星と星の間に広がる「星間空間」は何もない真空ではなく、そこには星間ガスや星間塵が存在しています。星間物質と総称されるこれらのガスや塵は均一に分布しているのではなく、周囲と比べて高密度な領域は「暗黒星雲」と呼ばれています。
その名が示すように、人間が知覚できる可視光では暗黒星雲そのものは見えませんが、その背後にある恒星などの光を遮ることで、黒い雲のように浮かび上がって見えているのです。可視光よりも波長の長い赤外線や電波を利用した観測で、暗黒星雲には様々な分子が含まれていることがわかっています。そのため、暗黒星雲は「分子雲」とも呼ばれています。
こちらの画像は、南天の「おおかみ座」の方角、約500光年先にある暗黒星雲「おおかみ座3(Lupus 3)」です。
おおかみ座3の中心では2つの青い星(「HR 5999」と「HR 6000」)が輝いています。この2つの星がガスと塵を明るく照らし出している青色の部分は反射星雲「バーンズ 149(Bernes 149)」と呼ばれており、おおかみ座3とともに壮大な眺望を作り出しています。「反射星雲」とは、その名の通り自ら光を発しているのではなく、恒星の光を反射して輝く星雲です。
おおかみ座3に含まれる物質(分子)は、新たな星を生み出す材料となります。HR 5999とHR 6000もおおかみ座3の中で誕生し、成長しました。2つの星は年齢がまだ100万歳と若く、太陽のような主系列星の前段階にあたる「おうし座T型星」と呼ばれる種類の前主系列星です。その明るさにもかかわらず、2つの星はまだ太陽のように核融合エネルギーでは輝いておらず、自らの重力で収縮し加熱することで輝いています。
おうし座T型星が形成される過程では、放出された強力な星風がガスや塵を吹き飛ばします。バーンズ 149は、その残留物から作り出されたのです。このように、おおかみ座3は活発な星形成領域であり、原始星など星形成に関する知見を提供しています。
この画像は、NOIRLab(米国立光学赤外線天文学研究所)所属のセロ・トロロ汎米天文台にあるビクター M. ブランコ4メートル望遠鏡に設置された広視野カメラ「ダークエネルギーカメラ(Dark Energy Camera:DECam)」で撮影されました。
おおかみ座3は分子雲の複合体を構成する少なくとも9つの暗黒星雲の1つであり、満月24個分の視直径に相当する範囲に広がっているとのこと。DECamの広い視野とブランコ4メートル望遠鏡の集光能力を組み合わせることで、おおかみ座3の鮮明で高解像度の画像が取得されました。
最後に、こちらはおおかみ座3とバーンズ 149にズームインした動画です。
Source
- Image Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA/ T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab); Processing: D. de Martin & M. Zamani (NSF’s NOIRLab)
- Video Credit: NOIRLabAstro
- NOIRLab - Radiant Protostars and Shadowy Clouds Clash in Stellar Nursery
文/吉田哲郎