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短期間で科学技術を発達させた人類は、地球の生態系や気候に大きな影響を与える存在となっています。この自らの経験をもとに、地球外生命探査では技術が存在する証拠として「テクノシグネチャー(technosignature)」が話題になります。宇宙から地球を観測したとき、人類はその存在を示すサインを生み出すことができる「技術的知性(technological intelligence:TI)」を持つ生物の典型といえるからです。

【▲ 地球外の工業文明とその存在を示すテクノシグネチャーのイメージ図(Credit: NASA/Jay Freidlander)】
【▲ 地球外の工業文明とその存在を示すテクノシグネチャーのイメージ図(Credit: NASA/Jay Freidlander)】

近年「人新世」という言葉が造られましたが、その背景にはこのような事実が想定されていると考えられます。

生命にとって、液体の水が存在することは欠かせない条件であり、地球の生命も海の中で誕生したと考えられています。私たちの太陽系では、木星の第2衛星エウロパや土星の第2衛星エンケラドゥスなどで、液体の水が存在する可能性が指摘されています。これらの天体では、水は表面に海として存在するのではなく、氷の地殻の下に「地下の海(内部海)」として広がっていると考えられています。

現在の研究では、天の川銀河に存在する系外惑星の多くは表面に海や陸地が存在せず、地下に海が存在する可能性が高いと推測されています。このような「海の世界」で生命が存在する可能性に期待が高まっています。

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では、生命の誕生や居住にとって海の世界が一般的だとすると、陸上で出現し技術的知性を持つまでに進化した人類は異例の存在なのでしょうか?

フロリダ工科大学の宇宙生物学者マナスヴィ・リンガム(Manasvi Lingam)氏ら3名の研究者による新しい研究では、技術的知性を持つ種が海洋と陸上どちらの生息地に存在する確率が高いかを「ベイズ統計学」を用いて分析しました。

他の要因がすべて同じであると仮定すれば、海の世界のほうがはるかに一般的だと考えられるので、そのような種は海洋に存在する可能性のほうが高いという結果が得られます。ところがリンガム氏は、この結果にはパラドックスが潜んでいるといいます。

ベイズ統計学で用いられる確率論では、事前の主観的な予想に基づいて確率を計算します。本研究は、技術的知性を持つ知的生命体が海洋では出現しにくいことを示し、パラドックスの解消を探りました。

研究チームは、視覚などの感覚器官のしくみと認知能力について、人間を含む霊長類をはじめタコなどの頭足類からイルカなどの鯨類までを比較しました。視覚は進化戦略で重要な役割を果たし、高い知的能力の獲得には欠かせません。しかし、水中での視覚の進化には様々な制約があり、結果的に水中から陸上への進化を促したと考えられます。

さらに、水中では「火」を使うことができません。火は、技術の獲得と進歩に欠かせないエネルギー源であるにとどまらず、知的生命体が技術文明を築くうえで計り知れないほど大きな役割を果たします。結局、陸のない海だけの世界は技術的知性への進化を妨げてしまうことになります。

結果は確率論に基づくものですが、この研究モデルにはメリットがあるとリンガム氏は語っています。それは、将来の望遠鏡による観測で天体に関するデータが更新されたり、実験やフィールドワークにより動物の行動や認知機能に関する理解が深まったりすることで、研究モデルの検証や改良が可能な点です。

また、リンガム氏は本研究に関連して、様々な惑星に酸素が存在する可能性や、知的生命体の進化に酸素が果たす役割についても研究を進めるということです。

本研究結果は2023年3月2日付けで発行された「The Astrophysical Journal」に掲載されています。

 

Source

文/吉田哲郎

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