【▲ 赤色矮星「TRAPPIST-1」(左奥)を公転する太陽系外惑星「TRAPPIST-1 b」(右手前)の想像図(Credit: ILLUSTRATION: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI); SCIENCE: Thomas P. Greene (NASA Ames), Taylor Bell (BAERI), Elsa Ducrot (CEA), Pierre-Olivier Lagage (CEA))】

「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡を用いた観測で、みずがめ座の方向約40光年先の恒星「TRAPPIST-1(トラピスト1)」を公転する太陽系外惑星「TRAPPIST-1 b」の温度を測定した結果、この惑星が太陽系の水星のように大気の無い惑星であることが明らかになったとする研究成果が発表されました。

この研究はアメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターのThomas P. Greene氏を筆頭とするアメリカとフランスの研究者からなる国際研究チームによるもので、2023年3月27日に学術誌『ネイチャー』で公表されました。

この成果はウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)や、同望遠鏡の開発に加わった欧州宇宙機関(ESA)やNASAのプレスリリースでも取り上げられました(※1~3)。また、同論文のプレプリントはarXiv.org(※4)でも公開されています。

【▲ TRAPPIST-1と太陽の物性。出典:Burgasser & Mamajek, 2017(Credit: sorae/重國孝輔)】
【▲ TRAPPIST-1と太陽の物性。出典:Burgasser & Mamajek, 2017(Credit: sorae/重國孝輔)】

TRAPPIST-1は質量が太陽の8%しかない恒星で、赤色矮星の中でも特に低質量・低温な「超低温矮星」に分類されています。TRAPPIST-1は2016年から2017年にかけて地球サイズの惑星が合計7個発見されたことで一躍注目を浴びました。

その後の研究で、7つの惑星はいずれも地球型惑星(=岩石惑星)であることが明らかになっています。また、惑星には内側から順にb, c, d, e, f, g, h の名前が割り当てられています。

TRAPPIST-1系の第一惑星である「TRAPPIST-1 b」は、半径0.011天文単位(1天文単位=約1億5000万km、地球と太陽の平均距離に由来)という非常に小さな公転軌道をわずか1.5日周期で公転しています。

これほど主星に近い位置にあるにもかかわらず、この惑星が主星であるTRAPPIST-1から受ける日射量は地球の4倍でしかありません。その理由は、TRAPPIST-1の光度が太陽の1000分の1以下と非常に小さいためです。

とはいえ、地球の4倍という日射量は、この惑星の表面に海洋や生命が存在する可能性を排除するのに十分なほど大きいものです。TRAPPIST-1 bは基本的に地球とはかけ離れた高温の過酷な環境を有する惑星だと考えられています。

【▲ TRAPPIST-1の7つの惑星の質量、半径、日射量(いずれも地球比)。数値の出典:Agol et al. (2021)(Credit: sorae/重國孝輔)】
【▲ TRAPPIST-1の7つの惑星の質量、半径、日射量(いずれも地球比)。数値の出典:Agol et al. (2021)(Credit: sorae/重國孝輔)】

TRAPPIST-1 bが具体的にどのような表面環境を持つのかは、太陽系の地球型惑星からの類推にもとづいて2つのパターンが考えられます。

1. 金星のような厚い大気に覆われた惑星
2. 水星のような実質的に大気を持たない惑星

TRAPPIST-1 bがどのような惑星なのかを理解することは、外側の軌道にあるより低温の惑星を研究していく上でも重要な関心事です。

■掩蔽を利用して表面温度を測定

今回の研究は、TRAPPIST-1 bの熱放射を測定することで惑星の温度を測定し、惑星の大気の有無を検証するというアプローチで行われました。

ただし、主星の至近距離にある暗い天体であるTRAPPIST-1 bを主星から分離観測して直接熱放射を測定することは、ウェッブ宇宙望遠鏡の能力をもってしても不可能です。そこで、今回の研究では「掩蔽(えんぺい)」を観測して熱放射の量を測定するという技法が使用されています。

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掩蔽とは、小さい天体が大きい天体の奥に隠れることで、観測者から一時的に見えなくなる現象のことです。連星系や惑星系で起きる掩蔽は「二次食(secondary eclipse)」とも呼ばれます。

【▲ 系外惑星の公転軌道の模式図。恒星の手前を横切るトランジット(Transit)や恒星の裏側に回り込む二次食(Secondary Eclipse)の際に分光観測を行うことで大気を調べることができる(Credit: MPIA graphics department)】
【▲ 系外惑星の公転軌道の模式図。恒星の手前を横切るトランジット(Transit)や恒星の裏側に回り込む二次食(Secondary Eclipse)の際に分光観測を行うことで大気を調べることができる(Credit: MPIA graphics department)】

