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【▲ 図1: 小惑星カリクローの表面から見た2本の環の想像図。カリクローは太陽系の惑星以外で初めて環が発見された天体である。 (Image Credit: NASA/JPL)】
【▲ 図1: 小惑星カリクローの表面から見た2本の環の想像図。カリクローは太陽系の惑星以外で初めて環が発見された天体である(Credit: NASA/JPL)】

土星に代表されるように、太陽系の天体の幾つかは環を持っています。当初、環は4つの巨大惑星、つまり木星・土星・天王星・海王星でのみ知られていたため、天体が環を持つにはある程度の大きさが必要であると考えられてきました。

ところが、2014年に10199番小惑星「カリクロー」に環が見つかったことで、この考えは覆されました。カリクローはケンタウルス族で最大となる直径約225kmの小惑星ですが、惑星と比べれば極めて小さな天体です。

予想外だったカリクローの環の存在は、小惑星が恒星の手前を横切る「星食」の観測によって判明しました。小惑星が恒星の手前を横切ると、地球からは恒星が小惑星に隠されることで一時的に消えたように見えます。これが星食と呼ばれる現象です。通常、恒星の手前を横切るのは小惑星本体のみなので、恒星の光が消えるのは1回だけです。しかしカリクローの場合は、本体が横切る前後のタイミングでも恒星の光が消える現象が観測されました。これは、カリクローの周囲に環が存在することを意味します。

太陽系で惑星以外に環を持つことが判明した天体は、カリクローが初めてです。この発見を皮切りに、小惑星「キロン」と準惑星「ハウメア」、つい先日には準惑星候補の小惑星「クワオアー」にも環が存在することが判明しました。

関連:50000番小惑星「クワオアー」に「環」を発見! 環をロシュ限界の外側で初めて発見(2023年2月15日)

また、カリクローとキロンでは、環が恒星の手前を横切るときに恒星の光が短い時間を挟んで2回消えることもわかりました。これはカリクローとキロンに2本の環があることを示しています。複数の環を持つことは惑星以外ではカリクローとキロンにしかない性質で、カリクローではキロンよりもはっきりとしたシグナルが検出されています。

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星食はめったに起きるものではありませんし、環は小惑星本体と比べて暗すぎるので、現在の技術では直接観測することができません。そのため、環が発見されている天体による星食は、環の性質を観測する上で必須であり、同時にとても興味深い現象です。

2021年末に打ち上げられて2022年7月から稼働した「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡は、主に深宇宙を含む太陽系外の観測に特化していますが、太陽系内の天体を観察する能力も持っています。

幸運なことに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が稼働した後の2022年10月18日に、カリクローによる恒星「Gaia DR3 6873519665992128512」の星食が起きると予測されました。厳密には、カリクロー本体は恒星からわずかにずれた位置を横切るものの、カリクローの環による星食が起こるはずです。ウェッブ宇宙望遠鏡の性能を以てしても環そのものを直接観測することはできませんが、星食を観測することで環の性質を間接的に知ることができます。

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【▲ 図2: 画像中央にあるのが観測対象の恒星Gaia DR3 6873519665992128512、左上から右下方向に動いているのが小惑星カリクロー。カリクローの本体は恒星と重ならないものの、近づいたタイミングで恒星の明るさが減少していることが分かる。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Nicolás Morales (IAA/CSIC)) 】
【▲ 図2: 画像中央にあるのが観測対象の恒星Gaia DR3 6873519665992128512、左上から右下方向に動いているのが小惑星カリクロー。カリクローの本体は恒星と重ならないものの、近づいたタイミングで恒星の明るさが減少していることが分かる(Credit: NASA, ESA, CSA, Nicolás Morales (IAA/CSIC)) 】
【▲ 図3: カリクロー通過時の想像図と、観測された光度曲線。事前の予測と一致するタイミングで、恒星の光が減少していることがわかる。今回の観測では、2本あると推定される環を分解できるほどの精度は得られなかった。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI). Science: Pablo Santos-Sanz (IAA/CSIC), Nicolás Morales (IAA/CSIC), Bruno Morgado (UFRJ, ON/MCTI, LIneA)) 】
【▲ 図3: カリクロー通過時の想像図と、観測された光度曲線。事前の予測と一致するタイミングで、恒星の光が減少していることがわかる。今回の観測では、2本あると推定される環を分解できるほどの精度は得られなかった(Credit: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI). Science: Pablo Santos-Sanz (IAA/CSIC), Nicolás Morales (IAA/CSIC), Bruno Morgado (UFRJ, ON/MCTI, LIneA))】

観測の結果、実際に恒星の減光が検出されました。その長さとタイミングは事前の予測と一致しており、カリクローの環による星食であると確認されています。観測精度の問題により、環の隙間を観測することは叶わなかったものの、ウェッブ宇宙望遠鏡がこのような観測にも対応できることが示されました。今後、光がどのように増減したのかを詳細に調べることで、カリクローの環の幅や厚さ、環を構成する粒子の大きさなど、様々な点が明らかになるでしょう。

【▲ 図4: カリクローの反射光から得られたスペクトル線には、結晶質の水の氷の存在を示すシグナルが含まれている。今回観測された反射光の約5分の1は環によるものと推定されている。 (Image Credit: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI). Science: Noemí Pinilla-Alonso (FSI/UCF), Ian Wong (STScI), Javier Licandro (IAC)) 】
【▲ 図4: カリクローの反射光から得られたスペクトル線には、結晶質の水の氷の存在を示すシグナルが含まれている。今回観測された反射光の約5分の1は環によるものと推定されている(Credit: NASA, ESA, CSA, Leah Hustak (STScI). Science: Noemí Pinilla-Alonso (FSI/UCF), Ian Wong (STScI), Javier Licandro (IAC))】

この観測に続いて、カリクローの本体と環によって反射された太陽光の観測も行われています。これまでの観測で、カリクローの本体と環のそれぞれに結晶質の水の氷が存在するとみられているものの、はっきりとしたことはわかっていませんでした。一方、ウェッブ宇宙望遠鏡には観測対象となる赤外線の波長から、水の存在の分析に特化しているという特徴があります。今回の観測では狙い通り、カリクローにおける結晶質の水の氷の存在を、これまでよりもはっきりと示すことに成功しました。ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた反射光のほとんどはカリクローの本体からだと推定されていますが、約5分の1はカリクローの環による反射光だと考えられています。

今回の観測でウェッブ宇宙望遠鏡がカリクローの観測にも使えることが明らかとなったため、今後も複数回の観測ができると期待されます。観測時期を変えれば環の見た目の面積が変化して、反射光全体に対する環の反射光の割合も変化すると考えられます。反射光の強度やスペクトルの変化をもとに、環の物理的性質の詳細が明らかになるでしょう。

また、今回の観測で得られたノウハウを応用することで、太陽系の外側にある暗い天体の詳細な観測もできるようになるでしょう。

 

Source

  • Thaddeus Cesari. “Webb Spies Chariklo Ring System With High-Precision Technique”. (NASA Blogs)
  • Pablo Santos-Sanz. “GTO 1271”. (Space Telescope Science Institute)
  • Dean Hines. “GTO 1272”. (Space Telescope Science Institute)

文/彩恵りり

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