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私たちが暮らす地球がある天の川銀河をはじめ、宇宙には無数の銀河がひしめいています。その分布はランダムではなく、ある程度偏っていて、多くの銀河は壁のように平面的に分布しています。

銀河の分布が形作るこの壁状の構造は「銀河フィラメント」 (グレートウォール、超銀河団複合体とも) と呼ばれていて、天体がほとんど存在しない「超空洞 (ボイド)」と呼ばれる空洞を取り囲むようにできています。この構造は宇宙のあらゆる方向で繰り返されていて、まるで多数の泡がくっつきあっているように見えることから、泡構造とも呼ばれています。このように大規模な構造の中で、天の川銀河およびその周辺の銀河が平面的に分布する局所的な領域は「ローカルシート」と呼ばれています。

さて、銀河フィラメントと銀河の関係を調べてみると、銀河フィラメントの規模に対する銀河の大きさは、かなり小さいことが知られています。ところが、天の川銀河の大きさはローカルシートに対してかなり大きいことが知られています。天の川銀河そのものは平凡な銀河であり、特に巨大な銀河というわけではないにも関わらずです。これが特別なことなのかどうかは、よくわかっていませんでした。

【▲ 図1: 宇宙における銀河の分布は、空洞を囲むような平面に分布しています。私たちの天の川銀河もそのような平面であるローカルシートに分布していますが、天の川銀河の大きさはローカルシートに対して大きいという謎がありました。 (Image Credit: Miguel A. Aragon-Calvo / Simulation Data: Illustris TNG project) 】
【▲ 図1: 宇宙における銀河の分布は、空洞を囲むような平面に分布しています。私たちの天の川銀河もそのような平面であるローカルシートに分布していますが、天の川銀河の大きさはローカルシートに対して大きいという謎がありました。 (Image Credit: Miguel A. Aragon-Calvo / Simulation Data: Illustris TNG project) 】

このような疑問を観測によって証明するのは困難であるため、代わりの手段としてコンピュータシミュレーションが利用されます。シミュレーションには膨大な計算リソースが必要なことから、近年ではいくつもの国際研究チームが存在します。そのようなプロジェクトの1つが「IllustrisTNG Project」です。

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同プロジェクトによる今回の研究では、いくつかの基本的な宇宙のパラメーターを物理量として、数万個の銀河を含む一辺10億光年の宇宙をコンピュータ上に作成しました。時間の経過とともに銀河および銀河フィラメントの生成が起こる宇宙をいくつも作成することで、ローカルシートに対する天の川銀河のような、構造に対して比率的に大きい銀河がどの程度の確率で存在するのかを算出することができます。

【▲ 図2: 銀河の大きさ (質量) と、体積に対してどの程度の数が存在するのかのシミュレーション結果。天の川銀河は濃い灰色の領域に位置し、その数は約100万分の1程度である。 (Image Credit: Aragon-Calvo, et.al.) 】
【▲ 図2: 銀河の大きさ (質量) と、体積に対してどの程度の数が存在するのかのシミュレーション結果。天の川銀河は濃い灰色の領域に位置し、その数は約100万分の1程度である。 (Image Credit: Aragon-Calvo, et.al.) 】

その結果、約100万個に1個の銀河フィラメントにおいて、天の川銀河のように比率的に大きい銀河が存在する可能性が示されました。これは相当に稀な確率であり、5億光年ほどの範囲を見渡さなければ、天の川銀河のように構造に対して比率的に大きな銀河を見つけることはできないと言い換えることもできます。

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ある天体を「特別である」と表現するのは、一般的に注意が必要です。かつて考えられていたこととは違い、地球は宇宙の中心ではありません。太陽は私たちにとって特別な存在ですが、宇宙ではどこにでもある平凡な恒星です。天の川銀河にも、多くの点で特別な点はありません。ある時点で何らかの性質が特別であると考えられたとしても、観測技術の向上によって、後に平凡な値だったと判明することも珍しくありません。しかし今回の場合は、シミュレーションのパラメーターが妥当であるという前提が否定されるか、観測事実が大幅に変更されでもしない限り、天の川銀河の特別な性質として表現されることになります。

ローカルシートは、いくつもの謎を抱えています。例えば、ローカルシートにある12個の銀河の銀河面が、ローカルシートの平面とほぼ同じ向きに揃っているという事例もあります。これは天の川銀河の大きさほど稀な出来事ではないものの、そこまで多く観測される性質でもありません。今回はこのことについてもシミュレーションを行った結果、比率的な大きさほど稀ではないものの、比較的珍しい性質であることが明らかになりました。このことは、銀河フィラメントの形成時に銀河面の方向がある程度揃うとした別の研究結果とも矛盾しません。ただし、今回のシミュレーションの大きさは十分ではなく、この結果が正しいかどうかを語るには不十分であることから、今回の論文では決定的な結論を出さず、今後も研究が必要だという形で締めくくられています。

 

Source

文/彩恵りり

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