ある惑星系で惑星の掩蔽が起きると、惑星から反射・放射された光が観測者に届かなくなるため、観測される惑星系全体の光度(主星+惑星)から惑星の寄与分が消失します。この時の減光を測定することで、恒星に対する惑星の相対的な光度を知ることができます。この技法であれば主星と惑星を分離観測する必要はなく、単純に精密な光度測定を行うだけで惑星の光度がわかります。

今回の観測ではウェッブ宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」と波長15μm付近の赤外線を透過するF1500Wフィルターを組み合わせて観測が行われました。惑星の光度は反射光と熱放射を足し合わせたものですが、この波長域では惑星の光度のほとんどが熱放射によって占められるため、放射の強度は惑星の温度に対応します。

観測の結果、TRAPPIST-1 bの掩蔽が起きている間、TRAPPIST-1系の光度は680ppm=0.068%(1470分の1)ほど低下することが明らかになりました。研究チームがこの結果からTRAPPIST-1 bの温度を計算したところ、508±27ケルビン(235±27℃)という結果が得られました。

■測定結果をもとに「TRAPPIST-1 bは大気を持たない」と推定

TRAPPIST-1を公転する7つの惑星は、どれも主星に常に同じ面を向けた「潮汐固定」の状態になっていると考えられています。これは月が地球に常に同じ面を向けているのと同様の現象で、潮汐力によって自転と公転の周期が同期することで生じます。

惑星が掩蔽に入る時、その惑星は観測者から見て恒星の奥に位置しています。潮汐固定を考慮すれば、惑星は常に昼の半球をこちらに向けた配置で掩蔽を迎えることになります。このため、掩蔽で測定される熱放射は昼の半球のものになりますし、測定結果から導出される放射温度もまた惑星全体ではなく昼の半球のみを代表する値になります。

TRAPPIST-1 bの昼の半球は常に主星に照らされているため、昼夜の半球間では温度差が非常に大きくなります。惑星の固体表面での熱伝導によって夜の半球に移動する熱も全く存在しないわけではありませんが、その流量はごくわずかです。

ここで、「TRAPPIST-1 bに大気が存在する」と仮定してみます。大気の循環によって昼の半球から夜の半球に向けて効率的に熱が再分配されると、昼夜の半球の温度差は小さくなるので、夜の半球の温度は上がり、昼の半球の温度は下がります。

研究チームは熱の再分配について以下の2つの端的な仮定に基づいたモデルを使い、TRAPPIST-1 bにおける昼の半球の放射温度を推計しました。

1. 熱の再分配が全く起きない場合
2. 熱の再分配が理想的に起きる場合(昼夜の半球で温度差が一切発生しない状況)

その結果、昼の半球の放射温度は仮定1の場合が508ケルビン(235℃)、仮定2の場合が390~400ケルビン(120~130℃)と予測されました。

これに対して、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測から得られた測定値は前述のように503±27ケルビンであり、仮定1のモデルに非常によく一致しています。そのため、TRAPPIST-1 bの表面には熱の再分配を促すような大気がほとんどない、あるいは全く存在していないという結論が導き出されました。

また、研究チームはこの2つのモデルだけでなく、より現実的な大気モデルも幾つか検討しましたが、「熱の再分配がゼロ」のモデルよりも良好なものは見つかりませんでした。特に、TRAPPIST-1 bが金星のような厚い二酸化炭素の大気を持っているというモデルでは放射温度が290ケルビンという観測値から大きくかけ離れた温度になり、TRAPPIST-1 bが金星類似の表面環境を有している可能性は強く否定されました。

金星では厚い大気がもたらす温室効果により、約460℃という高い表面温度を持つことが知られています。金星に似た大気を持っていれば放射温度も高くなりそうに見えますが、現実には放射温度はむしろ低下します。

惑星が赤外線に対して不透明な厚い大気を持っている場合、赤外線が惑星の外に逃げ出しにくくなるため、温室効果によって惑星の表面温度は上昇します。その一方で、外部から赤外線で観測される放射温度は、惑星の表面ではなく上空の大気の温度を反映したものとなります。なぜかといえば、温室効果をもたらす大気は赤外線に対して不透明だからです。大気は上層に行くほど温度が低下するので、赤外線に対して不透明な大気を持つ惑星では、放射温度はかえって低下するのです。

■惑星表面の環境は惑星の質量と日射量に左右される

TRAPPIST-1 bに大気が存在しないということは、TRAPPIST-1系の研究という文脈の中でどのような意味を持つのでしょうか。

TRAPPIST-1 bと同様に大気を持たない太陽系の惑星としては、太陽に最も近い水星が挙げられます。地球を上回る質量(地球の1.37倍)を持つTRAPPIST-1 bは、地球の0.05倍しか質量が無い水星と比べてずっと大質量の惑星です。質量の大きい惑星は質量の小さい惑星と比べて、次の点で大気の維持に有利です。

1. 重力が強いので大気が散逸しにくい。
2. 大気を供給する地質活動が惑星表面で長時間持続しやすい。
3. 固有磁場が生じる可能性が高まる(磁場の存在は荷電粒子の衝突による大気の散逸を抑制する)。

