗星になった理由 ふたご座流星群の母天体(2023年5月10日)

このような性質を持つため、ファエトンからどのようにして流星群の元となる塵が放出されているのか、という謎は深まるばかりでした。ファエトンは太陽に極めて接近した時以外はごく普通の小惑星のように振る舞うため、何か特異な現象が起きているとすれば太陽へ接近した時に限られます。しかし、太陽に接近した時のファエトンを観測するのは太陽が明るすぎるためにこれまでは困難でした。

【▲ 図2: パーカー・ソーラー・プローブは太陽探査機であり、塵を直接観測するための観測装置は搭載されていない。しかし工夫することで、間接的にファエトンの塵を捕らえることに成功した。 (Image Credit: NASA / Johns Hopkins APL / Steve Gribben) 】
【▲ 図2: パーカー・ソーラー・プローブは太陽探査機であり、塵を直接観測するための観測装置は搭載されていない。しかし工夫することで、間接的にファエトンの塵を捕らえることに成功した(Credit: NASA / Johns Hopkins APL / Steve Gribben)】

Cukier氏とSzalay氏の研究チームは、ファエトンからの塵の放出をシミュレーションし、それをパーカー・ソーラー・プローブの観測結果と比較することで、ファエトンがどのようにしてふたご座流星群の母天体となったのかを研究しました。研究チームは以下の3つのシミュレーションを検討し、2000年間に渡る塵の動きと広がり方を検証しました。

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1. 標準的な放出: ファエトンから低速度で塵が放出されるという想定。ファエトンは太陽の放射によって極度に乾燥してひび割れており、放射圧の非対称さによって自転が一時的に加速する現象 (YORP効果) が起こり得る。この2つの要因が重なると、表面からゆっくりと塵が放出されると考えられる。

2. 激しい放出: ファエトンに小さな天体が衝突し、その衝撃で塵が放出されるという想定。衝突速度は1km/s程度であり、標準的な放出と比べて放出された放出時の塵の速度は速く、瞬間的なプロセスによる現象であることを特徴とする。

3. 普通の彗星活動による放出: ファエトンが普通の彗星と同じような活動をしているという想定。比較のために検討されたもので、数々の観測結果に反する仮定であり、研究チームもこのプロセスが働いている可能性は低いと考えている。

パーカー・ソーラー・プローブのデータは観測装置の一つ「FIELDS」のものが用いられました。複数のアンテナや磁力計で構成されているFIELDSは、電場・磁場・太陽コロナを通過する衝撃波の測定を行うための装置ですが、塵検出器として利用することもできます。アンテナに塵が衝突することで生じる電位変化の値を読み取り、そこから塵の密度を算出することができるのです。

【▲ 図3: 左から「標準的な放出」、「激しい放出」、「普通の彗星活動による放出」のシミュレーション結果。塵の空間的な広がり方から、最も実態と一致するのは激しい放出であると判明した。 (Image Credit: Cukier & Szalay) 】
【▲ 図3: 左から「標準的な放出」、「激しい放出」、「普通の彗星活動による放出」のシミュレーション結果。塵の空間的な広がり方から、最も実態と一致するのは激しい放出であると判明した(Credit: Cukier & Szalay)】

研究の結果、観測データと最も一致するのは、ファエトンに対する天体衝突によって激しく塵が放出されたと仮定したシミュレーションであることが判明しました。これは今回のパーカー・ソーラー・プローブの観測データだけでなく、過去の観測結果とも一致するものです。

ただし、シミュレーションの結果は完全ではありません。今回の研究で示されたモデルでは、地球がファエトンの塵と交差するタイミング、つまりふたご座流星群が出現する時期を予測することはできませんでした。このことはシミュレーションが完全ではないことを意味しますが、どこが誤っているのかが明らかになるのは今後の研究次第であると考えられます。

なお、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2024年に打ち上げを計画している探査機「DESTINY+」は、ファエトンの接近観測を目的の1つとして計画されているミッションです。DESTINY+は宇宙空間を漂う塵を観測する装置を搭載していますが、今回の研究結果を考慮すれば、ファエトンの塵の直接検出は困難かもしれません。しかし、パーカー・ソーラー・プローブのような間接的な検出は可能だと見込まれますし、接近観測によって得られる情報は他にもあります。ファエトンの謎は、そう遠くないうちに明らかになるかもしれません。

 

Source

  • W. Z. Cukier & J. R. Szalay. “Formation, Structure, and Detectability of the Geminids Meteoroid Stream”. (The Planetary Science Journal)
  • Alaina O'Regan. “Researchers demystify the unusual origin of the Geminids meteor shower”. (Princeton University)

文/彩恵りり

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