こちらに写っているのは「くじら座」の一角。画像の幅は満月の視直径の約9分の1に相当します(視野は3.39×2.77分角)。
画像の中央には「SPT-CL J0019-2026」と呼ばれる銀河団が、背景で輝く無数の渦巻銀河や楕円銀河に取り囲まれるようにして写っています。銀河団とは、数百~数千の銀河からなる巨大な天体のこと。それ自身が何百億~何千億もの星々の集まりである銀河が何百、何千と集まっているのですから、銀河団は途方もない質量を持つことになります。ちなみに欧州宇宙機関(ESA)によると、地球からSPT-CL J0019-2026までの距離は約46億光年。今を生きる私たちに届いた光がこの銀河団を発したのは、ちょうど太陽系が形成された頃ということになります。
SPT-CL J0019-2026の周辺をよく見ると、アーチ状の天体も幾つか写っていることがわかります。これらの天体は、銀河団による「重力レンズ」効果を受けた天体の像です。重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象です。
この画像の場合、地球から見てSPT-CL J0019-2026の向こう側にある銀河などを発した光の進む向きが変化し、地球からは細長く引き伸ばされたアーチ状の像として見えています。望遠鏡単独では観測できないほど遠くにある古い時代の天体でも、「天然のレンズ」である重力レンズと組み合わせることで、その性質や環境を探るための手がかりを得ることができるのです。
冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」で取得したデータ(可視光線と近赤外線のフィルターを使用)をもとに作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚としてESAから2023年2月20日付で公開されています。
〈記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています〉
Source
- Image Credit: ESA/Hubble & NASA, H. Ebeling
- ESA/Hubble - Cosmic Contortions
文/sorae編集部