また、前述のようにTRAPPIST-1 bの日射量は地球の4倍ですが、地球の7倍に達する水星と比べれば少なめです。質量や日射量で水星よりも有利な条件が整っているにもかかわらず、TRAPPIST-1 bが大気を維持できなかったということは、TRAPPIST-1系の環境は惑星が大気を維持する上で厳しい可能性が示唆されます。

TRAPPIST-1系では以前から、次のような理由で惑星大気の散逸が起きやすいことが予想されていました。

1. 低質量の恒星では恒星誕生直後の高光度状態(前主系列収縮)が長期間続き、惑星は10億年以上にわたって高い日射量に晒され続ける。
2. 低質量の恒星では前主系列収縮が終了した後も恒星フレアなどの高エネルギー現象が頻発する。
3. TRAPPIST-1固有の事情として年齢が76±22億年と比較的古く、その間に惑星の地質活動が停止してしまうかもしれない。

太陽系の4つの地球型惑星という限られた事例に基づく楽観的な予想では、質量が地球の約0.3倍以上の岩石惑星であれば無条件で大気を維持可能であり、あとは日射量の条件さえ揃えば地球のような表面環境を持つ惑星になるというものもあります。しかし今回の研究は、そのような極端に楽観的な想定は成り立たないことを示しています。

ただ、最も楽観的な想定が否定されたとしても、どれほど悲観的にならなければならないかは、TRAPPIST-1 bという単一の事例だけでは分かりません。今後はTRAPPIST-1 bの外側にある6つの惑星に大気が存在するのか、存在するとしてもどれほどの量なのかが焦点になっていくでしょう。

ウェッブ宇宙望遠鏡によるさらなるTRAPPIST-1系の観測は既に進行中です。今回とは異なる波長帯のフィルターを使い、同じ技法でTRAPPIST-1 bを観測するというもので(JWST GTO1279(※5))、2つの波長帯の光度を併せて分析することで、今回の「TRAPPIST-1 bに大気は存在しない」という結論をより確実なものとすることが期待されています。

また、研究チームはウェッブ宇宙望遠鏡による別の観測プログラム(JWST GO2304(※6))も紹介しています。このプログラムはTRAPPIST-1 bよりも一つ外側の軌道を公転する「TRAPPIST-1 c」の掩蔽を今回と同様の設定(MIRI+F1500Wフィルター)で観測するというものです。このプログラムは2022年10月から11月にかけて既に実施済みであり、遠くないうちに成果が公表されるのではないかと考えられます。

TRAPPIST-1 cの質量も地球の1.3倍と大きく、TRAPPIST-1 bよりも日射量が少ないことから、大気を維持する上で有利な条件にあります。仮に、TRAPPIST-1 cにも全く大気が存在しないとなると、TRAPPIST-1系の惑星は大気の維持という点ではかなり過酷な環境に置かれているということになります。

TRAPPIST-1 cの外側にある3つの惑星「TRAPPIST-1 d」「同e」「同f」は日射量が地球に近く、生命の居住可能性があるハビタブル惑星として最も高い関心を集めています。これらの惑星はTRAPPIST-1 bやTRAPPIST-1 cよりも日射量が少ないという点では大気の維持に有利ですが、質量が比較的小さいという点では不利です。TRAPPIST-1 d/e/fに大気が残存しているかどうかは、「惑星の質量」と「日射量」という2つの相反する要素の綱引きによって決まるでしょう。

 

脚注

※1…https://webbtelescope.org/contents/news-releases/2023/news-2023-110 (STScI)
※2…https://esawebb.org/news/weic2309/ (ESA)
※3…https://www.nasa.gov/feature/goddard/2023/nasa-s-webb-measures-the-temperature-of-a-rocky-exoplanet (NASA)
※4…https://arxiv.org/abs/2303.14849 (arXiv.org)
※5…https://www.stsci.edu/jwst/science-execution/program-information.html?id=1279 (JWST Program Information)
※6…https://www.stsci.edu/jwst/science-execution/program-information.html?id=2304 (JWST Program Information)

 

Source

  • Image Credit: ILLUSTRATION: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI); SCIENCE: Thomas P. Greene (NASA Ames), Taylor Bell (BAERI), Elsa Ducrot (CEA), Pierre-Olivier Lagage (CEA), sorae/重國孝輔
  • Agol et al. (2021) – Refining the Transit-timing and Photometric Analysis of TRAPPIST-1: Masses, Radii, Densities, Dynamics, and Ephemerides (The Planetary Science Journal)
  • Burgasser & Mamajek (2017) – On the Age of the TRAPPIST-1 System (The Astrophysical Journal)
  • Greene et al. (2023) – Thermal emission from the Earth-sized exoplanet TRAPPIST-1 b using JWST (arXiv)

文/重國孝輔

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