今年も宇宙開発や天文学に関する注目のニュースが相次ぎました。2022年にsoraeがお伝えしたニュースのなかから注目すべきニュースを3つの話題でピックアップしてご紹介。今回は後半の「天文ニュース編」です!

※本記事は2021年12月26日時点での情報をもとにしています

>> 2022年に注目された「宇宙天文ニュース」~前半:宇宙開発ニュース編~

■「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡が撮影した天体の数々

今年は期待の新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」による科学観測がついに始まりました。六角形の鏡を18枚組み合わせた直径6.5mの主鏡を備えたウェッブ宇宙望遠鏡は、初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河の観測、太陽系外惑星の大気観測などを通して宇宙の謎に迫ることが世界中の研究者から期待されてきた、アメリカ航空宇宙局(NASA)・欧州宇宙機関(ESA)・カナダ宇宙庁(CSA)の赤外線宇宙望遠鏡です。

2022年7月の科学観測開始からまだ半年ほどですが、ウェッブ宇宙望遠鏡が取得した画像と観測データをもとにした研究成果は続々と発表されています。ここではその一部をご紹介します。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した銀河団「SMACS 0723-73」(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した銀河団「SMACS 0723-73」(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)】

ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で得られた高解像度画像は、2022年7月12日(日本時間・以下同様)に初めて公開されました。この画像はそのうちの1つで、南天の「とびうお座」の方向約42億4000万光年先にある銀河団「SMACS 0723-73」です。

研究者がウェッブ宇宙望遠鏡によるSMACS 0723-73の観測データを早速分析した結果、観測史上最も遠い天体「CEERS 93316」がこの領域で見つかりました(赤方偏移z=約16.74、今から約135億7000万年前の天体)。その後もウェッブ宇宙望遠鏡の観測データからは、観測史上最遠クラスの銀河が続々と見つかっています。

なお、ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない近赤外線や中間赤外線の波長で主に観測を行うため、画像の色は赤外線の波長に応じて着色されたものとなります(以降の画像も同様)。

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【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した惑星状星雲「NGC 3132」。左右ともに近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)で取得したデータをもとに作成された画像で、異なる波長のデータを組み合わせているために左右で違う姿に見えている(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Orsola De Marco (Macquarie University); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した惑星状星雲「NGC 3132」。左右ともに近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)で取得したデータをもとに作成された画像で、異なる波長のデータを組み合わせているために左右で違う姿に見えている(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Orsola De Marco (Macquarie University); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))】

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こちらは「ほ座」の方向約2000光年先にある惑星状星雲「NGC 3132」です。その姿から「南のリング星雲(Southern Ring Nebula)」や「8の字星雲(Eight-Burst Nebula)」とも呼ばれています。NGC 3132も7月12日に高解像度画像が初公開された天体の1つです。

この画像はウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)で取得された様々な波長のデータをもとに、左は中心にある連星を取り囲む高温のガスが、右は星から放出された物質の流れが際立つように、それぞれデータの組み合わせ方を変えて作成されています。ウェッブ宇宙望遠鏡などの観測データを研究者が分析した結果、NGC 3132の複雑な構造の形成には2つ以上の伴星が関わってた可能性が示されました。

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【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)で撮影された「わし星雲」の“創造の柱”(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, J. DePasquale (STScI), A. Pagan (STScI), A. M. Koekemoer (STScI))】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)で撮影された「わし星雲」の“創造の柱”(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, J. DePasquale (STScI), A. Pagan (STScI), A. M. Koekemoer (STScI))】

いっぽう、こちらは「へび座」の方向約6500光年先にある「わし星雲」(Messier 16、M16)の一部を捉えた画像です。この領域は「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した画像がよく知られていて、暗黒星雲が柱のような形をしていることから「創造の柱(Pillars of Creation)」と呼ばれています。

ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)の観測データを使って作成されたこの画像には、柱のように見える分子雲や、その中で形成されつつある新しい星、そしてガスと塵を吹き払って光を放つ若い星が写っています。研究者はウェッブ宇宙望遠鏡による創造の柱の観測が星形成モデルを改良につながると期待しています。

