恒星の中心部では核融合反応によって元素が生成されていますが、鉄より重い元素は恒星中心部では生成されません。なぜかといえば、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されず、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。このため鉄より重い元素は、赤色巨星におけるs過程、超新星爆発、中性子星同士の合体といった様々なルートで合成されたと推定されていますが、どの反応がどれくらいの割合で元素を生み出しているのかは、まだよくわかっていません。

中性子星同士の合体の想像図。超高密度な中性子星同士の合体は、宇宙で最もエネルギッシュな元素合成の現場となりえる。 (Image Credit: 東北大学)

【▲ 図1: 中性子星同士の合体の想像図。超高密度な中性子星同士の合体は、宇宙で最もエネルギッシュな元素合成の現場となりえる。 (Image Credit: 東北大学) 】

中性子星同士の合体は、重い元素を生み出す現場としてこれまで有力視されてきました。その名の通り、中性子星は全体のほとんどが中性子でできており、直径十数kmの “原子核” と例えられるほどの超高密度な天体です。このような中性子星同士が衝突して合体すると、瞬間的に発生する高温高圧によって核反応が進行し、重い元素が生じると考えられています。

しかし、中性子星同士の合体では、物質が光速の数パーセント以上という速度で宇宙空間へと放出されます。遠い宇宙にある物質の組成を調べるにはスペクトル (電磁波の波長ごとの強さ) の分析が必要ですが、超高速の運動はスペクトルのピークをずらすドップラー効果を生じさせるため、物質の正体が分かりにくくなってしまいます。また、そもそも重い元素はこの宇宙に少ないことから、重い元素のスペクトルがどのような性質を持っているのかも正確には明らかになっていません。このため、ドップラー効果によって生じたスペクトルデータのズレを補正しようにも、どのように解釈すればよいのか分からないケースも多数あります。そのうえ、重い元素は絶対量が少なくても、その種類は極めて多様であると予測されます。元素それぞれのスペクトルデータは重なってしまうため、どの値がどの元素を示すのかが分からなくなってしまうことも、解析を難しくさせている理由になっています。

東北大学の土本菜々恵氏らの研究チームは、「GW170817」という重力波イベントのスペクトルデータを解析しました。GW170817は重力波望遠鏡のLIGOとVirgoによって観測されましたが、その後世界中の望遠鏡が観測を行ったことで、重力波源としては初めてX線から電波に至る、あらゆる波長の電磁波でも観測することに成功しました。この観測により、GW170817は地球から約1億3000万光年離れた銀河「NGC 4993」で発生した中性子星同士の合体によって生じた重力波であり、観測された電磁波は中性子星どうしの合体によって発生すると予測されていた爆発現象「キロノバ(キロノヴァ)」にともなって放出されたことが確認されました。このため、GW170817は「AT2017gfo」という超新星のカタログ名も持っています。

【▲ 図2: 温度が5700℃、速度が光速の16%と仮定した時、観測できる可能性のある計算上のスペクトルデータ (青線) 。データには吸収されたことを示す凹みがいくつかの部分にあり、矢印はカルシウム (青) 、ストロンチウム (赤) 、ランタン (ピンク) 、セリウム (黄) を示している。 (Image Credit: Domoto, et.al.) 】

【▲ 図2: 温度が5700℃、速度が光速の16%と仮定した時、観測できる可能性のある計算上のスペクトルデータ (青線) 。データには吸収されたことを示す凹みがいくつかの部分にあり、矢印はカルシウム (青) 、ストロンチウム (赤) 、ランタン (ピンク) 、セリウム (黄) を示している。 (Image Credit: Domoto, et.al.) 】

土本氏らが行ったのは、近赤外線領域で取得された未解読のスペクトルデータでした。この部分は知見が十分ではなく、どのような物質の情報が含まれているのかがわかっていませんでした。

その一方で、特に元素の周期表で左側にある元素は、スペクトルに顕著な吸収線を生成する傾向が強く、未解読の領域に存在する元素の有力な候補でした。実際、可視光線の領域ではキロノバで生成されたストロンチウムを示すデータが検出されています。

【▲ 図3: 下の青色線が計算上のスペクトルデータ、上の灰色線が実際に観測されたGW170817のスペクトルデータ。3本あるのは、衝突から1.5日後、2.5日後、3.5日後に観測されたそれぞれのデータを利用していることを示す。既に知られているストロンチウムに加え、ランタンとセリウムを示す吸収帯が存在することが分かった。 (Image Credit: Domoto, et.al.) 】

【▲ 図3: 下の青色線が計算上のスペクトルデータ、上の灰色線が実際に観測されたGW170817のスペクトルデータ。3本あるのは、衝突から1.5日後、2.5日後、3.5日後に観測されたそれぞれのデータを利用していることを示す。既に知られているストロンチウムに加え、ランタンとセリウムを示す吸収帯が存在することが分かった。 (Image Credit: Domoto, et.al.) 】

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先述の通り、スペクトルデータの解読では様々な問題が妨げになります。そこで土本氏らは、国立天文台が所有する天文学専用のスーパーコンピュータ「アテルイII」を使用し、すべての重い元素が示す可能性のあるスペクトルデータを網羅的に調べました。その結果、すでに可視光線領域の分析で見つかっていたカルシウムやストロンチウムとともに、ランタンセリウムを示す吸収帯が近赤外線領域の波長1.2µmから1.4µmに現れることと、計算上のデータがGW170817のスペクトルデータと一致することを確認しました。また、セリウムを示すデータが、よく似た性質の元素であるトリウムではないこともあわせて確認されました。

今回の研究では、中性子星同士の合体の現場でランタノイドが初めて発見されました。また、キロノバのスペクトルから重い元素のスペクトルデータを直接解析できたということは、他のキロノバの観測データにも適用できる可能性があります。さらに、今回の研究では検出できなかったアクチノイドなど、より多数の元素の発見につながる可能性もあります。

 

Source

文/彩恵りり

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