太陽のような軽い恒星は、寿命の最期に「白色矮星」というコンパクト天体を残します。白色矮星は直径が地球ほどしかないものの、質量は太陽と同じくらいという、非常に高密度で表面重力の強い天体です。この重力の強さによって、白色矮星の表層部では元素の分離が強く発生します。

白色矮星の本体には恒星だった頃の核融合反応で生じた酸素や炭素が存在する一方で、表層部には水素とヘリウムでできた大気が存在すると見られています。軽い元素である水素やヘリウムは白色矮星の最表層部に存在できる一方で、それよりも重い元素は強い重力に引き寄せられ、白色矮星の内部へと入り込んでしまいます。このため、白色矮星の大気を観測すると、原則的には水素とヘリウムしか検出されないはずです。

ところが現実には、高温の白色矮星の大気からは水素とヘリウム以外の重い元素も見つかっています。特に、28番元素の鉄よりも重い元素は十数種類発見されており、2005年に3つの白色矮星からゲルマニウムが見つかって以降は、新しい元素の発見が連続して報告されています。

宇宙望遠鏡科学研究所 (STScI) のPierre Chayer氏らの研究チームは、表面温度が約5万℃という高温の白色矮星「HD 149499B」の大気成分を観測しました。その結果、55番元素の「セシウム」を、白色矮星の大気から初めて検出することに成功しました。その存在量はヘリウムとの比率で「-5.45」であると測定されています。これは、「ヘリウムの数万分の1程度の割合でセシウムが存在する」ことを示しています。

【▲ 図: 白色矮星に重い元素が存在すること自体も謎ですが、これは白色矮星を周回していた岩石惑星が衝突することによって供給された、と考えられています。しかし、白色矮星の強い重力では短期間しか表面に存在しないはずであり、なぜ長期間存在するのかは謎に包まれています。 (Image Credit: CfA/Mark A. Garlick) 】

【▲ 図: 白色矮星に重い元素が存在すること自体も謎ですが、これは白色矮星を周回していた岩石惑星が衝突することによって供給された、と考えられています。しかし、白色矮星の強い重力では短期間しか表面に存在しないはずであり、なぜ長期間存在するのかは謎に包まれています。 (Image Credit: CfA/Mark A. Garlick) 】

これまでの観測では、白色矮星の大気で検出された鉄よりも重い元素の量は、恒星の大気と比較して過剰に多いことが知られています。例えば大気からゲルマニウムが検出された白色矮星「Feige 86」では、金と白金が太陽と比較して3倍から1万倍も多く含まれています。今回、セシウムでも同様に過剰な存在量が観測されたことで、白色矮星の大気に重い元素が過剰に存在することは一般的であると考えざるを得ません。

一方で、白色矮星の強い重力は、重い元素を大気から本体へと短期間で沈み込ませてしまい、スペクトル解析では元素の存在が隠されてしまうはずです。重い元素の供給源そのものは、最近になって白色矮星に衝突した岩石惑星 (もしくはその残骸) の可能性があるものの、これらすべての白色矮星でつい最近衝突が起きたというのは、あり得そうもないほどの偶然です。したがって、白色矮星の大気中に重い元素が存在するためには、白色矮星の強い重力に逆らって重い元素を “浮揚” させる力が必要となるはずです。

現在、白色矮星で重い元素が見つかる理由の有力な候補は「放射浮揚 (Radiative Levitation)」です。原子は白色矮星のように高温の環境ではイオン化して、イオン化していない (中性の) 時よりも光子 (電磁気力を媒介する素粒子) を吸収しやすくなります。吸収された光子のエネルギーの一部が原子の運動エネルギーに変換されることで、原子が “蹴り上げられ” 、大気中に存在できるようになります。この効果は、特に重い元素であるほど強くなる傾向にあります。また、放射浮揚による光子の吸収効果は波長が短いほど強く働くため、波長の短い光子を多く放出している高温の白色矮星で見られることとも一致します。

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放射浮揚は長年に渡る有力候補ではあるものの、その裏付けとなる決定的な証拠や観測結果はまだありません。実際に放射浮揚が起きている場合は極紫外線やX線が吸収されるため、その波長で観測を行えば予測される放射量と比べて大幅に暗く見えるはずであり、今後の観測によって証明される可能性があります。

 

Source

文/彩恵りり

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