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宇宙にある恒星は、軽いものほど数が多い傾向にあります。特に、最も軽く、最も暗い恒星である「M型星(赤色矮星)」は、天の川銀河の4分の3を占めていると言われています。

恒星の数が多ければ、それを周回する惑星の数も必然的に多くなります。従って、宇宙全体に生命がどの程度存在するのかを考察する上で、M型星を周回する惑星が生命に適した環境を有しているかどうかは重要な鍵となります。

【▲ 図1: M型恒星を公転する惑星の想像図。同期回転により昼夜が固定されているため、液体の水が存在する穏やかな環境は明暗境界線周辺に限られていると考えられている。 (Image Credit: Ana Lobo / UCI) 】
【▲ 図1: M型恒星を公転する惑星の想像図。同期回転により昼夜が固定されているため、液体の水が存在する穏やかな環境は明暗境界線周辺に限られていると考えられている(Credit: Ana Lobo / UCI)】

しかし、M型星は表面温度が低く、電磁波の放射が弱い傾向にあるため、惑星の表面に液体の水が安定して存在し得るハビタブルゾーンは恒星にかなり近い領域になる傾向があります。恒星と惑星の距離が近ければ近いほど、潮汐力によって惑星の自転周期が公転周期と同期する「同期回転」 (潮汐固定、潮汐ロックとも) が起きやすくなります。そのため、M型星のハビタブルゾーンを周回する惑星は地球から見た月のように、常に同じ面を恒星に向け続けている可能性が高いと考えられます。

ハビタブルゾーンにあるといっても、同期回転する惑星では昼夜が永久に固定されているため、その環境は極端化すると考えられます。恒星に向いた面は永久に加熱され続けるため、水は蒸発して表面は乾燥するでしょう。逆に、恒星と反対側を向いた面は永久に冷えたままであり、水は凍り付いてしまうと考えられます。

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これを惑星全体でみると、昼の面では水が蒸発して大気も加熱されるため、昼の面から逃げていく風の流れが生じます。そして、水蒸気を含む大気が夜の面に到達すると雪が降り積もり、分厚い氷床が形成されます。夜の面では氷床が融けるような温度変化が存在しないため、惑星表面の水は夜の面に凍りついたまま固定されるという、極端な分布を示すでしょう。

このような厳しい環境でも、かつては生命が存在可能な環境が存在すると考えられてきました。昼夜が固定されている環境でも、地球における朝や夕方の領域に相当する「明暗境界線(Terminator zone)」には、液体の水が存続可能な環境を持つ地帯が存在することになります。このような場所ならば生命をはぐくめるかもしれませんが、恒星の明るさは数億年かけてゆっくりと増大する傾向にあるため、明暗境界線の環境は長期的には不安定であるという異論もありました。

恒星の明るさが増大すると、惑星では水の蒸発が増えて温室効果が暴走する可能性があります。また、別のシナリオとして、大気からの水分子の流出や夜の側での凍結量の増大によって、惑星全体が乾燥しすぎた環境になるかもしれないという推定もあります。これらの理由から、果たして明暗境界線では生命が存続可能なのか、ひいてはM型星を周回する惑星で生命が存続可能なのかという疑問が長年存在していました。

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カリフォルニア大学アーバイン校のAna H. Lobo氏などの研究チームは、同期回転する様々な環境の惑星をシミュレートして、明暗境界線の環境が長期的に安定かどうかを調べました。各惑星の環境を左右する主な要素としてシミュレーションで設定されたのは、表面に占める水や氷の割合、恒星からの距離 (すなわち放射量) 、大気圧です。

その結果、興味深いことが判明しました。地球は表面の約7割が水に覆われていますが、同じように水が豊富でも同期回転する惑星の場合、大量の水蒸気による温室効果が発生し、分厚い水蒸気の雲が惑星全体を覆う可能性が高いことがわかりました。その後の正確な運命はシミュレーションの範囲外ですが、温暖化の暴走によって生命の存続は不可能だと考えられています。

【▲ 図2: 様々な条件を設定したいくつかの惑星のシミュレーション結果。緑色の帯に載っている点が、生命の存続条件を満たした0℃から50℃の環境を示している。 (Image Credit: Ana H. Lobo, et.al.) 】
【▲ 図2: 様々な条件を設定したいくつかの惑星のシミュレーション結果。緑色の帯に載っている点が、生命の存続条件を満たした0℃から50℃の環境を示している(Credit: Ana H. Lobo, et.al.)】

一方で、表面に存在する水が少ない初期状態でスタートすると温暖化の暴走は発生せず、恒星から受ける放射がかなり多い惑星だったとしても、明暗境界線の温度は生命の存続に適した0℃から50℃に保たれることがわかりました。

懸念があるとすれば夜の側に移動して凍った水の運命ですが、今回の研究では一度凍り付いた水が再び循環し始める可能性も示されました。夜の側に運ばれる水が増えて氷床が分厚くなると、氷は自身の重さで氷河として流れ出します。氷河の末端部が明暗境界線に届けば、氷河から融け出た水が川や地下水となって再び流れ始めるでしょう。

この流れが起こるためには、ある程度の規模の氷床が発達する環境と、氷床が発達するまでに惑星全体が干上がらない程度の水の量が必要です。また、氷床が氷河として移動する正確なメカニズムも考慮されなければなりませんが、今回のシミュレーションでは考慮されていません。氷河の移動速度も地球でのわずかな例しか分析されていないため、今後の課題となりそうです。

今回の研究では、M型星に存在する惑星では地球よりも陸域の多い惑星の方が生命の存続に適していることが示されました。その一方で、今回の研究ではシミュレーションしきれなかった点もいくつか残されており、これらを考慮した新しい研究が必要になるでしょう。

 

Source

  • Ana H. Lobo, et.al. “Terminator Habitability: The Case for Limited Water Availability on M-dwarf Planets”. (The Astrophysical Journal)
  • Lucas Van Wyk Joel. “‘Terminator zones’ on distant planets could harbor life, UC Irvine astronomers say”. (University of California, Irvine)

文/彩恵りり

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