太陽系で2番目に遠い惑星「天王星」には、現在27個の衛星が発見されています。中でもサイズが大きな「ミランダ」「アリエル」「ウンブリエル」「チタニア」「オベロン」は、天王星の5大衛星として知られています。
これらの衛星は氷を主成分とすることから氷衛星と呼ばれており、条件次第では地下に液体の水が豊富な層、すなわち内部海が存在する可能性があります。特に大きいチタニアとオベロンについては、海水に不凍剤 (0℃を下回る温度でも水の凍結を防ぐ物質) の役割を果たすアンモニアが溶け込んでいれば、現在も内部海が維持されているのではないかとする予想もありました。特に、ごく最近の火山活動の痕跡と思われるデータが得られたアリエルは興味深い観測対象です。しかし近年になって、そのような海水は物質として不安定であり、少なくとも不凍剤の存在だけでは内部海を維持できないことも判明してます。
一方で、近年の惑星探査機の活躍により、これまでの予想よりもはるかに多くの天体が内部海を持つ可能性が浮かび上がってきました。活発にプルームを噴出させている土星の衛星のエンケラドゥスをはじめ、小惑星帯の準惑星ケレス、冥王星および衛星カロンがその一例です。これらはどれも近年に接近探査が行われた氷を主成分とする天体であり、天王星の5大衛星はこれらの天体とほぼ同じ大きさを持っています。
JPL (ジェット推進研究所) のJulie Castillo-Rogez氏などの研究チームは、これまでに行われた氷を主成分とする天体の探査データを元に、天王星の5大衛星における内部海の有無について検討を行いました。検討されたデータには、表面化学、地質学、力学モデル、形状データが含まれています。
天王星の接近観測データは、1986年にフライバイ探査を行ったNASA(アメリカ航空宇宙局)の惑星探査機「ボイジャー2号」で取得されたものしかなく、5大衛星については表面の約40%分のデータしかありません。観測データは限られていますが、それでも他の天体のデータと照らし合わせることで、内部構造を推定したり、特に重要な天体内部の熱の動きを詳細に検討したりすることができます。
分析の結果、5大衛星の表面付近の岩石は多孔質であり、内部の熱を保持する断熱性が高いことが判明しました。また、衛星の誕生直後の数百年間は寿命の短い放射性物質の崩壊で熱が発生し、その余熱が内部の氷を融かす主要な熱源となることも判明しました。
一方で、他の氷天体で考慮される潮汐力(他の天体との重力を介した相互作用で本体が引き伸ばされる力)は、5大衛星ではほぼ存在しないことも明らかになりました。5大衛星に潮汐力がほとんど働かないことは過去の研究でも示されていましたが、今回の研究では潮汐力が生じたのは衛星が誕生した直後の軌道が不安定だった時期のみだったことがわかりました。
潮汐力が働く天体では摩擦熱が生じ、内部を温める潮汐加熱と呼ばれる現象が起きることがあります。しかし天王星の5大衛星では、潮汐力の影響が最も大きかったミランダやアリエルにおいてさえ、内部の加熱は放射性物質の崩壊熱よりずっと小さいことが判明しました。潮汐力が強すぎると表面の岩石の多孔質性が失われてしまい、余熱を保持する断熱性能が失われてしまう負の効果も判明しました。
これらを考慮すると、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンはサイズが十分に大きいため、現在でも内部海が維持されている可能性があることが判明しました。一方、5大衛星の中で最も小さく、内部の熱が失われる速度が速いミランダの内部海は、誕生から10億年後までに凍り付いた可能性が高いと推定されます。
4つの衛星に内部海が存在する場合、アンモニアに加えて塩化物が不凍剤として機能することで、内部海平均水温は-5℃から-30℃であると推定されます。内部海の規模はチタニアとオベロンでは深さ50km以下、アリエルとウンブリエルでは深さ25km以下であると推定されます。
その他の成果として、ミランダには明確な核が存在せず、アリエルとウンブリエルには水を含んだ岩石の核、チタニアとオベロンは外側に水を含んだ岩石・内側に乾いた岩石でできた核があること、どの天体にも金属が主体の核は存在しないことも推定されています。
ただし、本当に内部海が凍結せず現在まで残っているのかは不透明です。チタニアとオベロンにおける深さ50kmという内部海の規模は最大限の見積もりであるものの、氷天体の内部海としてはかなり小さな規模です。また今回のモデル計算では、液体の水で構成された海ではなく、液体の水が隙間を満たした岩石の形で存続している可能性も指摘されています。
内部海の有無や、存在する場合どのような状態なのかは、各衛星の磁場を測定することで分かるかもしれません。一方で、海水の中にアンモニアや塩化物が多い場合、海水による磁場はほとんど発生しなくなるため、観測による証明が困難となる可能性もあります。
NASAとNSF (アメリカ国立科学財団) は、10年ごとに「惑星科学10ヵ年計画(Planetary Science Decadal Survey)」と呼ばれる計画書を出版しており、その時点での惑星科学における謎や課題、それらを解決するために推奨される探査や観測計画を取り上げています。2023年はちょうど3冊目の計画が開始される時期ですが、その中で最優先課題として取り上げられているのが天王星の周回探査計画です。計画にはもちろん5大衛星の観測も含まれているため、天王星の探査ミッションなどを通して、将来的には5大衛星の内部海の有無に関してもっと多くのことが分かるようになるかもしれません。
【訂正】一部表記を修正しました。準惑星ケレスを誤って準衛星と表記しておりました(2023年5月26日22時50分)
Source
- Julie Castillo-Rogez, et.al. “Compositions and Interior Structures of the Large Moons of Uranus and Implications for Future Spacecraft Observations”. (Journal of Geophysical Research: Planets)
- Gretchen McCartney, Karen Fox & Alana Johnson. “New Study of Uranus’ Large Moons Shows 4 May Hold Water”. (NASA)
- G.M. Marion, et.al. “Modeling ammonia–ammonium aqueous chemistries in the Solar System’s icy bodies”. (Icarus)
- Richard J. Cartwright, et.al. “Evidence for Ammonia-bearing Species on the Uranian Satellite Ariel Supports Recent Geologic Activity”. (The Astrophysical Journal Letters)
文/彩恵りり