太陽よりもずっと重い恒星がその生涯を終える時、その中心核は収縮して「中性子星」と呼ばれるコンパクト星を残します。中性子星は宇宙で最も高密度な物質とも言われており、その表面ではしばしば “熱核爆発” が発生します。この爆発現象ではX線が何度も放出されることから、中性子星の表面で発生する爆発現象は「I型X線バースト (※) 、X線バーストを起こす天体は「X線バースター」と呼ばれています。

※…X線バーストにはI型とII型があります。I型は中性子星の表面で起こる降着円盤の核反応で発生します。II型は白色矮星の降着円盤が落下することによる重力エネルギーの解放で発生します。

【▲ 図1: X線バースターの想像図。中性子星の周辺に恒星からのガスが降り積もることによって生じると考えられている。 (Image Credit: NASA's Goddard Space Flight Center) 】
【▲ 図1: X線バースターの想像図。中性子星の周辺に恒星からのガスが降り積もることによって生じると考えられている(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)】

I型X線バーストは以下のプロセスを経て発生する現象です。X線バースターである中性子星は、普通の恒星を伴星とした連星を成しています。伴星からは水素やヘリウムが流れ出し、数時間から数日かけて中性子星の表面に蓄積していきます。中性子星の表面は重力が強いため、降り積もった物質は圧縮されて核融合反応が発生します。ここでの主な反応は水素の原子核……すなわち陽子が他の原子核に衝突・吸収されるものであるため、原子番号が1つずつ増える「陽子捕獲」という核融合反応が進行します。陽子捕獲による連続的な核融合反応は「rp過程」と呼ばれています。このrp過程と、それによって生じた不安定な原子核の崩壊によるエネルギーが合わさって起こるのがI型X線バーストの正体であり、通常は10秒から100秒ほどX線放出が継続します。

I型X線バーストの性質は、中性子星の物理的な特性と、rp過程で現れる原子核の特性によって決定されます。中性子星を実験室で作り出すのは不可能ですが、rp過程で現れる原子核を合成して、その性質を測定することは可能です。

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しかし、これらの原子核の合成は可能とはいえども困難であり、合成された原子核はすぐさま崩壊して消えてしまいます。精度の高いデータを得るためには、「合成が難しい原子核を大量に合成しなければならない」という矛盾に挑まなければならず、これまで詳しく研究することは困難でした。

【▲ 図2: 今回研究対象となった原子核 (赤色および水色) 。これらはゲルマニウム64 (Ge-64) に対して、核反応や崩壊で生成するものか、逆に生成の素となる原子核である。 (Image Credit: X. Zhou, et.al.) 】
【▲ 図2: 今回研究対象となった原子核 (赤色および水色) 。これらはゲルマニウム64 (Ge-64) に対して、核反応や崩壊で生成するものか、逆に生成の素となる原子核である(Credit: X. Zhou, et.al.)】

中国科学院のX. Zhou氏らの研究チームは、X線バースターで起こる核反応の中でも特に重要な原子核「ゲルマニウム64」の性質を決定するために、ゲルマニウム64と非常に似ている原子核(ゲルマニウム63、ヒ素64、ヒ素65、セレン66、セレン67)の精密な質量を測定する研究を行いました。

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なぜゲルマニウム64そのものではなく、それと似た原子核を測定するのでしょうか?それは、ゲルマニウム64が「待機点核種(Waiting-Point nuclide / WP nuclide)」と呼ばれる原子核の1つであるためです。待機点核種は陽子捕獲や崩壊によって原子核が変化するまでの時間が他の原子核と比べて長いため、rp過程全体の進行を遅くする働きがあります。このような待機点核種の働きは、I型X線バーストのエネルギー放出量や放出時間にも影響するのです。

I型X線バーストのデータは、実験室で作ることができない中性子星の物理的な性質を知る手掛かりとなるため、待機点核種の性質を知ることはとても重要です。ただし、待機点核種がrp過程に与える影響を知るには、核反応によって待機点核種に変化する原子核や、待機点核種から合成される原子核の性質も知る必要があります。これらの原子核の性質を待機点核種と比較することで、rp過程が待機点核種によってどの程度 “待たされる” のかを知ることができるというわけです。

Zhou氏らは、寿命が短く合成が難しいこれらの原子核を合成するため、「蘭州重イオン加速器装置施設(HIRFL / Heavy Ion Research Facility in Lanzhou)」で大量の原子核を合成する実験を行い、多数のデータを取得・分析しました。その結果、高精度な原子核の質量測定を行うことができました。

合成された原子核のうちヒ素64とセレン66は、今回初めて高精度な質量の測定に成功しました。特にセレン66は非常に合成の難しい原子核の1つとして知られており、関連研究の難題の1つが今回の研究で解決された形となります。

【▲ 図3: 今回の研究結果に基づいた、GS 1826-24の地球からの距離 (左側) と密度 (右側) の推定結果。距離は、今回の研究結果 (Updated) と従来の推定値 (AME’20) が重なっておらず、全く異なる値であることが分かる。密度は、今回の研究結果 (赤色) が、他の推定結果 (灰色) と比べて低密度の領域 (グラフ下側) に分布していることが分かる。 (Image Credit: X. Zhou, et.al.) 】
【▲ 図3: 今回の研究結果に基づいた、GS 1826-24の地球からの距離 (左側) と密度 (右側) の推定結果。距離は、今回の研究結果 (Updated) と従来の推定値 (AME’20) が重なっておらず、全く異なる値であることが分かる。密度は、今回の研究結果 (赤色) が、他の推定結果 (灰色) と比べて低密度の領域 (グラフ下側) に分布していることが分かる(Credit: X. Zhou, et.al.)】

今回の研究結果をX線バースターのデータに当てはめることで、早くもX線バースターの実像が1つ書き換えられました。「GS 1826-24」というX線バースターは、今回の研究結果に基づくと地球からの距離が約6.5%遠くなり、重力による赤方偏移の値が4.8%小さくなることが分かりました。これは、GS 1826-24の密度が中性子星としては低いことを意味します。低密度の中性子星の存在は、中性子星の基本的な物性の理解、ひいては物質一般に関する理解を変える可能性があります。

 

Source

  • X. Zhou, et.al. “Mass measurements show slowdown of rapid proton capture process at waiting-point nucleus 64Ge”. (Nature Physics)
  • 侯茜. “短寿命原子核质量精确测量揭示中子星性质”. (中国科学院)

文/彩恵りり

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