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【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ「NIRCam」を使って撮影された海王星(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI; IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI))】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ「NIRCam」を使って撮影された海王星(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI; IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI))】

ウェッブ宇宙望遠鏡が観測するのは太陽系外の天体ばかりではありません。こちらはウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)を使って取得された海王星の姿です。人の目で見た海王星は深い青色ですが、この画像は赤外線の波長に応じて着色されているので印象が異なります。ウェッブ宇宙望遠鏡は海王星を取り囲む複数の環や、メタンの氷粒でできた雲などを鮮明に捉えました。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で撮影されたタイタン(注釈付きバージョン)(Credit: NASA, ESA, CSA, A. Pagan (STScI), JWST Titan GTO Team)】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で撮影されたタイタン(注釈付きバージョン)(Credit: NASA, ESA, CSA, A. Pagan (STScI), JWST Titan GTO Team)】

また、こちらはウェッブ宇宙望遠鏡が観測した土星の衛星タイタンです。左は下層大気の特徴を示す1つの波長のデータを、右は表面や大気の特徴を示すために複数の波長のデータを使って、それぞれ作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡はタイタンの大気中の厚いヘイズ(もや)を透かして、メタンの湖や反射率が異なる地形、大気に浮かぶ雲を捉えています。

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※ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測については「前半:宇宙開発ニュース編」でもお伝えしています。

■月が天王星を隠す「天王星食」も同時に起きた11月の「皆既月食」

【▲ 2022年11月8日19時59分に撮影された、食の最大を迎えた皆既月食。撮影:長山省吾さん(Credit: 国立天文台)】

【▲ 2022年11月8日19時59分に撮影された、食の最大を迎えた皆既月食。撮影:長山省吾さん(Credit: 国立天文台)】

人類にとって身近な天体である月。今年は2022年11月8日に皆既月食がありましたが、月が天王星を隠す「天王星食」も同時に起きためずらしい天体ショーとなりました。

月が惑星を隠す「惑星食」そのものは決してめずらしい現象ではありません。日本から見えるものに限定しても2022年は5月27日に金星食、7月22日に火星食が起きています。しかし、月食と同時に起こる惑星食はめずらしく、“月食中”の惑星食が日本で観測できるのは2014年10月の天王星食以来8年ぶり、“皆既食中”の惑星食に限定すれば1580年7月の土星食以来実に442年ぶりのことでした。

【▲ 2022年11月8日20時37分に撮影された、皆既月食と天王星。撮影:長山省吾さん(Credit: 国立天文台)】

【▲ 2022年11月8日20時37分に撮影された、皆既月食と天王星。撮影:長山省吾さん(Credit: 国立天文台)】

こちらは国立天文台が公開した皆既食中の月の画像です。皆既食が終わりつつある月の左隣を見ると、月に隠され始める前の天王星が写っています。

天王星の明るさは肉眼で見える限界の約6等級と暗く、普段は月の明るさに圧倒されてしまいますが、皆既食中の月は暗いので天王星食を比較的観測しやすい条件となりました。次に月食中の惑星食を日本で見られるのは322年後(2344年7月26日に起きる皆既食中の土星食)ということもあって、このチャンスを逃すまいと観望した人も多かったのではないでしょうか。

なお、国立天文台は当日にライブ配信を行った他に、次のダイジェスト動画も公開しています。皆既月食&天王星食の希少なコラボレーションを改めて楽しんでみませんか?

【▲ 2022年11月8日の皆既月食および天王星のダイジェスト動画】
(Credit: 国立天文台)

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■赤い惑星「火星」の理解がより深まる

【▲ 海が存在していた頃の火星を描いた想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser/N. Risinger (skysurvey.org))】

【▲ 海が存在していた頃の火星を描いた想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser/N. Risinger (skysurvey.org))】

NASAが月の次に見据える有人探査の対象である火星。今年も火星に関する知見がさらに積み重ねられました。

現在の火星の大気は希薄で、表面は寒く乾燥していますが、古代の火星には海があったと考えられています。なぜ海が形成されるほどの水が液体の状態で表面に保たれたのか、その理由は当時の火星が厚い水素の大気を持っていたからではないかとする研究成果が発表されました。研究チームによると、地球に飛来した火星隕石と、NASAの火星探査車が火星表面で採取したサンプルにそれぞれ含まれている水のD/H比(水素に対する重水素の比率)の違いを説明することもできるといいます。

