サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学のFabio Falchiさんを筆頭とする研究チームは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」があるハワイのマウナケア山頂や、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」があるパラナル天文台など、世界各地の天文台に対する光害(ひかりがい)の影響を調査した研究成果を発表しました。
研究チームは28か所の主要な天文台(口径3m以上の望遠鏡を運用中もしくは建設中)を含む約50か所の天文台について、自然光に対する人工光の比率を調べました。その結果、主要な天文台における天頂の放射輝度について、人工光の比率が1パーセントを下回ったのはパラナル天文台やマウナケア山頂など7か所で、他の21か所では1パーセントを上回っていることがわかりました。
いっぽう、望遠鏡を指向できる高さの下限にあたる地平線から30度の高度における平均放射輝度については、人工光の比率が1パーセントを下回ったのは28か所のうち、オーストラリアの天文台1か所のみでした。また、3分の2にあたる18か所の天文台では、国際天文学連合(IAU)が1970年代に設けた10パーセント以下の増加という制限をすでに上回っているとしています。
主要な天文台以外のロケーションも含めると、光害の影響が最も小さかったのはナミビア共和国のTivoli Astro Farmだったといいます。最近この場所を訪れたというFalchiさんは「今まで見た中で最も光害の影響が少ない場所であることを確認できました」とコメントしています。ちなみにTivoli Astro Farmは、グリニッジ王立博物館の天体写真コンテスト「Astronomy Photographer of the Year 2022」で総合優勝に輝いた「レナード彗星(C/2021 A1)」の写真が撮影された場所でもあります。
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個別のケースのひとつとして、研究チームはチリの高速道路5号線に設置された照明に言及しています。5号線の照明はラスカンパナス天文台とラ・シヤ天文台に影響を及ぼす人工光の約半分を占めており、仮に5号線の照明をすべて取り除けば、ラスカンパナス天文台で建設が進められている大型望遠鏡「巨大マゼラン望遠鏡(GMT)」の光害を半減できるといいます。研究チームは今回の成果について、天文台に対する光害の軽減策を計画する上で役立つとしています。
なお、Falchiさんたちによる今回の研究では、地球を周回する人工物の反射光による影響は考慮されていません。2021年にはスロバキア科学アカデミーのMiroslav Kocifajさんを筆頭とする研究チームが、地球を周回する人工衛星や宇宙ゴミ(スペースデブリ)などの人工物が増加することで、夜空が10パーセント以上明るくなる可能性を指摘する研究成果を発表しています。
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研究チームはKocifajさんたちの成果をもとに、地球周辺の人工物による光害を含めれば、地表から見えるすべての夜空がすでにIAUの制限を超えていることになると指摘しています。
Source
- Image Credit: Dr Fabio Falchi, Falchi et al.
- Royal Astronomical Society - Three quarters of major observatories affected by light pollution
- Falchi et al. - Light pollution indicators for all the major astronomical observatories (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)
文/松村武宏