太陽よりもずっと重い恒星がその生涯を終える時、その中心核は収縮して「中性子星」と呼ばれるコンパクト星を残します。中性子星は全体が1つの原子核であるとも表現されるほどの、最も高密度な天体の1つです。

言ってみれば、中性子星は私たちがよく知る物体の極限状態の1つであり、具体的な物性を調べられるという点でも興味深い研究対象です。ただし、中性子星の内部は極めて高密度・高エネルギーな環境であるため、正確な性質はほとんど分かっていません。

【▲ 図: 中性子星の想像図(Credit: ESO/L. Calçada)】
【▲ 図: 中性子星の想像図(Credit: ESO/L. Calçada)】

中国科学院のMing-Zhe Han氏らの研究チームは、いくつかの中性子星の観測データと理論計算を駆使し、中性子星の内部の様子を探りました。研究には中性子星同士の合体を捉えた重力波「GW170817」、正確な大きさが判明している中性子星「PSR J0030+0451」、最大級の重さを持つ中性子星「PSR J0740+6620」のデータが用いられました。これらの観測データと、原子核に関連する研究データや理論を組み合わせることで、研究チームは中性子星の内部の状態をシミュレーションしたのです。

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その結果、特に重い中性子星について、これまでの予測とは異なる結果が得られました。天体サイズの物体の場合、中心部に向かえば向かうほど物質は強く圧縮されるため、中心部が一番硬くなる傾向にあります。中性子星を構成する物質の大部分は中性子でできた原子核だと考えられていますので、中心部に至るまでそのような構成だとすれば、中性子星の中心部は最も硬くなるはずです。

しかし、極端に重い中性子星のシミュレーションでは、最も硬くなる部分は中心部ではなく、その周辺部であるという結果になりました。つまり、重い中性子星は奇妙なほどに “柔らかい” 核 (コア) を持つことになります。この結果は、重い中性子星の中心部では物質構成が変化していると仮定することで説明できる可能性があります。

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Han氏らは、重い中性子星の中心部は原子核ではできておらず、原子核を構成する中性子や陽子が分解し、素粒子であるクォークが剥き出しで存在する「クォーク物質」の状態にあると考えていて、太陽の2.14倍以上の質量を持つ中性子星がクォーク物質でできた核を持つ可能性が高いと推定しています。物質構成が異なるとすれば、中心部が硬くないことを示したシミュレーション結果の説明になります。

太陽の2.14倍という質量は、それ以上重ければ中性子星が潰れてブラックホールになってしまうとされる「トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界」の98%に相当します。また、低い確度で見積もっても、太陽の2.01倍以下の質量の中性子星にクオーク物質の核はありそうにないとも推定されています。この研究に基づけば、奇妙な核を持つのはほんの一握りの中性子星であることになります。

中性子星の中心部は物質の極限状態が保たれている興味深い場所であり、誕生直後の宇宙にも近い環境です。極限状態の研究は、私たちが身近に観察している物質の性質を決める様々な物理的パラメーターを知るために必要な研究でもあります。

意外かもしれませんが、中性子星に奇妙な核が存在するのか否かという疑問を解き明かすための研究は、物質でできている私たち自身とも縁遠い話ではありません。

 

Source

  • Ming-Zhe Han, et.al. “Plausible presence of new state in neutron stars with masses above 0.98MTOV”. (Science Bulletin)
  • Li Yuan. “Massive Neutron Star Has a Strange Heart”. (Chinese Academy of Sciences)

文/彩恵りり

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