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【▲ NASAの火星探査機「バイキング1号」の着陸機が撮影した着陸地点周辺の様子(Credit: NASA/JPL)】

【▲ NASAの火星探査機「バイキング1号」の着陸機が撮影した着陸地点周辺の様子(Credit: NASA/JPL)】

また、探査機が取得した画像やシミュレーションを利用して分析を行った結果、1976年に火星へ着陸したNASAの探査機「バイキング1号(Viking 1)」は津波堆積物の上に降りていたとする研究成果も発表されています。この津波は34億年前に発生した天体衝突によって引き起こされたとみられており、バイキング1号は傾斜地を遡上した津波が運んだ堆積物の上に着陸したと研究チームは考えています。この成果もまた、古代の火星に海があった証拠のひとつと言えます。

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【▲ NASAの火星探査機マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)によって撮影された火星の新しい衝突クレーター。直径約150m・深さ約21m(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】

【▲ NASAの火星探査機マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)によって撮影された火星の新しい衝突クレーター。直径約150m・深さ約21m(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】

火星表面から水は失われてしまったものの、極域で氷床を形作っていたり、場所によっては表面下ごく浅いところに氷として埋蔵されていたりします。NASAの火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」が撮影した最近形成された衝突クレーターの周辺には、推定幅5~12mの隕石が衝突した時に散乱した水の氷とみられる塊が幾つも捉えられており、将来の有人探査にも影響する発見だと注目されています。

火星の海が失われたのは、火星から磁場が消えたことで大気が太陽風によって剥ぎ取られたからだと考えられています。2月にはどのようにして火星から磁場が失われたのかを推定した新たな研究成果が国内の研究者を中心とするチームから発表されています。

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【▲ 火星の地下深くから上昇し、エリシウム平原を押し上げるマントルプリューム(マントルプルーム)のイメージ図。中央の割れ目の集まりはケルベロス地溝帯で、その奥にはNASAの火星探査機インサイトも描かれている(Credit: Adrien Broquet & Audrey Lasbordes)】

【▲ 火星の地下深くから上昇し、エリシウム平原を押し上げるマントルプリューム(マントルプルーム)のイメージ図。中央の割れ目の集まりはケルベロス地溝帯で、その奥にはNASAの火星探査機インサイトも描かれている(Credit: Adrien Broquet & Audrey Lasbordes)】

いっぽう、火星は今も地質学的に活発だとする研究成果も発表されています。NASAの火星探査機「インサイト(InSight)」が検出した火星の地震(火震)の大半は、エリシウム平原にあるケルベロス地溝帯を震源としています。研究チームによると、エリシウム平原の下に幅約4000kmの巨大なマントルプリューム(マントルプルーム、地下深くから上昇してくる高温物質の流れ)が存在しなければ、ケルベロス地溝帯の形成を説明することができないというのです。

また、前述の衝突クレーターが示すように火星では表面下浅いところに水の氷が埋まっている場合もありますが、インサイトの着陸地点では地下300mまで水がほとんど存在しないとする研究成果も発表されています。インサイトの着陸地点には火星の低地を代表する平坦な場所が選ばれたといいますが、実際には特徴的な性質を持つ場所だったようです。

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【▲ NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した最後のセルフィー。2022年4月24日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

【▲ NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した“最後のセルフィー”。2022年4月24日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

こうした火星内部の様子を探る研究で貴重な観測データをもたらしたインサイトは、太陽電池に塵が積もり続けたことで電力が不足し、今年12月に4年間の探査活動を終えました。

2018年11月27日に火星のエリシウム平原に着陸したインサイトは、ロボットアームを使って着陸翌月の2018年12月に火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」を設置。2019年4月に史上初めて火星の地震(火震)を検出して以来、ミッション終了までに合計1319件の地震が検出されました。SEISの観測データをもとに、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ、地殻の厚さなどが判明しています。

ミッションは終了しましたが、インサイトの活動で得られた観測データは今後の研究でも活用されていくことでしょう。

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文/sorae編集部

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