太陽系外惑星「うさぎ座AF星b」を発見 位置天文学で発見された最も軽い惑星
【▲ 図1: 超大型望遠鏡 (VLT) によって撮影されたうさぎ座AF星b (左側にある明るい点) 。2枚あるのは別々の期間に撮影されたことを示す。中心部の★マークは恒星の位置を示しており、黒い円は恒星の光を遮断するステラーコロナグラフで隠された部分。 (Image Credit: ESO/Mesa, De Rosa et al.) 】

地球の周りを月が回る、太陽の周りを地球が回る、といったように、天体の公転運動は「ある天体の周りを別の天体が回っている」と説明されます。しかし、これは厳密には異なっており、実際の公転運動は「共通の重心を中心に互いに回る運動」です。大半のケースでは主星に対して伴星の質量が極端に小さく、重心は主星の内部に位置しており、主星そのものはほとんど動かないことから最初のように説明されるのです。

とはいえ、裏を返せば主星もわずかながらに動いており、主星の位置を厳密に測る方法があればこの動きを測定できます。主星の動きがわかればケプラーの法則に基づいて、主星とともに重心を回る見えない伴星の質量や公転周期を知ることも可能です。暗すぎて直接観測できない伴星の存在や軌道パラメーターを、主星の動きを介して間接的に知るこのような方法は「位置天文学法」と呼ばれ、位置天文学を利用する天文学の分野は「位置天文学」と呼ばれています。

太陽から遠く離れた恒星に対して位置天文学を利用するには、恒星の位置を厳密に測定する必要があります。公転による地球の位置の変化や、大気による恒星の像の揺らぎは、位置天文学を阻害する主要なノイズとなりますが、これらは宇宙空間に望遠鏡を置くことで解消したり、光学機器の技術的な改良でノイズを減らしたりすることができます。そのため、位置天文学は年々その精度が改善され続けています。

今回の研究では、パドヴァ天文台のD. Mesa氏らの研究チームと、テキサス大学オースティン校のKyle Franson氏らの研究チームが、どちらも同じ恒星「うさぎ座AF星」について、それぞれ独立して分析を行いました。うさぎ座AF星は、地球から見てうさぎ座の方向に約88光年離れた位置にある、太陽より少しだけ大きな恒星です。

うさぎ座AF星は、ESA (欧州宇宙機関) の「ヒッパルコス」と「ガイア」によって観測された恒星の1つです。ヒッパルコスとガイアは宇宙から恒星の位置を厳密に測定することを目的とした観測衛星であり、うさぎ座AF星は周期的に位置が変化していることが2つの衛星のデータからわかりました。これは、今までに見つかっていない伴星の存在を示唆します。

そこで、Mesa氏らの研究チームはパラナル天文台の超大型望遠鏡 (VLT) に搭載された観測装置「SPHERE」を、Franson氏らの研究チームはW.M.ケック天文台のケックII望遠鏡に搭載された観測装置「NIRC2」を使用して、うさぎ座AF星の伴星の直接観測を試みました。それぞれの観測装置は単に高感度であるだけでなく、中央に光を遮断するマスク(ステラーコロナグラフ)があります。このマスクを使って明るすぎる恒星の光を遮断することで、暗い伴星の光を捉えることが可能になります。

【▲ 図1: 超大型望遠鏡 (VLT) によって撮影されたうさぎ座AF星b (左側にある明るい点) 。2枚あるのは別々の期間に撮影されたことを示す。中心部の★マークは恒星の位置を示しており、黒い円は恒星の光を遮断するステラーコロナグラフで隠された部分。 (Image Credit: ESO/Mesa, De Rosa et al.) 】
【▲ 図1: 超大型望遠鏡 (VLT) によって撮影されたうさぎ座AF星b (左側にある明るい点) 。2枚あるのは別々の期間に撮影されたことを示す。中心部の★マークは恒星の位置を示しており、黒い円は恒星の光を遮断するステラーコロナグラフで隠された部分(Credit: ESO/Mesa, De Rosa et al.)】
【▲ 図2: ケック望遠鏡で撮影されたうさぎ座AF星b (左側にある明るい点) 。2枚あるのは別々の期間に撮影されたことを示す。中心部の×印は、ステラーコロナグラフによって隠された恒星の位置を示している。 (Image Credit: Franson, et.al.) 】
【▲ 図2: ケック望遠鏡で撮影されたうさぎ座AF星b (左側にある明るい点) 。2枚あるのは別々の期間に撮影されたことを示す。中心部の×印は、ステラーコロナグラフによって隠された恒星の位置を示している(Credit: Franson, et.al.)】

観測の結果、それぞれの研究チームは伴星「うさぎ座AF星b」を直接観測することに成功しました。観測装置や分析方法が異なるために伴星のパラメーターには若干の違いがありますが、質量は概ね木星の2倍から5倍の範囲内だと推定されています。これは中心で核融合を起こすのに必要な下限の質量 (木星の約13倍) をはるかに下回るため、うさぎ座AF星bは直接観測された太陽系外惑星ということになります。また、うさぎ座AF星bの推定質量は、位置天文学を利用して発見された惑星としては最も小さな記録です。

【▲ 図3: うさぎ座AF星bに関するパラメーター。分析方法の違いにより、2つの研究チームの間で値の差がある。 (Image Credit: 彩恵りり) 】
【▲ 図3: うさぎ座AF星bに関するパラメーター。分析方法の違いにより、2つの研究チームの間で値の差がある(Credit: 彩恵りり)】

うさぎ座AF星bに関するその他の情報、例えば公転軌道などについても、2つの研究では異なる推定値が導き出されています。推定される公転周期が約20年と長いために長期間の観測が必要とされますが、それでもこのギャップは将来的に埋められていくでしょう。

それに、うさぎ座AF星は誕生から2400万年と極めて若いことも特徴的です。うさぎ座AF星が太陽とほとんど同じ大きさの恒星であることから、うさぎ座AF星の詳細な観測は初期の太陽系を推定するのに役立つデータを提供してくれることでしょう。

 

Source

  • D. Mesa, et.al. “AF Lep b: the lowest mass planet detected coupling astrometric and direct imaging data”. (arXiv)
  • Kyle Franson, et.al. “Astrometric Accelerations as Dynamical Beacons: A Giant Planet Imaged Inside the Debris Disk of the Young Star AF Lep”. (arXiv)
  • ESO/Mesa, De Rosa et al. “Spotting a hidden exoplanet”. (European Space Agency)

文/彩恵りり