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太陽以外の天体の周りを公転する「太陽系外惑星」を観測する理由は色々あります。例えば、若い年齢の惑星を観察することは、タイムマシンを用いずに太陽系の若い頃を観察する手段となりえます。

特に興味深いのは、そのような若い惑星の大気組成です。若い惑星の大気にどのような成分が存在するのかは、その後の大気組成の変化や、惑星全体の進化を推定する上で欠かせない情報です。この観測記録を使えば、例えば若い頃の木星や土星がどのような姿をしていて、現在に至るまでにどのように変化したのかを推定する手掛かりにもなります。

通常、惑星の大気組成を知るには、大気に含まれる原子や分子が発する電磁波を捉える必要があります。1つの望遠鏡で捉えられる電磁波の波長や感度には限界があるため、惑星の大気組成を詳しく知ろうとすればするほど、複数の望遠鏡が必要になってきます。複数の望遠鏡を”借りる”には費用も時間もかかるため、研究の障害となっていました。

【▲ 図1: 褐色矮星の連星から遠く離れた場所を公転するVHS 1256-1257 bの想像図。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI)) 】
【▲ 図1: 褐色矮星の連星から遠く離れた場所を公転するVHS 1256-1257 bの想像図(Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI))】

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」には、この状況を打開する可能性があります。ウェッブ宇宙望遠鏡は幅広い波長の赤外線を観測することができるため、一度に複数の大気分子を捉えられる可能性があるからです。

アリゾナ大学のBrittany E. Miles氏らの研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡による惑星大気の観測対象として、約40光年離れた位置にある巨大ガス惑星「VHS 1256-1257 b」を選びました (※) 。VHS 1256-1257 bは、褐色矮星の連星から約225億km離れた軌道を、約1万年かけて公転していると推定されています。

※…VHS 1256-1257 bの推定質量は木星の20倍未満と推定されています。褐色矮星は木星の13倍以上の質量を持つ天体とされているため、VHS 1256-1257 bは惑星ではなく褐色矮星であるとみなす記述も存在します。その場合、VHS 1256-1257星系は褐色矮星の三重連星ということになります。

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VHS 1256-1257 bが観察対象に選ばれたのは、太陽から地球までの距離の150倍、太陽から冥王星までの4倍も離れていることが理由の1つです。これほど離れていれば、褐色矮星を視界の範囲外に置き、VHS 1256-1257 bの光だけを観測機器で捉えることができます。

これまでに実施された同様の惑星観測では、恒星や褐色矮星の光をコロナグラフなどで遮断するか、差分を計算で導き出す必要がありました。このような処理を行うとデータの不確かさが大きくなってしまうので、補正なしに観測できるVHS 1256-1257 bにはとても大きなメリットがあります。

【▲ 図2: VHS 1256-1257 bのスペクトル線。ケイ酸塩の他、水、メタン、一酸化炭素の存在を示すスペクトル線が見つかった。一度に3種類の分子の存在がはっきりと示されたのは観測史上初のことである。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, J. Olmsted (STScI); Science: Brittany Miles (University of Arizona), Sasha Hinkley (University of Exeter), Beth Biller (University of Edinburgh), Andrew Skemer (University of California, Santa Cruz)) 】
【▲ 図2: VHS 1256-1257 bのスペクトル線。ケイ酸塩の他、水、メタン、一酸化炭素の存在を示すスペクトル線が見つかった。一度に3種類の分子の存在がはっきりと示されたのは観測史上初のことである。(Credit: NASA, ESA, CSA, J. Olmsted (STScI); Science: Brittany Miles (University of Arizona), Sasha Hinkley (University of Exeter), Beth Biller (University of Edinburgh), Andrew Skemer (University of California, Santa Cruz))】

観測の結果、大気中にケイ酸塩の雲、より具体的にはカンラン石と石英の粒で構成された雲が存在することが判明しました。

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高層大気にケイ酸塩の雲があるのは、VHS 1256-1257 bの特性と関連している可能性があります。まず、VHS 1256-1257 bは22時間で自転しており、これが大気循環の原動力となります。また、VHS 1256-1257 bは誕生から1億5000万年しか経っておらず、惑星形成時の余熱が十分に残っているため、最高で830℃の気温が記録されています。

ケイ酸塩が高層大気という地面から遠く離れた場所で漂うためには、大気が循環していることに加えて、ケイ酸塩を融解・蒸発させるほどの高温が必要であるため、今回のケイ酸塩の発見は過去の観測結果と合致します。

その一方で、VHS 1256-1257 bは褐色矮星から遠く離れたところを公転しているため、褐色矮星からはほとんど熱を受けません。時間が経てばVHS 1256-1257 bの温度は下がっていくため、ケイ酸塩は大気中に現れなくなると推定されます。

また、ウェッブ宇宙望遠鏡はケイ酸塩の他にいくつもの分子を検出しました。なかでも水、メタン、一酸化炭素は存在が明確に確認されており、二酸化炭素、カリウム、ナトリウムについては存在する可能性が示されました。系外惑星の大気中に存在する分子を一度の観測で3種類も確実に検出したのは今回が初めてです。加えて、観測時間が数時間と短かったことは、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測する波長域に対する感度がとても高いことを示しています。

それでも、今回の観測結果には、まだデータが不足している点もいくつか残されています。VHS 1256-1257 b自体や、これと似た性質を持つ太陽系外惑星の継続的な観測を通して、若い巨大ガス惑星の性質がさらに明らかになることが期待されます。

 

Source

  • Brittany E. Miles, et.al. “The JWST Early-release Science Program for Direct Observations of Exoplanetary Systems II: A 1 to 20 μm Spectrum of the Planetary-mass Companion VHS 1256–1257 b”. (The Astrophysical Journal Letters)
  • Laura Betz, et.al. “NASA’s Webb Spots Swirling, Gritty Clouds on Remote Planet”. (JPL/NASA)

文/彩恵りり

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