土星の衛星エンケラドゥスは直径約500kmの比較的小さな衛星です。その南極域には平行に生じた複数の亀裂でできた「タイガーストライプ」と呼ばれる模様があり、ここから噴出しているとみられるプルーム(水柱、間欠泉)の存在が知られています。表面を覆う氷の外殻の下には液体の水をたたえた内部海があると予想されていて、生命が存在する可能性も指摘されていることから、エンケラドゥスは大きく注目されている天体のひとつに数えられます。

【▲ 土星探査機カッシーニの狭角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドゥス(紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用して取得したデータをもとに作成)(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】
【▲ 土星探査機カッシーニの狭角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドゥス(紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用して取得したデータをもとに作成)(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのGeronimo Villanuevaさんを筆頭とする研究チームが「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡でエンケラドゥスを観測したところ、思いがけないプルームの様子が明らかになりました。Villanuevaさんたちの研究成果をまとめた論文はNature Astronomyに受理されており、arXivでプレプリントが公開されています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器(NIRSpec)で観測した土星の衛星エンケラドゥスのプルーム(背景)と、土星探査機カッシーニで撮影されたエンケラドゥスの姿(左上)(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Image Processing; Alyssa Pagan (STScI))】
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器(NIRSpec)で観測した土星の衛星エンケラドゥスのプルーム(背景)と、土星探査機カッシーニで撮影されたエンケラドゥスの姿(左上)(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Image Processing; Alyssa Pagan (STScI))】

こちらの画像、左上に配置されているのは土星探査機「カッシーニ」が撮影した土星の衛星エンケラドゥスの姿、背景の青い画像はウェッブ宇宙望遠鏡の「近赤外線分光器(NIRSpec)」で2022年11月9日に観測されたエンケラドゥス周辺の様子です。ウェッブ宇宙望遠鏡の画像におけるエンケラドゥスの位置は赤色の記号で示されています。

-PR-

ウェッブ宇宙望遠鏡の画像には、噴出したプルームがエンケラドゥスを要として扇形に広がっていく様子が捉えられています。同望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、プルームはエンケラドゥス自身の直径の20倍を超える1万km以上に渡って噴出していることが、今回の観測で初めて明らかになりました。噴出する水の量はオリンピックサイズのプールを2~3時間程度で満たせる毎秒約300リットルと推定されています。

研究チームを率いたVillanueva さんは「データを見ていた時、最初は自分が間違っているに違いないと思いました。エンケラドゥスの20倍以上もの大きさがあるプルームを検出したことは、本当に衝撃的だったのです」とコメントしています。

【▲ 土星を取り囲む水のトーラスの位置とスペクトルのデータを示した図(Credit: Science: Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Illustration: NASA, ESA, CSA, STScI, Leah Hustak (STScI))】
【▲ 土星を取り囲む水のトーラスの位置とスペクトルのデータを示した図(Credit: Science: Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Illustration: NASA, ESA, CSA, STScI, Leah Hustak (STScI))】

また、エンケラドゥスから噴出した水は、土星の環の一部であるE環と同じ位置でリング状のトーラス(ドーナツ形をした厚い構造)を形作るように分布していることも、今回の観測で判明したといいます。E環を構成する物質はエンケラドゥスが供給源になっていることが知られていて、エンケラドゥスは幅が広く希薄なE環の中を公転しています。

このトーラスは、土星を約33時間周期で公転するエンケラドゥスから噴出した水が、エンケラドゥスの通過後も滞留し続けることで形成されているとみられています。別の表現をすれば、トーラスはエンケラドゥスが土星を公転しながら噴霧した水でできているとも言えます。STScIによると、トーラスとして残っているのはエンケラドゥスから噴出した水のうち約30パーセントで、残りの約70パーセントはトーラスを脱出して土星系の他の場所へ供給されていくとみられています。

ウェッブ宇宙望遠鏡によるエンケラドゥスの観測は今後も継続される予定で、外殻の厚さや内部海の深さなどを調査する将来の探査ミッションに貴重な情報をもたらすことが期待されています。

【▲ 土星の影に入った探査機カッシーニが撮影した土星本体と環。一番外側で淡く青白い光を放っているのがE環で、エンケラドゥス(Enceladus)も左側に小さく写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech/SSI)】
【▲ 土星の影に入った探査機カッシーニが撮影した土星本体と環。一番外側で淡く青白い光を放っているのがE環で、エンケラドゥス(Enceladus)も左側に小さく写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech/SSI)】

 

Source

  • Image Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC), Alyssa Pagan (STScI), Leah Hustak (STScI), NASA/JPL-Caltech/SSI
  • STScI - Webb Maps Surprisingly Large Plume Jetting From Saturn’s Moon Enceladus
  • Villanueva et al. - JWST molecular mapping and characterization of Enceladus' water plume feeding its torus (arXiv)

文/sorae編集部

-ads-

-ads-